LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/10/3   西荻窪 音や金時

出演:太田恵資+藤掛正隆
 (太田恵資:vln,voice、藤掛正隆:ds)

 太田恵資と藤掛正隆のデュオは初めてだそう。藤掛の演奏は初体験。強烈なインプロが聴けるかとわくわくして聴きにいった。
 店内へ入るとちょうどサウンド・チェックのまっただなか。太田はアコースティックとエレキの両方を持ち込む。メガホンを準備してたが使わず。タールも無し。あくまでバイオリンだけで勝負した。
 藤掛は1タムのシンプルなセット。大口径のバスドラをボアの大きなビーターで踏む。えらく低音が心地よく響いた。さらにフロアタムを2個。音程を変え叩き分ける。ティンパニのような鳴りだった。

<セットリスト>
1.即興#1
2.即興#2
(休憩)
3.即興#3
4.即興#4
(休憩)
5.即興#5
6.即興#6

 あんまり意味のないセットリストかもしれませんが。各セットは30〜40分程度。あまり長くやらず、きびきびした進行だった。
 ほぼひとつながりで1stセットをやったあと、太田が3セット構成をいきなり宣言。凝縮した即興合戦を狙ったか。

 まず藤掛がフロアタムの表面を指先でこすり、鈍く低音を響かせる。太田はしゃくりあげるフレーズをエレクトリックで出す。じきにサンプリング・ループされた。
 太いマレットを持った藤掛が、フロアタムでシンプルなビートを提示する。今夜はほぼ、このパターン。
 フィルや連打を控え、あくまでもテンポは一定。時折アクセントを変えて、リズムに幅を出す。豪腕骨太なリズムをずっしり叩いてあおった。
 太田も楽しそうに受け止め、奔流のようにメロディを繰り出す。べらぼうにスリリングでロック色の強いインプロ満載だった。

 "即興#1"では3拍子のリズムを基本に、4拍子を混ぜる。ビートの鼓動をがっちりふまえ、太田は初手から力強いアドリブを弾きまくった。シンプルなリズムに乗って、果てしなくメロディが続く。
 いったん止まり、4拍子のスカへ。太いプラスティックのスティックで、藤掛はわずかに柔らかく響かせた。ほとんどシンバルを叩かない。フィルも皆無。ひたむきに安定感あるビートを続けた。

 太田は一歩下がって体を大きく揺らし、乗りまくりのバイオリンを弾く。ループは足で頻繁に操作し、ハーモニーとソロ演奏のメリハリつけた。エフェクターもディストーションからリバーブまで、頻繁に切り替える。
 マイクをわしづかみ、アラブ風に太田が吼えた。そのままエンディングへ。

 次に変化したリズムは4拍子かな。8分でせわしなく刻み、4小節目で9拍子っぽくタムを連打する。
 フィードバック・ノイズを響かす太田。ゆっくりバイオリンを体の前で振って、音を揺らせた。さらにループさせ、ゆったりと旋律をかぶせた。ここで一曲目が終わったはず。
 太田がポケットから時計を出して確認。藤掛が「ストップウォッチみたい」と笑って眺めた。

 "#2"はオクターバーでベース音を出した。バイオリンをウクレレっぽくかまえ、下から摘むように弦をはじく。即興でリフをつくり、ちょっと歪んだ音色でループした。
 4拍子のドラムが強くあおる。ぐいぐいドライブするリズムへがっぷり太田は組み、猛烈なバイオリンを弾き倒し。ハード・ロックな展開へ。
 ドラムが轟き、バイオリンがかき消されるほど。二人のテンションはぐいぐい上がる。しかしビートは乱暴にならず、きっちりと提示が続いた。
 太田の激しい叫び。弓の毛を何本も切りながら、一歩下がって体をひん曲げ、バイオリンをかきむしった。

 すっとビートが静まる。太田はベースのリフをループになぞり、オクターバーかまして再び弾き始めた。いつの間にかループが止まり、太田の生演奏リフ。ゆっくりとリダルダンドした。
 
 休憩を挟んだ"#3"は、藤掛がタンバリンのような楽器を叩く。指先で軽く叩く音が、べらぼうな低音。音金のルームエコーとかぶり、スリリングに鳴った。
 いくつかのパターンを組み立て、タンバリンが響く。太田はアコースティックとエレクトリックを幾度か構えては下ろした。どちらでアプローチするか考えるかのように。
 アコースティックを選び、最初はピチカート。やがてアラブ風のメロディがあふれた。5分ほどの短めな即興。

 "#4"は冒頭からロックなビートが炸裂した。重戦車なジャングル・ビートが暴れる上で、エレクトリック・バイオリンのソロが激しく駆け上がった。
 バスドラの裏拍で、何かの音がカタカタ聴こえる。意図的な音かは不明だが、妙に演奏へはまってた。
 太田のソロが高まった刹那、ふっとリズムが止まる。見事なタイミングで場面展開が入った。
 
 藤掛はドラムを手で叩く。フロアやタム、スネアをコンガのように操って。シンバルをたまに叩くが、きれいに響かないときも。意に介さず、藤掛は叩き続けた。アフリカンな展開の中、太田は探るようにエレクトリック・バイオリンをゆっくり弾く。
 フレーズが重なり、ループが産まれた。その上で、おもむろにクラシカルな旋律が美しく流れる。すぱっとループを切り、シンプルなリズムのみをバックに、太田のソロが続いた。
 ときにトラッドへ。そしてクラシカルな響きへ。スケール大きく心地よいメロディの奔出が、本当にすばらしかった。
 最後は揃ってリタルダンド。きれいにコーダをつけた。

 最終セット、"#5"が聴き応えあった。シンバルも含めた手数多いエイト・ビートへ、エレクトリック・バイオリンがプログレに盛り上がる。
 つぎつぎ弓の毛がほつれ、太くよじれてぶら下がる。かまわずに太田は燃え上がった。
 途中でヨーロッパ風・・・というか、コバイア風に即興ボイスをぶちかます。
 再び両者のアドリブへ。藤掛は手数多いが、ドラムロールでノリを壊さない。ビートの真っ向勝負で太田へ立ち向かった。
 終わったとき、「マグマみたいだったな」と太田がにっこり。本人も意識してたんだ。

 最終曲"#6"が圧巻だった。冒頭は静かにアコースティック・バイオリンの爪弾き。藤掛はライド・シンバルのみを静かに叩く。途中で素早く、チェーンをシンバル中央のネジへ巻きつけていた。 
 すぐにエレクトリック・バイオリンに持ち替えた太田は、次第にテンションあげていく。すでにほつれまくった弓の毛が、指板にかぶって弾きづらそうなそぶりも。しかし千切らない。うるさそうに強く弓を振り、端へたらすのみ。盛り上がっても冷静さを残す太田が、ああいう様子を見せるのは珍しい。

 シンバルのみを淡々と叩く藤掛のドラミングが、次第に激しく変わった。太田は猛然とアドリブへ突入。最後もロックな展開で凄みあるバイオリン・ソロを果てしなくばら撒いた。
 ひとときも休まぬ。フレーズのアイディアが次々溢れては展開する、格別にスリリングなインプロだった。

 盛大にコーダを決め、二人は笑いながら顔を見合わせる。最終セットも40分ほどで幕を下ろした。うっすら耳鳴り。音金の太田セッションで初めての経験だ。
 単純に心地よく、それでいてアドリブの組み立ては複雑で面白い。
 シンプルなリズムながらも、バイオリンとがっぷり組む藤掛の重たいドラミングも痛快。とにかく刺激いっぱいの、大満足なライブだった。

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