LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/10/5   大泉学園ゆめりあホール

   〜耳を開く:1 最前線の室内楽〜
出演:黒田京子トリオ、サキソフォビア

 黒田京子が主催するホール・イベントの1回目。大雨の中、盛況な入りだった。黒田がラフな服装で登場、軽く前説。さっそくサキソフォビアを呼んだ。
 ホールの後ろから、サックスの音がする。スティーヴィー・ワンダーの"Living for the city"吹きながら客席をゆっくりと歩き、そのままステージへあがった。

サキソフォビア
(井上JUJU博之:bs,fl,ss、緑川英徳:as、岡純:ts,篠笛,fl、竹内直:ts、b-cl)

 全てマイク無しで演奏された。4人は思い思いの格好。黒尽くめの井上がかっこよかったな。
 彼らの演奏を聴くのは2度目。前回はアンサンブルに耳が行って気づかなかったが、かなりアドリブ部分が多いと実感した。

<セットリスト>
1.Living for the city
2.Blindman in brightness
3.Just squeeze me
4.ハナ
5.Naima
6.雨降りシンフォニー
7.Fancymen in darkness
8.Psychedelic Sally
9. ?

 行進からそのまま"Living for the city"を吹く。スタッカートでバリサクがリズムを刻むほかは、滑らかにサックスがハーモニーを奏でる。音が重なり、ソロと伴奏が絡んだ。
 ジャジーなオリジナル"Blindman in brightness"。テーマのふくよかさもさりながら、竹内を前面に立てソロも目立たせた。循環呼吸から、すさまじいフラジオへ。喝采を浴びる。

 サキソフォビアをブッキングしたのは、黒田が10年前ほどから彼らの音楽性に共感を覚えていた、というのが理由だろう。
 さらに生楽器編成であり、アドリブながらも非常にアレンジされたバンドなのも理由のひとつかなあと、聴きながら思っていた。つまりとことんフリーに展開する黒田京子トリオとの対比で、両極な"室内楽"のアピールを試みたのでは。考えすぎだろうか。

 サキソフォビアは相当細かいところまでアレンジしている。演奏はもちろん、ステージ進行まで。"雨降りシンフォニー"の冒頭にアカペラで歌うシーンでは、"今日の演奏は・・・"と、過去の演奏と比較する、常連らしい観客の呟きが聴こえた。
 "Fancymen in darkness"でテーマにブレイクをはさみ、"ダルマさんが転んだ"状態で無茶なポーズを決めるさまが、その最たるところだろう。かなり練られている。

 約1時間の演奏。さくさく曲が進む。オリジナルとカバーを半々にした構成だ。
 岡が篠笛、井上がフルート、竹内がバスクラへ持ち替えた、コルトレーンの"Naima"が心地よかった。イントロは篠笛の無伴奏ソロ、中盤ではバスクラが無伴奏でアドリブをとる。日本情緒をかすかに漂わせ、切々とメロディが漂う。低音楽器がバスクラのみとなり、重心軽いサウンドが楽しい。

 このホールは高音がけっこう響き、ときにサックスが薄く聴こえてしまう。中域がふくよかなほうが好みなんだが。
 天井高く残響もまずまず。音量のバランスは各自がダイナミクスを調整していたようす。ノリ始めると、とたんに全員の音が大きくなった。

 ホレス・シルヴァーの"Psychedelic Sally"も、管4本だけのアレンジが、とびきり爽やかに疾走した。緑川がたっぷりアドリブを取ったのはここか。ソロとバッキングの展開が、すぱっと譜面アンサンブルへ切り替わる瞬間が痛快だった。

 最後は曲名不明を吹きながら、ゆったりと袖へ去った。
 ちなみにステージ上には井上のソプラノと岡のフルートが置いたまま。吹かないのかなあ・・・と思ったら、この理由は最後に明かされた。
 
黒田京子トリオ
(黒田京子:p,acc、翠川敬基:vc、太田惠資:vln,voice)

 ドレスに着替えた黒田らがステージへ。太田は白と黒できっちり着飾った服装。翠川もしゃれたシャツに革靴の、きっちりステージ衣装体勢だった。
 こちらも全員が生音。チェロの音が消えないか不安だったが、前方席で聴いてたせいか、ほぼ大丈夫だった。

<セットリスト>
1.20億光年の孤独
2.hindehinde
3.ホルトの樹 (新曲)
4.Gumbo-soup
5.Para cruces  

 まず黒田のオリジナル"20億光年の孤独"から。ゆったりテンポのイントロからテーマへ動く。ピアノの響きがきれいだった。音が丸く弾み、空気をかき回す。上からぽーんと降りそそぐようだった。雄大さがホール演奏で強調される。
 不利だったのはやはりチェロか。エンドピンをしならせるように弾くが、ピアニッシシモでは、やはり聴き取りづらい。バイオリンはそこそこ聴こえたが、ピアノが大きく鳴ると、若干音が消される。
 もっともこの日の太田は、主催者の黒田を立てたかピアノへ積極的にソロを促すように見えた。むろn隙間が開くとすかさず切り込む、勘の鋭さも随所で見せる。

 弦2本のからみが"hindehinde"では美しい。ホールの残響に包まれ、ふくよかに広がった。ピアノがするっと滑り込む瞬間が刺激あり。翠川も太田も力がこもり、弓をほつらせる。ソロよりも、互いのアンサンブル志向と感じた。

 圧巻は黒田の新曲"ホルトの樹"。数日前に作ったという。
 演奏前にさらうそぶりの翠川が笑いを呼ぶが、いったん始まると、ぴんと空気が引き締まった。
 ピアノとチェロが奏でるテーマは、親しみやすくスケール大きい。メロディが優しい雰囲気を帯びて展開した。かぶさってバイオリンが入る。鳥の鳴き声を模して高音をひねったのはここだったろうか。
 アドリブもピアノがたっぷりと。ホールの大きな空間を、見事に三人のアンサンブルが濃密な音世界で埋め尽くした。

 翠川はホールでも気負わず、大胆なダイナミクスを存分に繰り出す。
 フラジオを多用し、時に高音を鋭くかきむしる。音が聴こえづらいときもあったのが残念。

 翠川の曲"Gumbo-soup"では、太田のホーメイも。ひとしきり唸ったあと、
「後ろのほうまで聞こえてますか?・・・私、国を間違っておりました。この曲はアフリカでした!」
 太田が、大声で宣言して観客が大笑い。黒田は時折耳を押さえながら、ピアノを離れて体を揺らす。アコーディオンを持って、ソロをゆるり奏でた。

 最後は"Para cruces"。テーマはかなりゆっくりなテンポ。ソロはたいがい太田の高音が滑り込む。ところが太田はすかさずピアノへ視線を投げて、アドリブを黒田へ。
 ひときわ強く鍵盤が叩かれ、活き活きとしたアドリブが疾走した。

 約50分ほどのステージ。
 黒田がマイクを持ち、サキソフォビアを呼んで競演を告げた。

黒田京子トリオ+サキソフォビア

<セットリスト>
1.パンチ・パーマちりちり(?)
2.REINCARNATION OF A LOVE BIRD(?)

 上手の扉が開くが、サキソフォビアは姿を現さない。アカペラで"パンチパーマ♪"と袖で歌うのが聴こえる。前に聴いたライブでもやった、彼らのオリジナル曲。タイトルはあやふやですが、最後に"ちりちり♪"と付け加える。今回もやはり、観客へ掛け声を促していた。
 太田が面白がり、きっちり段取りにのって"ちりちり!"と叫んでた。

 下手に固まった黒田京子トリオは、やはり弦2本が音量バランス的に厳しい。ホーン隊4人とピアノ相手では苦しいな。
 ピアノだけの伴奏で、何人かがサックスのソロをとったと思う。

 最後はミンガスの曲。初めて聴くがタイトル紹介から推測すると、"REINCARNATION OF A LOVE BIRD"かな。
 黒田京子トリオのレパートリー・・・たとえば"Check I"をホーン用にアレンジ、爽快にサックス隊がリフをぶちかますのを期待してただけに意外な選曲だった。サキソフォビア寄りのレパートリーだろうか。

 青白く軽やかなアンサンブルは素直に心地よい。井上はソプラノ、岡がフルートに持ち替えた。エンディングはかなり盛り上がったが、弦がほとんどかき消されてたのが惜しい。
 
 アンコールの拍手は無論飛ぶが、黒田が「アンコールの曲は準備してないです〜」とつげ、素直に終わった。このメンバーで完全フリーをやるのは、さすがにとっちらかるのかな。
 それぞれ特徴的な楽器編成、しかも生音で勝負できる二つのバンドが対比して聴ける、有意義なコンサートだった。

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