LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/8/21    大泉学園 in-F

出演:翠川+太田+さが
(翠川敬基:vc、太田恵資:vln、さがゆき:vo)

 この日は当初、黒田京子トリオの月例ライブ。しかし黒田の体調不良のため急遽セッションへ変更に。さがゆきが加わってのセッションとなった。
 終演後にマスター曰く、この組みあわせは初とのこと。意外。

 太田恵資が登場したのは20時をとっぷりまわったころ。それを予想して(?)、翠川敬基とさがゆきはぜんぜん"楽屋"から戻ってこない。
 おもむろにメンバーが揃ったのは20時を15分くらい過ぎた頃。幕は20時半くらいに、しずしずと開いた。

<セットリスト>
1. ? 
2.即興#1
3.即興#2
4.即興#3
(休憩)
5.Waltz step
6.I thought about you(?)
7.Haze
8.Passing
(アンコール(?))
9."インプロ方言"

 まず太田とさがによるセッションから。翠川は客席に座って、すっかり観客気分。終ったときには「もっとやれ〜!」と笑い声を上げた。

 さがが中央へ位置し、背の高い椅子に座る。目の前には大きなマイク。この店はフロアで聴くと奏者を見上げる視点になる。
 そのため、マイクに顔が隠されてしまい、細かな表情が見えづらかったのが残念。
 太田はアコースティック・バイオリンのみを弾いた。タールも用意したが、使わなかったはず。メガホンもなし。
 さらに言うと、最終曲までボイスもなし。さがへ気を使ったか。

 静かなフレーズから、次第にバイオリンがメロディに向かう。さがは早口の喉声でパーカッシブにぶつけた。まずは探りあいか。初競演ではないと思うが。
 どこか遠慮しあうよう。二人ともはじけない。音の感触はヨーロッパ調のバイオリン風味で、優雅に展開した。

 英詞のスタンダードかな?曲名は残念ながら分からず。
 バイオリンと吸い付くようなボーカルが滑らかに響く。
 演奏終わったあと、太田が「バイオリンと競演なのに・・・ピッチが素晴らしい!」と絶賛していた。
 どうやら楽器の性質上、音程とるのが難しいのかな。もうちょい詳しく説明しかけたが、喋りが盛り上がってそのままになってしまった。

 2曲目からは翠川が加わる。チェロをノーマイクで。冒頭では得意のpppも披露したが、ステージが進むにつれて、ぐいぐい力がこもる。
 激しい切り合いは一度も無いけれど、三人とも音が張っていた。
 
 両方とも10分強のインプロ。2曲目はさががパーカッシブに、3曲目はバイオリンとチェロが前面に出た、メロディアスな即興だった。
 さがは上半身を大きく動かし、マイク増幅の声と肉声を使い分ける。

 2曲目ではスキャットでフレーズを組み立てよりも、言葉の粒や響きを変えて音を積み上げるアプローチ。
 続いての即興では弦の対話に合わせたか、声を張った歌声だった。

 太田はチューニングがあわないのか、だいぶ抑え気味。
 しかし掛け合いからリフをチェロが弾いたとたん、すかさずアドリブを高らかに奏でた。
 黒田京子トリオとはくっきりと異なるアプローチな、弦の対話だった。
 
 この日はチェロが奔放に動く。あえて安定を避けたか。ほとんどがアルコ弾き。フラジオも飛び出すが、むしろ通常音域での演奏がメインだった気がする。
 さがと翠川のデュオとは、絡み方がまた違う。太田へどっしりと上モノをまかせ、リフやベースのフレーズをぶつけてゆく。
 だからこそときおり、朗々と取るソロがスリリングだった。

「1分くらいの短い即興やって、休憩にしましょ」
 さがの提案で、アップテンポに三人がつっこんだ。スピーディに音がからむ。実際には数分程度やって、あっさりと終った。

 どの即興も、エンディングはふわりと着地する。
 音の余韻が消え、ふと奏者が体の緊張を解く。そして、拍手が鳴った。
 ちなみに。「最後に「ハイ!」と一声入れるのが、山口とも流のエンディング」だ、と言い出す。
 面白がった翠川が、拍手の裏で「ハイ!」と一声入れていた。


 短めな休憩。特に打合せはしてなさそう。
「そろそろ演奏したほうがいいですかね?」
 太田が時間を気にして、マスターへ声をかけた。
「ゆき〜!演奏するぞ〜!」
 カウンターへすわってた、さがを呼ぶ翠川。
 
 さががステージへつくまえ、先にスタンバイした翠川が譜面をめくる。
「これ、やろう」
 太田に示した。さがへ譜面を、太田が渡す。
 翠川はさがへ言う。
「最初は二人でやるよ。でも、あとで入ってきて。ぜひ、演奏したいんだ」
 
 譜面を眺めるさがは、ドアに寄りかかる。
 静かな太田のイントロ。チェロが応えてすぐ、バイオリンはテーマを提示した。富樫雅彦の"Waltz step"だ。

 弦2本の絡みが、とてもきれいだった。チェロは奔放に指が指板を動き、音を遊ばせる。力強いバイオリンのアドリブ。
 ふっと音が小さくなったとき、さがが声を伸ばした。

 歩きながら、スキャット。椅子へ片座りして、ボイスのソロへ。
 ゆったりと喉が開いた。

「懐かしいな。この曲ピットインで富樫さんから、本番15分前に譜面渡されたっけ」
「今は演奏直前に渡したね。ひどいよな〜」
 コーダのあと、さがが譜面を見ながら呟く。すかさずつっこんだのは、翠川だったか、太田だったか・・・。覚えてないや。

 続いて、英詞のスタンダード。サビで"I thought about you"と歌ってましたが、あってるかは自信ないです。
 曲はしみじみしてよかったが、中盤での声色コーナーの記憶がどうしても残る。
 「ビリー・ホリデイ!」
 唐突に翠川が、さがへ声をかけた。とたんに嗄れ声気味に喉をしぼる、さが。このネタを、楽屋で相談してたとか。
 「チェット・ベイカー!エラ・フィッツジェラルド!リンダ・ロンシュタット!」
 小唄系から、どんどん朗々系に。声とアクションがどんどんオーバーになってくる。
 「美空ひばり!」
 太田が面白がって声をかける。うろたえながら、とたんに演歌調に。爆笑の展開だった。

 続いて太田の形態模写を二人ほど。大笑いしたけれど、詳細は割愛します。一人は本人のライブを聴いたことなく、どう書いていいのかわかんないので。

 続いてまた、富樫の曲を。"Haze"の譜面を翠川が見せる。
「ああ、"ハゼ"ね。これも富樫さんとやったな」
 にっこり笑って、譜面を覗くさが。

 今夜のベスト・テイクがこれかな。おごそかな弦の絡みから、じわりとテーマが立ち上がる。旋律が切なく広がる。黒田トリオで繰り返し聴いた曲だが、弦2本だと揺らぎが強調されて、しみじみよかった。
 さがのボーカルも幻想的に絡む。
 エンディングではバイオリンが、さまざまにテーマをフェイクさせた。

「ついでに、これ行こう」
 "Haze"が終るやいなや、翠川が呟く。リフを弾き始めた。"Passing"だったかなあ。
 さがが囁くようなボイスで向かったと思う。太田が即興の呟きを静かに載せた。太田がボイスを使ったのはここのみ。ホーメイも出さなかった。

 あまりにさりげない構成で、2ndステージが終った。もっと聴きたくて、拍手が続く。
 唐突にさがが、即興"東北弁"を始めた。ステージ前にその話で盛り上がったのかな?
 太田が即興"熊本弁"で応える。二人ががしがし掛け合いして、アンコール代わりの短い即興となった。

 初競演とは思えぬ、馴染んだ即興だった。ユーモアとシリアスが混在するサウンド。
 セッションの楽しさが伝わってきた。この組み合わせでも、次回のセッションがあるといいな。

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