LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/9/2   西荻窪 音や金時

出演:沖至+TOY
 (沖至:tp,笛,etc.、立花泰彦:b、太田恵資:vln、芳垣安洋:per
  +白石かずこ:朗読)

 フランスに居を構える沖至の2006年来日ツアーの一環で、TOYとのセッションが組まれた。TOYもずいぶん久しぶりなライブじゃないかな。
 ぼくは沖もTOYもライブは初体験。

 20時に近づいた頃、メンバーがゆっくりとステージへ上がる。
「・・・始めます」
 沖が呟いた。トランペットを構える。TOYがスケール大きくバッキングをつとめ、沖は短いフレーズを重ねた。サブトーンをほんのり含んで。
 まず立花泰彦と太田恵資は弓弾き。1stセットはエレクトリック・バイオリンで通した。
 太田と立花のみアンプを通す。沖の前にもマイクは立っていたが、あまり意に介さない。

 芳垣安洋はバスドラにペダルをつけ、そのうえにシンバルを一枚。最初はスタックだったが、演奏途中で取り外してしまった。
 カホンをスネアがわりに前へおき、その横に各種の鈴や鐘、鉄板などをスタンドからずらりぶら下げた。
 最初はブラシ。やがてスティック。次に違うブラシ。芳垣はめまぐるしく太さや材質違いの棒を変え、多彩な響きを導き出した。

<セットリスト>
1.即興#1
(休憩)
2."おお、ベネズエラ"(with 白石かずこ:飛び入り)
3.即興#2〜 ?
(アンコール)
4.即興#3

 1stセットは60分一本勝負の即興。場面が次々に変わった。
 静寂とアップ・テンポな場面が交互に現れる。四部構成ほどの組み曲のよう。たぶん、何の決め事も無い即興だった。

 主役は明らかに沖。途中でトランペットにミュートを付け、左手で開け閉めして響きを変える。
 そのあとしばし、バード・コールや横笛、縦笛などで奔放な演奏をした。トランペット以外では、メロディはさほど意識してなさそう。あくまでも音を発するのみ。気ままな姿だった。

 笛の音がきれいにマイクで拾われる。どうやらマスターが後ろでPAを丁寧に操作していた様子。
 途中、ふっと客電が暗くなった気が。あれは気のせいかなあ。
 幾本もの笛を、次々に持ちかえる。構成は気にせず、気の向くままに。時に二本咥え、笛同士を打ち鳴らしも。自由だった。

 TOYも明らかに沖を立てる。顕著だったのが太田。ディレイをかましふくよかな響きをまとって、時にソロへ向かう。
 ところが沖がかまわずに笛をぷかぷか吹いたとたん、太田はするりと一歩引く。アドリブがすぐさまリフに変わった。沖が自由に演奏できるスペースを作った。

 シャープなリズムの芳垣と、ちょっとずらし気味に立花が弦をはじく。途中からは弓を置いていた。
 沖は長いホースにマウスピースをつけ、ぷかぷかと吹く。ホースの先を持ち上げるが、響きの変化は聴き取れず。唇で音程を変えていたようだ。

 太田がスペースを見つけ、すかさずソロ。彼のアンサンブルのスペースを見つけ、加工するみごとさをこの日は幾度も聴けた。
 瞬発力とスピード感がすごい。ここだけは聞かせどころと思ったか、沖の演奏と折り重なるようにアドリブを加えた。

 トランペットに持ち変えた沖は、芳垣と立花のビートへするりと切り込む。
 抜群のタイミングに、弓を止めた太田がにっこりと微笑んだ。
 
 ベースのソロも。立花は右手で弦をミュートし、左手ではじいて音を出す。響きが新鮮でおもしろかった。

 中盤で芳垣が疾走。色合いが変わった。変則12ビートで猛烈に駈ける。ワウで短く音を切るバイオリンを聴かせたのもここだったか。
 太田はざんばらに弓の毛をほつれさす。指板にしなだれかかる毛を、うるさげにふりあげた。いつのまにかバイオリンの向こう側へ垂れ下げる。
 しだれ柳のような切れた弓を、太田は切ろうともせずぶら下げたままに弾きまくった。

 沖はトランペットを構え、反り返って力強くソロ。メロディを紡がず、短い断片を重ねた。
 芳垣は前においてたカホンにいきなり座り、強靭なビートを提示。膝をぶんっと振って、横に置いた金物群を鳴らす。いくども。その仕草が力強い。 
 シンバルが強くスティックで連打され、TOYがビートをユニゾン。
 スパッと切り落とす。
 静寂の中、沖がマウスピースを一つ持った。
 逆さにして、細い管を加えて鳴らす。静かに。それがエンディングだった。
 ジャスト一時間。計ったような時間感覚に舌を巻く。

 2ndセットは飛び入りで、白石かずこが中央に立つ。ベネズエラへ捧げた詩を朗読した。
 詩は半紙の巻紙に書かれ、読み進めた部分は足元へとぐろを巻く。
 沖はステージ横の上手に立ち、ホースやトランペットを吹いた。トランペットの二本吹きもさりげなく披露する。

 白石の朗読は10分ほど。メロディやソロをぶつける場面はなく、音を広げて終った。太田はアコースティックを使用。
 朗読が終り、颯爽と白石はステージを去る。巻紙は沖が片付けかけ、マスターがすかさず回収した。

 ステージ中央に戻った沖は、太田へ向かって幕開けの構成を任せるそぶり。
 一瞬「いいのかな」てなそぶりを見せるが、にっこり笑ってアコースティック・バイオリンを爪弾いた。ホーメイをうなり出す。ステージへぺたんと座り、白ワインを啜って聴く沖。
 スッと立ち上がり、アドリブを吹いた。やけに大きな形のトランペットで。

 太田はアドリブで、中国っぽい響きのソロも提示する。
 アンサンブルと沖のソロが交錯した。
 一瞬、曲が終わりかける。TOYのリフがびしりと決まり、沖も体から力を抜いた。
 拍手が飛びかけるが、太田はホーメイを再開。曲を続けた。

 沖は後半セットで、かなりTOYと音楽が交流した。個々のソロへもずいぶん時間をまかせる。
 バイオリンもたっぷりとアドリブへ。途中で太田はエレクトリックへ持ち替えた。やはりかなり、弓の毛を切っていたなあ。
 芳垣の足元へ置かれたシェイカーへ目をつけた沖。芳垣へ目礼して、シェイカーを軽快に振る。ひとしきり降ると、丁寧に芳垣の足元へ元通り置く。 持ち手の向きまで配慮するような心配りの仕草が印象に残った。

 バイオリンからベース、パーカッションへソロが繋がる。
 鐘を叩いて静かな響きも取り入れた芳垣だが、アドリブでは早いビートでカホンとシンバルを鳴らした。
 シンバルへ別のシンバルを一瞬重ねたが、すぐに外して脇へ追いやる。
 タイトなビートが燃え上がった。シンバルが激しく連打される。
 カホンとバスドラ、シンバルのみのシンプルなセットで、豪快なグルーヴを作る。

 トランペットが切り込んだ。絶妙なタイミングで。
 一丸となって盛り上がる。素晴らしくスリリングだった。

 やがて沖が曲を提示する。聴き覚えあるがタイトルを思い出せない・・・。

 芳垣が勇ましく歌う。太田もメガホンを持ってアジり返す。サイレンを鳴らした。
 白石の朗読に影響されたような光景だった。

 アコースティック・バイオリンとトランペットがアドリブを応酬。
 合間に曲のリフレインが変奏され、幾度も登場した。

 すぱっと着地。沖と太田がフランス語っぽい響きでなにやら語り合い、幕を下ろした。

 アンコールの拍手が響く。ステージ前でちょっと相談し、そのまま短めの一曲を。
 フリーに始まったが、やがてくっきりとリズムの輪郭が見える。
 ディキシー調に盛り上がった。軽快なソロが沖から太田へ、立花から芳垣へくるりと回る。
 暖かな雰囲気で、ライブが終った。

 演奏が進むにつれ沖+TOYではなく、4人がひとつのバンドのようなアンサンブルの溶け合いを、ひしひしと感じた。
 場面もがらりと変貌する。芳垣が次々にリズムや楽器を変え、音像の変化を促したのが大きそう。
 4人の音ががっぷり噛み合い、べらぼうに濃密な音世界が産まれた。
 コクのある即興を、堪能した。

 たぶんこの面白さは、音だけでは伝わらない。
 沖の笛や太田の爪弾き、芳垣の細かいパーカッションの操作や、立花による弦の扱いは、音のみでは単にノイズだろう。
 けれどもステージの光景が加わると、そのノイズがアンサンブルで占める位置を判断できるできる。
 視覚と聴覚、そして雰囲気を肌で味わい。相乗効果で魅力を堪能できるライブだった。

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