LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

9/30   渋谷 Uplink Factory

     〜楽しくない音楽会〜  
出演:Carlos Giffoni+Jim O`Rouke+Merzbow
(Carlos Giffoni:electronics,etc.、Jim O`Rouke:electronics,etc.、Merzbow:electronics,etc.)


 04年からNYで開催されているという、実験音楽のイベント"No fun Festival"の主催者、カルロス・ジフォニ。彼の来日ツアーにともない日本版"楽しくない音楽会"が開かれた。9/25、Super Deluxeでの前夜祭に続き、今日が本祭。
 70人ほどの定員はメール予約で埋まった。いすはぎゅうぎゅう、立ち見もびっしり。100人ほど入ったか。客入れに時間かかり、なかなか演奏が始まらぬ。20分ほど押して、ミュージシャンがステージへ姿を現した。

 ステージ上にはテーブルが三つ。それぞれアナログ・シンセらしき機材と、各自のミキサーが置かれる。中央にジフォニ、上手へメルツバウ、下手にオルークが立った。
 客電が溶暗。じわりとノイズが染み出す。
 楽器は鍵盤も何もなく、ピンやプラグ、つまみやレバーで音を変化させるものらしい。詳細は不明です。
 ちなみに秋田がパワーマックを使わぬライブを見るのは初めてかもしれない。また彼は機材がアナログへ移りつつあるのか。 

 今回は3人とも似たようなセットで、誰がどの音を操ってるか判別が難しい。メインのノイズへ耳を澄まし、わずかなステージ・アクションとの同期を探りながら聞いていた。 
 誰が主導権を持つでもなく、くるくると最前面に出るミュージシャンの役割分担が変化する。こういうセッションみたいなノイズ音楽を聴いたのは初めて。

 小音の発振音がわずかに聞こえる。オルークがマイクを構え、機材本体へ近づける。発振音を増幅しエフェクタで変調しているようだ。ジフォニと秋田はそ知らぬ顔で自らの機材操作へ。じわじわと音量が高まった。低音中心でふくらむ。胴体や腕の皮膚を、数十ヘルツの極低音が振動させた。

 3人の操作スタイルの違いが興味深かった。オルークは一定のテンポで体を揺らし、ノービートのノイズの中でグルーヴを意識しているかのよう。つまみやエフェクタの操作ももっとも派手だった。 
 ジフォニはほぼずっと、両手をつまみに乗せたまま突っ伏すように前のめりの姿勢。時折、思い入れたっぷりにつまみやプラグを力こめて操作する。顔を上げたときも両目を閉じ忘我の状態。
 秋田がもっとも淡々としていた。どんなノイズでも、あくまで動作は必要最小限。操作に過大な思い入れをこめない。レバーを多用し、もっとも激しい音変化を出してすら。

 低音中心のシンプルなノイズが、次第に変化する。ハーシュ要素は控えめ。ジフォニや秋田が周波数帯を変えて音へふくらみを出したか。
 幾本もの電気性の縄がよじられ、音像を作る。比較的高域で幅を作るのがジフォニと思う。レバーをもって、秋田はパルスを撒き散らす。左手でつまみをねじりつつ。そのたびに音色や振動帯が変わる。秋田がソロをとっているかのよう。

 10分程度続いたところでおもむろに、秋田が足元から機材を取り出した。前回、ここのソロでも使用した金属のオブジェ。胴体に数本のばねを張り、弦のように操る。裏から金属の筒でつつき、鈍い音を響かせた。さらにばねをこする。しかしこの辺から、あまり音がくっきり吼えなかった。
 秋田はあれこれつまみをいじるが、音がぐっと前へこない。ばねにはさんだ金属箱や平べったい円柱と、いくつか奏法を変えたが、くっきりと彼の出すノイズを聞き分けられなかった。すでに耳鳴りが始まっていたせいかもしれない。

 そう、最初は物足りなかったノイズは、いつの間にかハーシュを内蔵して、ボリュームがぐんと上がってた。
 もっとも最大音量はいまいち物足りない。もう少し轟音なら気持ちよく鼓膜が振動し、呼吸困難なほど音圧増えるのに。十二分にでかい音ながら、微妙なところがもどかしかった。

 秋田のガジェット操作と平行しながら、ジフォニはつまみを微妙にいじる。オルークはマイクを机に置き、黙々と機材を操作した。
 ガジェットを背に回し、秋田は卓の操作に。30分ほど経過したところで、音世界は冒頭のシーンへ戻ったようだ。ジフォニが右肩を下げて突っ伏したまま、ミキサーのつまみをかすかに動かすたび、確かにノイズの響きが変わった。
 秋田が小さなピンを抜いて、別の箇所に挿す。ときおり挿す位置を試行錯誤するそぶり。強調される帯域が、ゆっくりと変貌した。ビート感は希薄だが、パルス中心のノイズがじわっと揺らぎ続ける。もちろんメロディはゼロ。すべてが電子音の振動と、周波数の高低による流れだけ。

 オルークがマイクを再び持ち、機材へ近づける。次にハーモニカを持って、上下へ揺らす。口にくわえ吹きながらつまみを操作した。超高音の幅広いノイズが広がった気がする。すでに耳鳴りは盛大で、どこまでが音楽か聞き分けてる自信ない。

 顔を上げたジフォニが思い入れたっぷりに目を閉じ、体を揺らす。そのタイミングで、きゅっとつまみをひねった。鋭いハーシュが震える。

 1時間ほど経過したあたりで、いったん3人のノイズが太く低く収斂。終わりかと思わせて、再びノイズが立ち上がる。隙間をあえてつくり、続いてハーシュで破壊した。秋田はまたレバーをリズミカルに操作し、太いハーシュ音で音世界を攪拌する。ハーモニカとマイクを置いたオルークは、エフェクタのペダルを強く押え、歪んだノイズを引き出した。

 静寂とハーシュが交錯する。リズムやビートはなく、轟音のさざなみが動いてはかえす。
 オルークは右手で細かく機材の胴をたたく。つまみをいじるほどに、確かに振動する電子音が同じペースで膨らんだ。電子楽器の胴鳴り奏法が新鮮だったな。秋田がねじるつまみで、太い電子音が起き上がっては沈む。

 大きな揺らぎでの低音の広がりは、ついに収束した。それぞれがつまみを次々ひねり、音が小さくなっていく。
 漂う音は、自らの耳鳴りのみとなった。

 オルークがジフォニを、ジフォニが秋田を、秋田がジフォニを、さりげなく見やる。ジフォニがにっこり微笑み、無言で一礼。消え去るようなエンディングが愉快だったか、3人が顔を見合わせて笑う。

 約80分弱のノイズ・セッション。すべて即興だと思うが、やり取りが自在に行き来し、片時も立ち止まらない。低音から超高音まで幅広い周波数帯のうごめく、刺激的な音像だった。
 個々の出す音を聞き分けられないのが悔しいぞ。生き生きと各自のノイズが折り重なって展開する、濃密なライブ。録音していたなら、ぜひリリースしてほしい。

目次に戻る

表紙に戻る