LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/9/16   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之
 (明田川荘之;p、オカリーナ)

 明田川荘之の月例深夜ライブ。ピアノの調律を明田川はすばやく行う。
 0時半頃、ライブが幕を開ける。立ったまま、大きなオカリーナで静かにアドリブを始めた。
 だんだんフレーズが複雑に。小さめのオカリーナに持ち替え、しばしのソロ。
 そのままピアノの前へ腰掛け、スムーズに演奏を切り替えた。

 スイングする小品。アドリブでテーマがフェイクする。初手から盛大にうなり声が漏れた。
 エンディングでもオカリーナを持つ。鍵盤をいくつか押しペダルで残響を響かせる上にて、オカリーナが静かに響いた。
 最後に指でピアノ線をぽろろん、とはじく。

<セットリスト>
1.バット・ナット・フォー・ミー
2.クルエル・デイズ・オブ・ライフ
3.アケタズ・ブルーズ
4.インバ
5.ライク・サムワン・イン・ラブ
   〜アローン・トゥギャザー
   〜 ? 
   〜オーバー・ザ・レインボウ
6・ブラックホール・ダンシング
 (休憩)
7・ロマンテーゼ
8・アフリカン・ドリーム
(アンコール)
9・夜明け
(おまけ)
10.外はいい天気

 今日はほぼ一曲ごと、つぶやくように曲名を告げてくれた。
 ほとんどがオリジナルだ。(1)と(4)のメドレーがジャズのスタンダード、(8)が松山千春のカバー。

 2曲目は"クルエル・デイズ・オブ・ライフ"。構成を意識し、アドリブは控えめ。ひたむきにテーマを幾度も連ね、深みへずぶずぶと進む。
 サウンドがじんわりと暖かくなり、リラックスした。

 続いてアップテンポのブルーズ。どうも"アケタズ・ブルーズ"はステージ最後に、クラスター曲として突っ走るパターンとしてのイメージ強い。
 ぐいぐいフレーズがフェイクされ、うなり声とともにクラスターが盛大に響く。目をぎゅっとつむり、激しく鍵盤が叩かれた。 

 しっとり演奏される"インバ"もワイルドさが残る。
 情緒いっぱいのメロディをわずか崩し、構成を保ってテーマを幾度も繰り返した。どんどんピアノへのめりこむ。
 グルーヴを保って延々と弾き重ねた。こういうアレンジの"インバ"って、新鮮。
 足をがんがん踏み鳴らし、床がバスドラのように鈍く響いた。

 「ライク・サムワン・イン・ラブ」
 拍手がやむ間も惜しみ、つぶやく明田川。たぶん、このタイトルであってるはず。
 軽快なスイングからアドリブへ。キュートに旋律が弾み、うなり声と混ざった。
 アドリブが一瞬途切れ、転調した。"アローン・トゥギャザー"だと思う。ほんのり影をまとった耳ざわりで、やみくもにソロが駆け抜ける。
 低音のランニングが強力にうねった。

 ソロはまた転調。聞き覚えはうっすらあるが、曲名がわからず・・・。微妙な優雅さで音世界が変わった。
 やがてアドリブが"オーバー・ザ・レインボウ"へ。
 ペダルを踏む華やかな和音で、テーマをロマンティックに弾く。しかし挿入されるクラスターやラフな打音が、黒っぽさをサウンドへ残した。
 ファンキーなうねりを内包した"オーバー・ザ・レインボウ"は、しみじみかっこよかった。

「最近、よくやるオリジナル・・・"ブラックホール・ダンシング"」
 つぶやく明田川。内部奏法は低音弦のピアノ線を、手のひらで一打ち。低い音を鈍く響かせる。
 右手がすばやく動き、アップテンポで華やかなテーマへ雪崩れた。

 メロディが階段状に上り、高まる。うなり声は通奏低音で轟き、時に唇を尖らせ低く吼えた。
 クラスターが炸裂。ひじや足が鍵盤へ落とされ、テーマは断片とテンポとグルーヴのみ。頻出するひじ打ちの連発で見る見る混沌へ。
 息を切らせ、しゃにむに鍵盤を打ちのめす。
 最後に一打ち。ふらっと立ち上がって、5分ほどの休憩を告げた。時間は深夜1時半くらい。

「あと2曲やって、終わります」
 後半は"ロマンテーゼ"から。情緒深い曲イメージだが、今夜はハードに決める。
 彼の深夜ライブをここ何年かで、たぶん数十回見てきた。しかしステージ全体が、ここまで高いテンションで激しく駆けるのは、かなり珍しい。
 テンポはゆったりめながら、猛然と旋律がフェイクされ混沌で盛り上がった。

 最後は"アフリカン・ドリーム"。特大オカリーナを抱え、アドリブから。数本のオカリーナを持ち替え、ソロを構成する。終盤でもちかえた小ぶりのオカリーナでは、倍音がいっぱい響く。一本のオカリーナなのに、和音めいて聴こえた。
 あれは奏法なのか、楽器の特性なのか・・・どちらだろう。
 隙間を加えた和音っぽい響きは、玄妙に鳴った。

 ピアノでもイントロを雄大に弾く。テーマへ移りかけて、横にあるアンプの上へ手を伸ばした。片手で鍵盤を弾き続けるが、さすがにちょっと途切れる。
 よく使うアフリカン・ベルを持ち、がらがらと強く振った。

 "アフリカン・ドリーム"だけで20分近い。アドリブはテンポを維持し、みるみる膨らむ。ときおりベルを拾って振り回す。
 うなり声がドローンで漂った。生命力強い旋律はしぶとく形を変えた。

 もちろん最後はクラスター。立ち上がって鍵盤を叩きのめし、両肘打ちを幾度も振り下ろす。
 眉間にしわが浮き、息も乱れても辞めない。ペダル踏みっぱなしでピアノ全体が複雑に轟いた。

 拍手の中、明田川は会釈する。ピアノの前から立ち上がらない。
 アンコールということか。切ない旋律を無造作に弾き始めた。深夜ライブでたまに聴く。
 あとで明田川さんへ伺うと、松山千春の"夜明け"だそう。前からよくやっていた曲で、テレビの主題歌で有名になったという。
 ヒットじゃないが、釧路へ行くと必ず演奏するそう。
 切ない響きはGSを連想した。ミディアム・テンポでペダルを多用する、甘酸っぱいテイクだった。

 ライブはここで終了。2時を回ってた。前のめりな迫力で鍵盤を酷使する、激しくも熱い演奏。クラスターの連発で何音かはホンキートンクに響いた気がする。
 普段とは違うアレンジを取り入れた曲も。"インバ"や(5)のメドレー、"ロマンテーゼ"あたりが特に印象深い。
 あっというまに時間が立ち、思い返すとそれぞれは濃密な演奏だった。

 なおこの日は明田川の新譜"黒いオルフェ"の、ジャケット見本が店内にあった。昨日できたばかりで、盤のプレスは明日以降だそう。
 ベテランの常連客が曲目を見て「"外はいい天気"ってどんな曲だっけ?」と明田川にたずねる。気さくに明田川はピアノへ向かい、ワンコーラスを弾いた。それが、おまけ。

 ちなみに"黒いオルフェ"は今年3月の"アケタの店"深夜ライブ音源をかなり使った、ソロ作品。この日はぼくも聴いたが、べらぼうな名演だった。早くCD出ないかな。楽しみ。

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