LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/9/9   西荻窪 アケタの店

出演:渡辺隆雄セッション
 (渡辺隆雄:tp,片山広明:ts,早川岳晴:b,磯部潤:ds)

 二カ月おきくらいで実施される渡辺隆雄のセッション。
 普段はオリジナル曲らしいが、今回は全てジャズの有名曲を演奏する、と告げる。

「まず、なにやるの?」
「パーカーの"My Little Suede Shoes"からね」
 片山広明の質問へ渡辺が譜面を指して答える。業務連絡なやり取りでライブは幕を開けた。

<セットリスト>
1.My Little Suede Shoes
2.In Walked Bud
3.Ellen David
4.Solamente Una Vas
(休憩)
5.Cantaloupe island
6.Goodbye Pork Pie Hat
7.My favorite things
8.Fables of Faubus
(アンコール)
9.Blue Bossa(?)

 タイトルはMCから類推。たぶん、あってると思います。

 まっすぐなトランペットのアドリブから、滑らかなメロディがこぼれるテナーのソロへ。つやのあるペットの音色に、ほんのりラテン風味が漂う。
 片山がトランペットのソロを聴きながら、にっこり微笑んだ。
 早川岳晴のエレベは今夜、エフェクターなし。アケタのハウス・アンプヘ直接シールドを突っ込む。シンプルなセッティングながら、出音は素晴らしくバラエティに富んでいた。硬柔兼ね備える。
 磯辺潤のドラミングがビートを細かく寸断する。ビートを柔軟に繋ぐかのごとく、ベースのグルーヴはしぶとく揺れた。

 (2)はモンクの曲。前半ではこの曲がよかった。演奏前、渡辺が次々メンバーを指差してソロ順を指定する。
 アップテンポで押した。曲が終ると「ぜんぜん歩いてなかったね」と、渡辺が笑う。
 テーマの2管の響きが心地よい。ファンキーさは控えめなのは、4ビートをちょっとひねったドラミングのためか。
 早川がソロをとると、みるみる音が大きくなる。最初は数音だけ、次第に速弾きで豪快に疾走した。
 曲全体ではファンキーさを控え、スインギーな香りが漂う。

 一旦バラードを挿入。ヘイデンの(3)。終盤につれ、どんどんアップテンポに。
 早川のアドリブは、たんまりと。片山は奔放にオブリを入れた。
 磯部がブラシで静かに叩く。ライド・シンバルから吊るされたチェーンが、しゃらりと擦れた。

 「片山さんの最新ソロ・アルバムから」と前置きして、"Solamente Una Vas"を。磯部が16ビートで叩きのめしたのはここだったか。
 「譜面を見ると吹けなくなるんだよ」
 片山は苦笑して、下手側にさがる。フリーに吹き始めた。渡辺とソロを短く交換し合い、リズム隊に乗って邁進した。
 フリーといってもメロディの芯を押さえる。ブロウがあってもフリーキーに行ってしまわない。

 さんざんアドリブを交換し合ったあげく、唐突にテーマへ。おもむろに片山は譜面台の前へ戻った。
 ベースのソロもたっぷりと。ピックのように指を弦へあて、超高速でストロークしまくる。猛然なソロにメンバーもにっこり笑顔だった。

 トランペットのソロの最中、片山が指を立ててメンバーへ見せる。
 小節の頭で指を減らして、テーマの入りを促した。すっかりリーダー役だなあ。面白かった。

 休憩を挟んだ後半はハンコックの"Cantaloupe island"から。ぐっとリズムが軽くなる。
 トランペットが活き活き長いソロを取った。テナーは力強く唸る。前半最後の曲で、フリーの血が残ってるかのよう。
 
 ミンガスの(6)では、テーマからいきなりベースのソロへ。早川はおもむろに弦をはじいた。
 無造作な音使いが、どんどんテンション上がる。軽々とノリを操り、アンサンブルをがっしり締めた。ソロのときでも、ベースはつぎつぎフレーズを変え、飽きさせない。

 ラテン風味の切なさをまぶしたトランペットと、ロマンティックなブルーズのテナーの交錯もいかしてる。 
 細かい段取りは決めてなさそう。4小節や8小節でソロ交換や、アドリブで何コーラスも吹き続けるときも、自由に登場。ベースはソロの終盤、テーマの変奏を取り入れた。

 「これ、ね」
 ここまで演奏前にも曲順を告げてきた渡辺が、何も言わずにメンバーへ譜面を指差す。
 まずペットの無伴奏ソロから。片山はタバコへ火をつけ、早川はベースを下ろして床に置いて聴く態勢。
 高い音を多用しキツそうに身体を捩りながら、吹き鳴らす。ソロが終わりかけたとき、メンバーは楽器を構えた。

 倍テンポのイメージで、テーマが一気に雪崩れた。"My favorite things"が駆け抜ける。テーマの前半はペット一本、後半でテナーが乗る。
 アドリブへ向かってもテンションは落ちない。勇ましくかっこよかった。
 トランペットとサックスの短いソロが応酬。ドラムを芯にぶつけ合う。
 ハイハットが猛然と踏まれ、スティックはせわしなくライドを叩く。完全ソロでは、ロールの連発でメロディアスに磯辺はスネアやタムを叩きのめした。
 下手へ置かれたアンプへもたれた片山は、軽く足を組む。ドラム・ソロの合間に、その姿勢のままでテナーを強く吹いた。

 2ステージ目最後はミンガスの"Fables of Faubus"。渡辺曰く「片山さんの最新ソロから」。
「昔、フォーバスというとんでもない知事がいて・・・ま、いいや」
 片山が説明しかけて、笑って中断。演奏へ進んだ。
 これもたっぷりとベースが前面に出た。
 メンバーの視線が演奏中に交錯し、笑顔が漏れる。聴き手だけでなく、奏者らもジャズを楽しんでいた。

 アンコールはちょっと相談入る。"ブルー・ボッサ"かパーカーの曲を選んだが、早川が"ブルー・ボッサ"に良い想い出無いとか。
 打ち合わせて演奏されたのは、たぶんこれ。

 センチメンタルなメロディを情に溺れず、ペットとテナーでスピーディに攻めた。あまりソロを長くせず、シャキシャキと回す。
 コーダ間際で早川が聴き覚えあるリフを一節、渡辺が大笑いした。あれは"Sunshine of your love"だったかな。

 ライブを通してベースのアプローチがとにかく冴えていた。彼の演奏へ釘付けになるシーンがしばしば。
 流れるような展開で、あっというまのライブだった。各セット1時間、たっぷり演奏してたのに。
 気負わず寛いだ演奏で、ジャズを楽しんだ一夜。奏者達もすごく楽しそう。にこやかな微笑が始終漏れて、アドリブも活き活きしていた。満足。

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