LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/10/18 下北沢 lete
出演:Alan Patton+小森慶子
(Alan
Patton:acc、etc.、小森慶子:cl,ss)
アラン・パットンのソロに小森慶子がゲストと告知。実際はデュオで、がっぷりかみ合うアンサンブルとなった。
こじんまりしたスペースに、二人の機材が並ぶ。
「まだ、始まってないですよ〜」
二人がステージで、サウンド・チェック。無造作な音の交換を聞く観客へ、小森がにっこり笑いかけた。
パットンの音楽ははじめて。バスキング風を予想したが、空間コーディネイトの発想もあった。
逆にアドリブの要素は控えめ。ソロもごく短い。チャンスがあっても、小森へさりげなくスペースを返していた。
主にアコーディオンを奏でる。さらにクラリネットやミュージック・ソウなど。
足元にはエフェクターのペダル。横のテーブルへカオス・パッドとエフェクターを用意し、曲によって小さなタンバリンなども使う。バラエティ豊かだった。
小森は足元にエフェクターを二種類準備した。
クラリネットは完全に生音、ソプラノ・サックスにマイクを仕込む。彼女は今夜、目深な帽子で表情を伺いづらい。
エフェクター類はパットンのミキサーで調整か。後半で使おうとしたとき、若干エフェクタの効果を聴きづらい場面もあった。
なおパットンはクラリネットから音楽をはじめ、作曲はクラリネット+アコーディオンのアンサンブルを想定という。だから今夜は理想だ、と喜んでいた。
小森もクラリネット2本でのライブは初めて、と微笑む。
ライブは総じて寛いだ空気。鷹揚なパットンと、コミカルに場を盛り上げる小森の醸す雰囲気からか。
まずアコーディオンとクラリネットで2曲。映画のサントラをパットンが採譜した曲と、小森のオリジナル"マルシェ"を。
パットンはアコーディオンでコードを弾く。右手の鍵盤だけでなく、左側のボタンも操作し伴奏をつける。さらに鍵盤側のボディについたキーを、場面によって押し換えた。音色が違うのかな。アコーディオンの奏法に詳しくなく、詳細は不明。
旋律は小森の独壇場。優雅な即興をたっぷり聴けた。
さらに"マルシェ"では賑やかにステップを踏む。フレーズを吹きつつ右足を前後に踏み分け、小森は足一本の動きで軽やかなダンスを表現した。
それぞれエンディングはあっさり。パットンは無造作に鍵盤から指をはずし、コーダへ進む。あっけらかんさが、きっちり音楽を締める小森と対照的だった。
ロシアとルーマニアのトラッド、続いて即興を2曲。どの曲でも小森は果てしなくアドリブを繰り広げる。
バッキングのポジションながら、パットンもぐいぐいと存在感を出す。呼吸を伺うように小森を見つめ、半身でアコーディオンを弾いた。
曲によってパットンは野太く歌う。リバーブをたんまりかけ、足元のスイッチでループをつくる。さらに小さなメガフォンでがなった。
メガフォンはマイクから口を離し、リバーブのかけ方やループの響きも意識する。
カオスパッドに手を置いたがさほど使わず。声を出しながら、左手はアコーディオンのボタンでベース・パートを続ける。
鍵盤でメロディを弾くと、いわば擬似トリオ編成。音像の構築力やアレンジのセンスが興味深かった。
パットンはミュージック・ソウに持ち替え、幅広ののこぎりをたわませた。
メロディより効果音の発生装置っぽい。弓で軋ませる。いくつかのノイズをループで重ね、手早くミニマルでリバーブのかかった音場を作った。
おもちゃの笛を構え、ちょっと音を出す。
パットンは傍らのミキサーを軽くいじり、カオスパッドでノイズを揺らせた。
抽象的な音世界が広がる即興。聴き応えあって楽しめた
小森は座ったまま、くるりとステージへ背を向けた。かがむようにクラリネットを吹く。オクターバーで低音が導かれる。ディレイもかかっていたか。
後ろにマイクが仕込んであるようだ。かなり苦しい姿勢で一曲を吹ききった。
「あー。終わっちゃった」
唐突に音が切れる。パットンがぼそりとつぶやいた。
「もう一曲、やりましょ」
小森が提案、後ろのサックス・ケースをひっぱりだす。ソプラノ・サックスのボディに、小さなマイクがセッティング。これへ向かって吹いてたのか。
今度も前曲と同様のアレンジ。たちまち多重ループのバックをパットンが作り、そのままクラリネットへ持ち替えたと思う。
小森は足元のエフェクターを、吹きながら切り替える。サックスを踏まぬよう、おそるおそる足を伸ばし。
最後の曲は短め。やはりあっさりとエンディングへ行った。
パットンは流暢に日本語を操り、MCで小森との掛け合いも面白かった。
彼は菜食主義者なのに、肉を見るのは好きだという。イデオロギーの観点でベジタリアン化と思ってたから、新鮮な発言だった。
「きれいな石を見て、食べたいとは思わないでしょ。きれいな肉を見て食べようとしないのも、それといっしょ」
と、パットンは説明する。言いたいことはわかるが、ユニークな比喩だった。
後半は、パットンのオリジナルから。牧歌的でちょっと切ないメロディをアコーディオンで弾く。蛇腹の胴へプラスティックの虫を抱いた、赤ちゃん人形を載せた。虫はボタンでピカピカ光る。
妙に表情のリアルなので、小森は苦笑して首をパットンへ向ける。パットンは涼しい顔で人形の首を小森のほうへ戻して、笑いがとんだ。以前からのマスコットかも。
続く小森の曲"パストラル"が名演。
たしか3拍子の曲。ゆったり奏でるクラリネットがサビで切なく舞い上がる。アコーディオンと溶けたアンサンブルが、優雅に浮かんだ。
パットンはほとんどソロをとらず、小森をうまく支えた。
即興も数曲やった。小森とパットンのクラリネット・デュオが楽しい。
野太い音でリフを重ね、ときおり発展させるパットン。小森がアドリブでメロディを柔らかく奏でる。ときおり、ふわりと左手が宙を動いて。
さりげなく小森がリフへ移り、パットンへアドリブをうながす。コンパクトにフレーズをまとめると、すかさず小森の即興フレーズへ。
息の合ったクラリネット即興重奏が見事だった。
さらに小森はソプラノ・サックスを吹く。完全即興の曲だったと思う。今夜は一曲だけソプラノ、あとは全てクラリネット一本で通した。
いっぽうパットンは曲によって、口琴でコミカルな音を響かす。すぐさまサンプリングし、ディレイでループを作った。そのうえでソロをとらず、音場の構築でパートナーをたてるのが、パットンの個性みたい。
続いてがクレツマーだったかな。めまぐるしくメロディを駆け抜けた。パットンはユニゾンで鍵盤を押さえる。インテンポでももつれず、高速フレーズをなんなりと決めた。
最後がパットンの新曲、"レーニンの三輪車"。
「世界初演ね」
と、小森が微笑む。後半セット冒頭の人形が、またアコーディオンの胴へのっかった。
この曲も大陸のスケール大きさを感じさせるメロディだった。小森のアドリブも素敵。
ライブはここで終了。誕生日の観客がいたため、そのままステージで"Happy
Birthday"を演奏する。最初はインスト。
「歌えばよかったんだ!」
パットンが言うなり、マイクをいじる。カオス・パッドで飛ばしたかったらしい。
どうやらセッティングに手間取り、かまわず生声でもう一度歌い始めた。リバーブ風にビブラートを使って。
パットンの穏やかなアコーディオンの音色に、ふくよかなクラリネットが確かに似合う。無邪気なパットンの音楽世界へ、小森の柔軟性がうまくはまった。
自らのアンサンブル構築の観点で、小森も手ごたえあったようす。パットンとの再演をしたい、と喋っていた。
一里塚として、探りあいで終わらぬ構築度とさらなる可能性を提示したライブだった。