LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/9/16 西荻窪 音や金時
出演:ル・クラブ・バシュラフ
(松田嘉子:ウード、竹間ジュン:ナイ,レク、のみやたかこ:ダルブッカ)
今年の6月ぶりに聞くル・クラブ・バシュラフ。いつもの開始時間を想定して、19時半過ぎにのんびり音金へ。すでにミュージシャンがステージへ座っている。演奏開始は19時40分。
よかった、間に合って。似たような人が多いのか、演奏開始直後にぞくぞくと観客が現れた。
まずは3曲のメドレーを2種類。
のみやたかこがダルブッカの胴を叩く前に、くるりと回した。
全員が譜面なしで複雑なメロディを次々つむぐ。旋律が震え、上下した。
進行は松田嘉子が担当。メンバーの対話はなく、レクチャーの赴き。アカデミックさは控え、丁寧に曲の背景を説明した。
まだまだ知識不足で、曲名などがさっぱり頭に入らず。セットリストはご容赦を。
18世紀の曲から、現代の曲まで幅広い。映画音楽もあったようだ。チュニジアにこだわらず、違う国の音楽も。
メドレーはそれぞれ、ゆったりなテンポから。曲が変わるたびにスピードが上がる。コーダは滑らかに着地する。区切りで奏者たちは軽く首を振って合図しあう。
構成も北アフリカ音楽の伝統的なしきたりがあるのかな。
優雅なメロディが浮遊する。
MCによれば王族の作った曲もあるようだ。宮廷音楽な要素もあるのかな。当時の民衆音楽との関連は。聞きながら、あれこれ考えが膨らむ。
ユニゾンを基本に、時折違うラインを演奏する。
竹間ジュンはワンフレーズ吹き休み、次のフレーズから入ったり、微妙に違う音をぶつけたり。オクターブ変えたりあわせたり。ユニゾン一辺倒じゃない。即興でアレンジをいじってるのかは不明。
のみやはダルブッカを淡々と打つ。テンポは一定でも、微妙にパターンを変えるときも。
何曲か演奏して、タクスィームを冒頭に置いた曲へ。まずは竹間のナイから。
今夜は60センチくらいのナイをほぼ使う。ときおり細身のものへ持ち替えてた。
竹間は強く音を伸ばし、首を振ってビブラートを。唇がときおりとがり、音色が変わる。間の多いフレーズを広く伸ばす。この日はマイキングがきれいで、リバーブがうまく響いた。
いくつかフレーズを重ね、ふっとブレイク。空気を読むように視線が動く。
さらに次の段階へ。フレーズが早く、複雑になってゆく。
空白の瞬間のたび、メロディの感触が変わる。ブレイクのたびにキー(マカームというのかな)を変えてるようにも聞こえた。一本の笛を吹き続けてたから、違うかもしれないが。
最後はアグレッシブなフレーズでつっこみ、そのまま3人のアンサンブルへ雪崩れる。
エンディングで弾き終わった松田が、ウードを片手で持ち上げる。微妙に余韻が響いてきれいだった。
次はウードのタクスィームをイントロに。初手からすばやいフレーズを次々弾きまくる。
松田はマイキングで苦労していた。微妙にハウってしまう。昨日のライブでも感じたが、上手スピーカーでかすかにハウってた。
マイクのポジションをライブの最中にあれこれ変える。位置で響きが微妙に変わる。ボディの穴へ最初は当てていたが、1stセットの最後では指板のほうへずらす。
するとネックで動く指の音も拾うのか、わずか薄い響きになった。1st終盤では半身に構えハウリングを避けていた。
1stセット最後の曲は、ナイのタクスィームをもう一度。エレキギターのように、フォルテでフレーズを響かせた。
僕のごく少ないチュニジア音楽体験では、あまりアンサンブルでダイナミクスを目立たせない。流れるようなアンサンブルが盛り上がり、クレッシェンドするかのよう。
だからタクスィームになると、触れ幅大きい響きが興味深かった。
ウードのタクスィームで、竹間はレクへ持ち替える。指先でそっとつつくように中央を叩き、エッジでビートを置いた。抑えたリズムでビートを膨らます。
幅広い展開を見せた1stセット最終曲は聴き応えいっぱいだった。
後半はバラエティに富んだ展開に。まずは竹間の自作曲から。
伝統的な奏法を踏まえた曲だそう。微妙なフレーズ展開にオリジナリティある。ブレイクの部分での和音や、変拍子(?)な箇所のメロディが開放的で美しかった。
続いて竹間のレクとのみやのダルブッカによるデュオ。基本ビートをのみやが提示し、さまざまにレクがつっこんだ。
ときおり攻守が交代し、ダルブッカがメインをはる。ブレイクがぴしりと決まる緊張感がいい。
竹間はリムと中央を右指で打ちかえ、左はシンバル部分を鳴らす。多彩な奏法を駆使し、熱くフィルを叩き込んだ。
ダルブッカはテンポ一定、アクセントの裏と表がくるくる変わる。タイトなパターンの組み立てがスリリング。リムが鋭く鳴り、前面に出たときは猛烈に響いた。
ウードを横に置いた松田は、左指でそっとボディをリズムに合わせて動かす。
ふたりの熱い演奏に、ひときわ大きな拍手がとんだ。
後半セットでは各タクスィームの時間もたんまり。ナイのタクスィームが、10分近く続いたんじゃ。後半は穏やかな響きからフレーズが展開する。転調の感触は少なく、ひとつのマカームをじっくりと操るかのよう。実際のところはどうなんだろう。
はてしないナイの即興が広がる。
無伴奏だった前半と違い、ウードが単音で静かにバックアップ。リズムを提示する。
のみやはダルブッカをひざに置く。ぴんと背筋を伸ばして目を閉じ、タクスィームを聞いていた。
最後の曲は映画音楽だそう。テーマとエンディング・テーマをメドレーで、合間にナイとウードのタクスィームが入る。
くつろいだ空気でふくよかにタクスィームが展開、メロディが優しく響いた。
微妙にナイとウードのメロディが交錯する。4拍子で聴いてたが、最後の裏拍できゅいっとウードがフレーズを引っ掛け、グルーヴを出した。
ナイはオクターブを自由に動く。譜面ではトリッキーそうだが、ごく自然に耳へ届いた。
ユニゾンの旋律が盛り上がり、ダイナミクスが高まる。そしてふわりと着地した。
前回は未体験ゆえの新鮮さが勝った音楽が、今夜は素直にのめりこむ。耳がチュニジア音楽へ慣れてきたのか。
サウンドが体へしみこむ体験が愉快だ。やっぱりいろんな音楽を聴くのは楽しい。
各セット1時間を越え、じっくり聴けた心地よいライブだった。