LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/9/20   大泉学園 in-F

出演:灰野敬二+太田恵資
 (灰野敬二:g,vo,per,fl,etc.、太田恵資:vln,voice,per)

 灰野敬二のライブは去年の6月、太田恵資とのデュオは03年の7月ぶりに聴く。
 客席は満員の中、灰野はじっくりとセッティングをしていた。特にマイクのリバーブを気にしていた。太田にエフェクターの設定サポートをもらいながら、二本のマイクを目の前に準備する。
 一本は特に深くリバーブをかけた。
「"洞窟"って(プリセットの)ボタンあるでしょ」
 と言っていたな。さらにそれをフット・スイッチで解除できるようにした。

 もう一本はがっちりテープで固定する。太田へはそのマイクをさし、
「これは、激しく歌うから」
 と説明していた。

 20時とっぷり回ったころに、客電が落とされる。ステージも暗め。太田はほとんど影の状態。灰野をスポットが、うっすら照らす。銀髪の髪の毛に黒尽くめな灰野は、うつむき加減で発振機へ向かった。
 今夜は各セット1曲、ダークなインプロを応酬した。
 セッティングは綿密に調整したが、演奏は完全な即興だろう。

 灰野は発振機をひねり、ハム・ノイズを出す。複数のノイズを鳴らした。
 横に置いたスピーカーから出る音を、直接スピーカーのコーンを抑えて響きを調整した。あの奏法は初めてみた。
 無言でコーンを幾度も押さえ、指先や手のひらで当てる位置や強さを変える。
 ミュートされた発振機は、灰野の指先で操られ、ダイナミクス大きく響いた。

 太田はアコースティック・バイオリンを構え、ぎりぎりとゆっくり弓を引く。ノイジーに軋み、やがて実際の音がかすかにあふれる。
 軋み音とロングトーンを混在させて、弦をこすった。

 10分以上発振機と対峙した灰野は、その横に置いたドラム・マシンへ火を入れた。
 パッドをいくつか叩き、鋭くリズムを刻む。いつの間にかそれがループになった。
 基本は9拍子で一小節。中盤で拍を大胆にまたいだ3つの音が、不安定に切り込むユニークなパターンだった。

 フルートを手に持つ灰野。鋭く何音か吹く。
 この日は基本的に椅子へ座ったまま演奏。上手隅ぎりぎりに腰掛ける。若干見づらいのが難点。もっとステージ中央へ出てほしかった。
 下手に立った太田と、ぽっかり合間ができてしまい残念だった。

 太田はゆったりとバイオリンを奏でた。メロディアスなソロは控え、抽象的なフレーズで灰野の音楽世界へ立ち向かう。
 さらにマイクの立ち位置も配慮していた。穏やかに両足で構える姿勢を得意とする太田だが、今夜はマイクへの位置をしょっちゅう変えた。

 灰野が強めの音量ならばマイクへぴたりとつく。リバーブ深いボイスでは、つとマイクから離れ、逆に乾いたバイオリンで立ち向かう。
 流れる音とあわせたい自らの音楽によって立ち位置を変え、リバーブをうまく利用していた。

 あえて二人とも、斬り合いを避けたようす。自らが次々作るループに包まれ、灰野は独自の世界を単独で構築。
 太田も安易に灰野へ寄り添わない。灰野の音を聴きながら、ロングトーンで音をさまざまに伸ばす。
 くいくいっと音程をベンドさせて挑発するようなフレーズが印象深い。

 フルートの合間に、ボーカルで強く叫ぶ灰野。
 変則アクセントの混じったループとも違うタイミングで、ポリリズミックに灰野は声を叩きつけては頬を膨らませてフルートへ息をそそぐ。
 太いオーボエのようなダブル・リードの木製縦笛(楽器名不明)へ灰野は持ち替えた。
 いつの間にかループへ新しいパターンが加わり、複雑さを増した。

 バイオリンを置いた太田は、しばし聴いていた。
 やがてメガホンを取る。韓国語とドイツ語をミックスさせた即興ボイスで、強くアジった。
 かなり長くボイスで押す太田。畳み込む声の勢いがかっこよかった。

 ドラムのループへダルブッカを重ねる灰野。短い時間ながら、ぱたぱたと鳴らした。
 やがて小さなボディの民族弦楽器へ持ち変える。ボディや弦を手のひらでたたき、たちまちその響きをループ。
 今夜の灰野の演奏は、とにかくループを効果的に多用した。

 爪弾きからかき鳴らしへ。メロディアスな組み立てだ。
 そしてついに、エレキギターを手に取った。
 手のひらや指先で弦をかき鳴らし、突っ込み気味のループを作る。空白からストロークがフェイド・インし、強く数音がブルージーに鳴るパターンを。
 灰野はエレキギターを次第にディストーションで崩してく。

 太田はエレキ・バイオリンへ持ち替えた。ウクレレ風に構え、オクターバーをかまして低音の爪弾き。灰野とは違うリズムを選び、テンポはゆっくりで毅然と奏でた。
 うっすら暗いステージ上で、太田はぴんと立ってベースのような旋律をつむぐ。

 おもむろに弓を構えなおす。深いリバーブでロングトーンを弾き、ループにした。
 みるみるバイオリンの響きがゆがむ。ここまであえて避けた、旋律が奔出した。
 太田はパワフルにアドリブで弾きまくる。
 すかさず灰野もギターのかき鳴らしで応えた。ボリュームが上がり、フィードバックやハウも混じってどっぷりと混沌に浸る。ピックをいつの間にか持っていた。

 互いのスピーディなフレーズが絡んだ。
 存分に互いが弾きまくって、ふっと音が途切れた。ふたりはエフェクターを次々とめ、素直な音へ戻す。
 最後に小音で、灰野がピックを使い弦をこすった。

 無音。時計を見て、灰野が太田を見つめる。
 約1時間のセット。簡単なメンバー紹介のみで、休憩へ入った。
 
 後半セットに入る前、灰野は譜面をめくっていた。客電が落ちる。
 エレキギターの爪弾きからそのまま音が高まり、灰野が演奏へ突入した。太田はエレキ・バイオリンを構える。
 弓の背をリズミカルに弦へ落とし、それをサンプリング・ループさせてビートに使った。

 抽象的なフレーズをメインに、太田は時折メロディを挿入する。指板を広々と使い、グリサンドや触れ幅大きいビブラートも。灰野の動きにつられずに、淡々とバイオリンを操った。

 エレキギターの断続的なかき鳴らしもループで抜き出し、新たに爪弾きを足す。ビート感はあるが、明確な小節感覚は皆無だった。
 フレーズを解体し、メロディを崩す。譜割りも壊して、強く叫ぶ。
 まず、アキラの"ダイナマイトが百五十屯"を。断続したタイミングで歌詞をぶちかました。

 続いて「からす・・・なぜ泣くの・・・」と童謡"七つの子"を熱唱する。むろん、譜割は灰野流。ハイトーンを多用して、痛快に声が轟いた。
 リバーブをどっぷり利かせた歌が、エレキギターの軋みと混じる。

 後半は灰野がエレキギターのみ、太田もほぼエレキバイオリンのみとストイックな応酬だった。
 エレキギターはディストーションにまみれる。アラビック・ボイスを太田が挿入した。
 かまわずでかい音でかきむしる灰野とバランスとるのに苦労してるようす。バイオリンを弾きながら、ぎりぎりまでマイクへ近づく太田。ひとしきり即興で歌った。
 
 "ダイナマイトが百五十屯"が10分強。"七つの子"がギターとバイオリンのインプロを大幅に混ぜ、20分ほどやっていた。
 前半に比べ楽器交換が無く、互いの掛け合いをたっぷり聴けた。

 終盤で太田はたっぷりとバイオリンのソロを弾きまくった。灰野が音を鎮めても、かまわない。
 ちらりと太田を眺める。平然と灰野が受け止め、暗黒インプロへ突入した。
 
 二人の音は相性よく溶ける。
 太田のスケール大きなメロディがあふれ、灰野の轟音ギターが噛みつく。二つの奔流が渦へ。この瞬間が、すばらしい。残虐なほどの美しさに満ちていた。
 爆音ではないので、フィードバックとハウリングとディストーションが絡み合う灰野のギターが、隅々まで聞こえて快感だった。

 いったん静かに。アコースティック・バイオリンを持ち、迷い気味に置く。結局バイオリンは持たず、タールを手に取った。
 また、灰野のボイス。「赤い・・・うそ!」と叫ぶ。曲かもしれないが、タイトル不明。
 太田は目を閉じ、タールを指先で叩く。ときおり右人差し指を、ぎゅっと下へはじき落とす。膨らみある響きが生まれた。
 静かなビートを太田が作る。中央も散発的に叩き、ふくらみを持たせた。

 灰野はエレキギターをさまざまにかき鳴らす。
 エフェクターを切り、次々にギターのつまみを戻した。
 素のギターの音色を、ピックで削る。音を断続させ、やがて無音へ。
 灰野は、太田を見つめた。それが終焉の合図。

 後半セットは1時間強。多彩なアプローチで技の出し合いの1stセット、互いに内面を見つめるような2ndセットと、図らずも構成の違いでバラエティに富んだライブだった。
 灰野はいきいきと音楽へ没入し、太田は灰野を立てながらも肝心なところでは己を解放した。
 あまりやらない組合せのライブだが、即興巧者同士で密度の濃さへ浸れた。

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