LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/9/13   渋谷 公園通りクラシックス

出演:ふかみあや
 (ふかみあや:p,vo)

 普段は福岡を中心に活動するふかみあやの初ワンマン東京ライブ。さまざまな客層で客席はいっぱいに。
 クラシックスは初めて行った。ステージと客席がフラットな、倉庫みたいなスペース。若干のルームエコーが効いている。
 セッティングはさらにリバーブで、ピアノとボーカルをつややかに響かせた。
 開演時間をちょっと押し、客席が溶暗。ふかみあやがにこやかに登場した。 "kikuchi"の曲紹介、滑らかに弾き始める。

<セットリスト>
1.kikuchi
2.コイゴコロ
3.まよい道
4.柘榴の曲〜青の女の子〜
5.kodomo
6.初蝶の一夜寝にけり犬の椀
7.雨の中で
8.水無月
9.大きな青い・・・
(休憩)
10.歌のまぼろし燃やし燃やし
11.コトブキ
12.氷の魚
13.IDASAN
14.大鷹の森
15.空のうら
16.朱
17.魚の話なんかやめて
(アンコール)
18.レンギョウ(?)〜魚の話なんかやめて

 演奏前に曲目リストが配布された。アンコール以外は記載されている。ライブのイメージがつかみやすく、ありがたい。
 彼女のライブを聞くのは久しぶり。そのときよりもステージでの存在感が増していた。

 "kikuchi"ではさっそく即興を膨らます。奔放なグリサンドを次々繰り出し、雄大に音を響かせた。みるみる音が混沌へ。
 ユニークなことにコーダはしごくあっさり。エンディングは無きに等しい。クライマックスから、一気呵成に曲を終わらせた。
 このときに限らず、どの曲でもそう。ふかみの好みかな。急転直下なエンディングが面白かった。ボーカル曲では歌い終わったとたんに終わらせるいさぎよさだった。
 
 1stセットでは歌モノとインストがほぼ半々の構成。"コイゴコロ"では眉間にちょっとしわを寄せつつ、まっすぐに歌う。ちょっと堅さが残った。ビブラートさせず素直に声を伸ばす。
 暖かな拍手にのってきたか、続く"まよい道"ではリラックス。曲を重ねるにつれ、くつろいでいた。

 伸びやかなロングトーンが特徴的な日本情緒漂う"kodomo"、小林一茶の俳句をタイトルにしたという、" 初蝶の一夜寝にけり犬の椀"など、次々に曲が続く。
 1曲ごとに曲へまつわるエピソードを話した。
「さくさく進んでますね〜」
 セットリストを見ながら、つぶやくふかみ。その後でたっぷりと即興をやるつもりかと期待したが、スピーディな進行は変わらず。マイペースに涼しげな演奏を披露した。
 
 センチメンタルさと雄大さが同居するインスト"水無月"、ダイナミックな歌モノ"大きな青い・・・"の最後2曲が、とりわけ聴き応えあった。
  特に"大きな青い・・・"はメリハリついたアレンジに進化してる。フレーズの区切りごとにしゃきしゃきと声の表情をかえた。ゆったりした箇所ではたんまり間を取り、次へ畳み込む。
 半音まで含めたきれいなグリサンドをボーカルで利かせるテクニックに惹かれた。張りのある透明な声は、時にボーイッシュに響く。しかしこの曲では切なさも織り込んだ。
 エンディングをちょっとため気味に盛り上げてもよかったのでは。あっさり幕を下ろし、休憩に入る。約40分強のステージ。

後半セットは最新曲という、歌モノの"歌のまぼろし燃やし燃やし"から。すっかり寛いだ趣で歌う。東京の初ワンマン・ライブの気負いを感じさせず、自然体な風情だった。
 続く"コトブキ"は最初期のオリジナルだそう。テーマの構成をきっちり踏まえつつ、旋律がフェイクされ即興が混ぜ合わさる。
 
 後半はインスト中心だった。"氷の魚"もインストで演奏される。
 彼女独特のこぶしによるクラスターの一種、" 彌生弾き" はここで披露。初めて聴く観客のために、演奏前に実演してみせる。
 テーマから豪快にアドリブへ。" 彌生弾き"は賑やかに盛り込まれ、ペダルを踏みながらグリサンドも混ぜた。切なげなメロディが奔放に崩される。

 今日が誕生日という観客への"Happy birthday"を弾いたあと、今年6月に逝去して本日が誕生日だったという版画家にささげたインスト"IDASAN"を。メドレーで"大鷹の森"へつなげる。
 どちらもはじめて聴く曲。がっしりとアドリブが展開し、"IDASAN"がエンディングへ。ごく一瞬の間をおいて、次へ進めた。

 スピーディな小品"朱"で空気を引き締め、最終曲の"魚の話なんかやめて"へ。ワルツで軽快にはねる。中盤では観客へ拍手を促すが、ちょっと複雑なリズム。さすがに客席の手拍子もばらついた。

 後半セットは40分弱程度で本編が終わり。さっそうとふかみはステージを去った。アンコールの拍手には間をおかず、すぐさま現われる。
 受取った花束をピアノの上へ置き、「こういうの、やってみたかったんですよね〜」と微笑んだ。
 アンコールの前半は曲のようなインスト。"レンギョウ"かな?ちょっと自信ない。
 アドリブは控えめに、一呼吸置いて3拍子のリズム。リプライズで"魚の話なんかやめて"へ。

 最後はほんの少しコーダをふくらます。それでもさくっと、ライブは終わった。
 曲目は盛りだくさんで凝縮したステージング。1ステージ1時間みっちりやるかと思った。もっともコーダや間奏部分を引き伸ばせば、いくらでも演奏は長くなる。 その方向性をとらないのが、彼女の美学だろうか。
 
 熱気で押すよりもおっとりと上品。さらにはつらつとした雰囲気を漂わす。
 日本情緒漂うメロディは聴いていて郷愁と寛ぎを誘う。伸びやかな歌声と、奔放な即興。」二つの路線を持つことが彼女の強み。ステージから溢れるような存在感をますほどに、彼女の演奏は凄みが出ると思う。
 次回の東京ライブがあるのかは告知されなかった。いずれにせよライブのキャリアを積み、さらに熟成した彼女のライブが楽しみ。

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