LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/9/24   新宿 Pit-Inn

出演:菊地成孔クインテット ライブ・ダブ
(菊地成孔:as,ts,vo、坪口昌恭:p、菊地雅晃:b、藤井信雄:ds、パードン木村:ライブ・ダブ
 ゲスト:万波麻希:vo)

 菊地成孔3daysの二日目。
 1stセットはライブ・ダブ単独でみっちり演奏した。彼らのライブを聴くのは初めて。軽快なMCを冒頭にやったのみで、合間のしゃべりは一切無し。
 アルト・サックスを持った菊地は、吹きまくった。前半はすべてアルトで通す。
 
<セットリスト>
1. ?
2. ?
3. ?
4.Isfahan
5. ?
(休憩)
6.Disguise
7.雨の日も名人は命中させる
8.Look of love
9.My one and only love
10.Plelude to a kiss
11.Naima
(アンコール)
12.Keep it a secret

 曲目紹介無く、タイトル不明ばかり。中途半端なセット・リストですみません。
 1曲目は"デギュスタシオン"で聞き覚えのある、浮遊感あふれる菊地独特の硬質なジャズ。アルトからピアノ、ベースへとソロを回す。
 ベースのソロでは菊地が袖へ退き、聴いていた。
 ちなみに両手にはめていた指輪を、早々と取り去ってポケットにしまったのも1曲目のこと。

 残響がいっぱいに広がり、加工と加速を繰り返す。さらに坪口は内部奏法も行い、ピアノの音をミュートもしていた。
 ドラムの音が洞窟の中のように強く響く。
 菊地は冒頭から奔流のように吹きまくった。

 続く曲は菊地の独特さが良くわかる演奏だった。ジャズ・カルテットの規定概念を解体する過激なもの。これが、ライブ・ダブか。
 アコースティックさは否定され、アドリブの進行もコントロールされた。ドラムはまったく4ビートを刻まない。
 菊地はこの曲で、ほとんど吹かぬ。演奏へ耳を傾け、指揮をした。

 そしてベースを指差し、肩越しにゆっくりとハンドキュー。それまでソロを弾いていたピアノが、フレーズの途中でぴたりと止まる。ドラムも停止。
 低音だけが淡々と響く。
 また、菊地のキュー。ドラムとピアノが再開する。
 坪口は指先数本を使って、つまむように軽やかな鍵盤捌きを見せた。

 カットアップを多用し、菊地の指が優雅に指示を飛ばし続けた。基本はベースだが、ピアノやドラムを前面に出すときも。
 さらにベースと自らを指差し、低音のみをバックにサックスを強く鳴らした。
 もちろんダブの深い響きを携えて。

 次なる冒頭は、無伴奏のアルト・ソロ。
 グルーヴを寸断するジャズを延々続け、一転して3曲目ではラテン風味の華やかな演奏に。根本で演奏が抜群なので、下世話さは無い。しかしアルトがフラジオをわずかに噛ませたセクシーなフレーズをばら撒くのは、単純に快感。
 爽快さがすばらしい演奏だった。

 エンディングもあるとの無伴奏ソロでしめた。アドリブの途中で、いきなり吹きやめる。
 鼻をちょっと掻き、そのまま演奏を終わらせた。

 4曲目が"イズファハン"だと思う。ダブの効果は曲によって比率を変える。常に厚いエコーをかぶせっぱなしでは無い。
 拍手が終わるのを待たずに菊地はキューを飛ばし、演奏を始める。
 サックスとピアノのソロ。このライブで初めて、ドラムのソロが入る。
 連打をわずかにずらし、タイトながらひとひねりしたグルーヴを提示する藤井。シンバルワークがべらぼうにかっこいい。

 菊地はサックスを吹きまくる。ふっと顔を振ったとき、一筋の汗がしたたった。

 最後は野生的なピアノのリフをイントロに、菊地のキューでポリリズミックなリズムでベースとドラムが疾走する。
 ピアノのソロがキューでカットアップされ、リズムを強調した。むろん、サックスもたんまり。フリーク・トーン満載の強烈なソロ。リバーブがフロアを飛び交った。

 最後はドラム・ソロ。ロールが炸裂し、ダブ処理に包まれる。余韻が電子音となり速度を速めて飛ぶ。いいアクセントになっていた。
 菊地が一言挨拶、メンバーはステージを去る。ひとり、ドラムを叩き続ける藤井を残して。

 そのまま藤井はひたすら叩きまくった。5分以上、ソロを続けてたはず。
 ライブ・ダブ単独の演奏は、とにかく聴き応え満載の濃密さで、1時間があっという間だった。

 休憩後は、いきなり万波麻希を呼んだ。菊地の手にはテナー・サックス。後半セットは全てテナーを持った。

 まず彼女のソロ・アルバムより"Disguise"を。菊地も録音に参加してるそう。
 感想では音を引きちぎりそうな勢いで、激しいフリーク・トーン満載のアヴァンギャルドなソロを吹き散らす。

 そのまま次の曲へ。菊地の"雨の日も名人は命中させる"。CDよりもゴージャスな印象で、後半部分はぐっとダイナミクス豊かなメロディ構成だった。
 冒頭はなかなか歌いださない。シンバルのみにビートを提示させ、菊地は足踏みしながら空気を読む。万波が静かに彼を見つめていた。
 ここではサックスを置いてしまい、菊地も歌へ専念する。ゆったりとスキャットを二人が歌い継いだ。

 "Look of love"でもサックスは吹かれない。思いっきりメロディをフェイクした万波が1コーラス。続けてささやくようなクルーナーで、菊地は素直にメロディをなぞる。
 転がるカクテル・ピアノっぽいアドリブからボーカルへ。歌いだしを間違えたか、ぺろりと舌を出し、菊地は歌った。

 後半セットではダブがかなり控えめ。思い出したようにエコーが演奏へかぶさった。

「あっというまに終わっちゃうからMCも入れよう」
 菊地はそう告げて、喋り捲った。万波といろんな話題で盛り上がる。「男友達と喋ってるみたい」と笑いながら。

 万波のリクエストという、"My one and only love"から"Plelude to a kiss"へ。
 今度はサックスを持つが、"My one〜"は間奏のみ、"Plelude 〜"だとボーカルへ尾ぶりの形で、とアプローチをそれぞれ変える細かさだった。
 "My one〜"ではおずおずとサックス・ソロ。2コーラス目から音へ力がこもり、エコーもかぶさった。
 もちろんどのフレーズもメロディアスさいっぱい。ふくよかなジャズを存分に提示した。
 "Plelude 〜"のエンディングはベースのボウイングも。
 
 喋りまくったせいか、時間は見る見るたつ。最終曲ではすでに23時寸前だった。
 "Naima"は、あふれるメロディが心地よい名演だった。
 伸びやかなボーカルと同時並行で、菊地はアドリブを吹き続けた。強く、激しく。
 ダブも存分に展開した。音があふれ、浮遊する。

 ピアノ・トリオの演奏を残して、菊地と万波はステージを去る。
 ダブの効果を振りまいて、しばし演奏を続けた。

 すでに時間は23時を過ぎようとしている。しかしアンコールで菊地らは登場した。
 曲は"パビリオン山椒魚"のエンディング・テーマ曲、"Keep it a secret"。
 小粋な感じで二人は歌う。中間ではサックス・ソロも登場した。

 終演は23時を軽く回る。後半と前半で雰囲気がだいぶ違う。
 ライブ・ダブとゲスト歌手入りの歌唱タイプのセッションと、バラエティに富んだ展開を聴けた意味では、充実したライブだった。

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