LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/9/15   西荻窪 音や金時

     〜ややっの夜〜
出演:太田恵資+高瀬麻里子
 (太田恵資:vln,voice、高瀬麻里子 (makoring):vo)


 太田恵資のイベント"ややっの夜"39回目のゲストは、Diva/トランスパランスで活躍する歌手、高瀬麻里子をゲストに迎えた。しばらく前の太田と斉藤ネコのライブ“ハナシガイ”で、彼女が飛び入り参加したのを聴いて以来か。
 明日から太田は高瀬と吉見征樹の3人で、中国は大連へライブで向かう。太田としてはそのライブのリハもかねたかったようす。すでに20時前にはばっちりセッティングが終わってた。
 
 ところが高瀬は前の仕事が押したため、20時ちょっと前に登場。客入り済のために、リハはせず即興での進行へ切り替えた。
 開演時間も押して、20時半頃に幕を開ける。スポットライトにてらされた、太田の口上で。

 すぐに高瀬を呼び、のんびりしたトークをじっくりと。堂々とした高瀬のしゃべりで、話は盛り上がった。明日からの中国ライブの話やDivaでのエピソードなど。前半はMCが多めだった。
 曲も曲順も何も決めてなさそう。高瀬が持ってきた譜面を元に、その場であれこれ選曲。1stセットでは4曲ほど演奏したかな。
 まずはトトロの挿入歌“風の通り道”を。エレクトリック・バイオリンを構えた太田は、リバーブたっぷりかぶせ、ループで下地を作った。

 椅子に腰掛けた高瀬は、伸びやかな喉でじっくり歌う。ビブラートは殆ど使わない。
右手にマイクを持ち、左手は胸の前で軽く泳がせる。ふわり、優雅に指が動く。ぽろろん、とときおり指が歌に添って柔らかく動いた。
 高音までするすると声が通る。無造作な歌いっぷりだが、しっとりと響いた。

 太田は「バイオリンは和音感が無くて歌いづらいでしょう」と、しきりに気にする。実際、曲によって伴奏のアプローチを変えていた。最初の曲では、ロングトーン主体に下地の音と合わせて、和音感を狙ったか。

 続くMCのながれで、先日に高瀬が録音したというゲド戦記の挿入歌、”テルーの唄“を、アカペラで無造作に高瀬が歌いだす。
 すっと後ろへ下がる太田。目を閉じて聴く。コード進行をはかったか。鼻歌ではなく、ろうろうと高瀬は歌う。アコースティック・バイオリンへもちかえ、入る隙をうかがう太田。爪弾きを始めたところで、ちょうど曲が終わってしまった。
 仕切りなおしでもう一度最初から。エレクトリックへ持ち替えたかな?ちょっと覚えてない。

 今夜は1st/2ndステージを通して、谷川俊太郎/賢作の曲をあれこれ演奏した。メモとっておらず、セットリストは割愛させてください。
 太田はエレクトリック・バイオリンをメインに、さまざまな伴奏のアプローチを見せた。タールやサンプリングも準備していたが、まったく使わず。
 その場で曲を決め、ほぼ初見で弾いていた。優雅な高瀬と対照的に、構成や弾きこなしに慌てふためく太田を見ることができた。

 前半は約1時間。きっちり休憩とって、後半戦へ向かう。第二部は22時から始まるありさま。
 しかし休憩中に後半のリハや構成だんどりを決めなかったみたい。一部にも増して、初見状態で太田は泡を食っていたなあ。

 後半セットはMC少なめで演奏を次々。
「大連ライブの公開リハ・・・・いやいや、そんなことを行ってはいけませんね」

 笑いながら太田は次々に曲を弾きこなす。アップテンポな曲では真剣な顔で譜面へ食い入る。 演奏に納得いかないさまもちょっとあったみたい。
「普通のライブでは許されませんが・・・。ややの夜ならではということで」

 譜面をめくって高瀬がその場で曲を選ぶ。太田へテンポや繰り返しを説明していた。
 そんな調子なので、もちろん事故も多数。あっというまにコーダへ突き進んだり、曲によってはおもいっきりバイオリンがついていけなかったり。
 そのときはアコースティック・バイオリンでひっかくように弓を動かす。太田には珍しい、軋んだ音色だった。
 曲が難しい、とぼやく。演奏終わった後にテンポを落とし、ひとりメロディをなぞって練習しなおしていた。
 
 伴奏のスタイルは曲ごとに違う。たとえばエレクトリック・バイオリンのストローク弾きのループでビートを作り、その上へボーカルにオブリを入れる。アコースティックでは最初、ボーカルとユニゾンでスピーディに駆けた。
 1stセットのある曲ではクオーター・トーン的な響きを多用し、中国大陸を連想するフレーズが新鮮だった。引き出しが多いなあ。

  太田は曲が変わるとエレクトリックへ持ちかえ。こんどはオクターバーとリバーブで音へ厚みを出す。別の曲ではループに対しディレイをうっすらかけて深みをつくった。
  しかしサンプリングの一人多重録音でオケをつくることは、殆どない。たまにループを作っても、ごくシンプルに。ぶあついサウンドで、ボーカルを殺してしまうこと避けるためか。

 そのためバイオリンのソロも控えめ。間奏でゆったりとアドリブを弾いても、短く終わる。サウンドの主導権は高瀬へゆだねた。
 2セット目、数曲やったところで太田が即興を提案。エレクトリック・バイオリンを構えなおし、ふくよかにメロディを奏でた。アラビック・ボイスからホーメイへ。マイクから一歩下がり、小さな音量で声を膨らます。

 静かに音を途切れさせ、高瀬へバトンタッチ。“りんご追分”を歌いだした。フレーズによっては大胆に崩し、言葉をたたみかける。
 太田はリバーブたんまりのエレクトリックで、スムーズに演奏を構築した。そこここを浮遊する高瀬のボーカルとあいまって、サイケな雰囲気を作った。今夜のベストはここか。

 2ndセットはちょっと短め。50分弱かな。するするっと流れるような谷川賢作の曲を演奏してた時。高瀬が歌ってると、おもいっきり太田が咳き込んでしまう。
 慌てずに「これもソロだと思ってくださいね」と苦笑。ワインを一口含み、歌詞を即興で作ってハプニングと演奏をやんわり繋いだ。

 ごく自然に高瀬は歌をやめ、太田をにこやかに見つめる。バイオリンのソロからボーカルへ。
 何事も無かったように、曲はコーダへ向かった。

 かなり遅めの時間だったが、咳き込んだことが自分で納得行かない太田が、もう一曲弾こうと提案した。
 テンポはゆったりだったと思う。決して激しいテンションのぶつかり合いにはならない。
 優雅に高瀬は声をつむぎ、太田は情感たっぷりに弓を動かした。

 ステージ上に太田一人が残り、クロージング・テーマを。この日はコルネット・バイオリンが準備なく、アコースティックで弾いた。
 きゅっと末尾をひねる音色がきれいだ。ビブラートをほわりとかけた。

 「公開リハ」な雰囲気が漂い、寛いだムードがただよった。きっちり構成を固めるやりかたもあったと思うが、あくまで“ややっの夜”では即興性を重視か。
 とっちらかった演奏もあったし、バイオリンのアドリブも長尺で聴きたかった気もする。
 しかし初見へ果敢に挑戦するさまや、曲ごとの多彩なバイオリンのアプローチを楽しめた興味深いライブだった。

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