LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/10/13   西荻窪 音や金時

出演:nakatorma
 (アヤコ:vo、鳥谷竜司:tune lute, nyckelharpa、石田秀幸:kaval,etc.、石田みか:saz,tambura、高野橋舞子:vc,gadulka
    Guest:ミウラ1号 percussion

 ナカトルマのライブは初体験。北欧系の民族音楽バンドと予想してた。ブルガリアン・ヴォイスみたいな変拍子のきれいな音楽かな、と。
 実際にはまったく違った。・・・良い方向に。

 19時半に音金へ滑り込むと、すでにメンバーは板についている。ほどなくライブが始まった。客席はいっぱい。
 中央のステージ床へ座ってたアヤコがすっと立ち上がる。アカペラで朗々とハイトーン・ヴォイスを響かせた。
 倍音たっぷりのふくよかな鳴りに聴こえた。
 ふわあっと声が高らかに通った。メンバーが、柔らかく演奏を重ねる。

 この日は各メンバーがさまざまな民族楽器を使った。
 ニッケルハルパの鳥谷とカヴァルの石田以外はマイクを通した。ところがぼくの聴き位置だとサウンドが混在してしまう。
 いっそ全員がもっとボリューム上げる、PAバランスのほうが聴き易かったかも。
  
 初めて見たニッケルハルパの演奏に、まず惹かれる。
 14世紀頃からの楽器らしい。ハーディーガーディを首から提げた格好で、木製鍵盤がずらりと並ぶ。小さな弓で弾く響きはバイオリンのようだが、共鳴弦あるため音色は玄妙だ。
 折込チラシによると鍵盤が3列の37個、メロディ弦3本、ドローン弦1本、共鳴弦12本の構成という。
 鍵盤をどう押さえてるか良く見えず、ボディを撫ぜるのみで音程を変えているかのようだった。
 さらに曲によって、鳥谷は特製のリュート(世界に2本しかないとか)へも持ち替えた。

 石田のカヴァルはナイのように斜めに構える。
 ブルガリアなどの楽器で吹き口が無く、ただの筒構造だそう。筒が三つあって箱状の縦笛も吹いていた。南アフリカのペニー・ホイッスルと似た形か。甲高く音を貫き、ビブラートはほとんどかけない。
 ニッケルハルパやガドゥルカとユニゾンでオブリを吹くことが多かった。ちょっとボリュームが聴こえづらかったかな。

 ガドゥルカはブルガリアの弦楽器。
 バイオリンくらいの大きさだが、あごに挟まず手で下へぶら下げるようにして弦で弾く。9弦に見えるが、弾くのは3本。あとは共鳴弦だそう。
 演奏したのは高野橋。曲ごとにチェロと持ちかえる。低音リフとオブリの奏法を弾き分けたようだ。このバンドで唯一の低音パートながら、ベースと少々違ったアプローチみたい。より旋律寄りでアンサンブルへ加わる。

 ボリューム的に最もつらかったのが石田みかのサズやタンブーラ。
 灰野敬二がたまに演奏する撥弦楽器を、伝統音楽アプローチだとどう弾くのかが興味深かった。運指を見てると、コード弾きはあるが、むしろアルペジオやオブリを弾いているように見えた。
 いかんせんボリュームが小さい。アンサンブルの膨らみ役と推測するが、個々のアプローチまで聞き取れず。
 
 ゲスト扱いのミウラ1号はタブラを横に置き、カホンを指やブラシで叩く。
 さらにリムのみのコンガや各種シンバルを持ち込んだ。シェイカーをペダルへ付けた自作楽器で軽快なビートを作る。楽器は北欧と離れているが、サウンドは見事にはまってた。
 ベース楽器の無いナカトルマのアンサンブルを、カホンの低音で見事に幅広い響きへ展開させた。

 レパートリーも幅広い。最初に演奏した2曲は伝統音楽。ハンガリーだったか、ノルウェーだったか。短くあっという間に終わらせ、前半セットは伝統音楽の合間へオリジナルを数曲はさむ配分だった。
 1stセットは7曲前後演奏したか。MCで丁寧に曲目紹介をしてくれたが、メモを取っておらず。セットリストは割愛させてください。すいません。
 
 とにかく伸びやかなアヤコの声に惹かれる。ハイトーンと裏声を混在させ、上下に激しく動くメロディを軽々と歌った。アジアやバルカン、トラッドにも通じるメロディに感じた。
 体を軽く揺らし、朗々とアヤコは声を張った。

 演奏はかっちり。変拍子はあまり無かったと思う。ごく短いソロが入る程度。
 即興を控え、かっちりとアレンジした。全員譜面なしだが、ミウラ1号が軽々と曲にぴたり合った伴奏して舌を巻く。ゲストといっても、頻繁に活動してるのかな。
 曲によってミウラ1号はダルブッカを持つ。
 左手でリムを叩き、右手のひらの横で切るように打面を押さえる。叩きながらすいっと右手をあげる、ベンド奏法がきれいだった。

 エンディングもあっという間。盛り上がったところでサクッとコーダへ行ってしまう。
 1stセット最後はインストから歌物へメドレーで。アヤコはステージ手前に腰掛け、鳥谷が中央でニッケルハルパを高速フレーズで操る。無造作だが、旋律はかなりのテンポだった。

 あのテクニックならソロ回しで演奏を膨らますことが可能だろう。さまざまな曲を演奏するのがコンセプトかな。
 とにかく1stセットはアヤコの歌声を楽しみながら、さまざまな見慣れぬ楽器の演奏風景を眺めてるうちに、あっという間に終わった。時間も40分弱と短かい。

 後半セットはオリジナルがほとんどの選曲。おそらく北欧音楽を下敷きにめまぐるしく展開するメロディに、日本語が歌詞がスピーディに弾んだ。 
 脳天から声を噴出すようなアヤコの歌は、ほとんどピッチが揺れず旋律を奏でた。

 2曲メドレーのあと、長めのMC。観客に楽器奏者が多いそうで、民族楽器をふんだんに含む自己紹介がぐるりと回った。

 後半セットは1時間弱。次々と演奏するスタイルで、オリジナルをばんばん披露した。CDリリースしないかなあ。
 スケール大きいアレンジを、弦楽器をメインで構築する。鍵盤楽器のような和音進行がほとんど無い。

 かろうじて、石田のタンブーラや鳥谷がリュートを弾くくらい。さらに低音楽器も無い。
 すなわち擦弦と撥弦楽器メインのアンサンブルによる、単音の積み重ねでしゃきっと涼しげな響きが心地よかった。ユニゾンで行く場面も多かったので、なおさら。

 曲によっては鳥谷と石田みかがコードをかき鳴らしブレイク。高野橋のチェロや石田のカヴァルへ無伴奏ソロを振る、ダイナミックなアレンジもあり。
 メリハリ効いたアレンジを施した。
 アヤコのほのぼのしたMCで雰囲気も柔らかく、寛いだライブになった。

 アンコールが飛ぶ。アヤコは上目遣いに、
「ほんまに聴きたいですか?」
 と、つぶやいて笑わせる。「では、最終曲は・・・」と曲紹介を始めてしまう。
「アンコールだろっ」
 すかさず、鳥谷につっこまれていた。
 なお、鳥谷とアヤコが三重の出身。関西での活動がメインだろうか。
 最後もインスト曲をシャープに響かせ、アヤコが加わって一曲、と思う。

 おっとりした演奏が心地よい。アプローチはポップス寄りで、アヤコを前面に出す。だからこそ、時折のインスト曲で鳥谷らが見せるアンサンブルが聞き物だった。
 北欧音楽を踏まえ、独自のサウンドの志向が頼もしい興味深いバンドだ。音世界が気持ち良い。またライブを聴きたい。

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