LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/8/16  新宿  Pit-Inn

出演:新大久保ジェントルメン
(グレート金時:Vo,reeds,Per、イゴール:Vo,Key,Per、アブドゥール・ワハハ:Vo,Vln,Per
 福岡ユタカ:vo、仙波清彦:per)

 新大久保ジェントルメンのライブは初めて聴く。整然と曲を幾つかやると想像してたら、大違い。各セット1本勝負のインプロ(かな?)大会だった。
 爆笑と混沌といいかげんさが、うまいこと混ざり合った。
 
 舞台は楽器とマイクでぎっしり。中央奥に仙波清彦のドラム・セット、その前に福岡ユタカのマイクとカオスパッド(かな?)。
 その下手には小さなもうひとつのドラム・セット。仙波清彦が二種類のセットを叩くかと喜んだが・・・違った。グレート金時のぶんでした。
 なんでもライブによっては、アブドゥール・ワハハもドラム叩くことがあるとか。
 
 一番下手のグランドピアノの前に、小さなキーボードやパーカッションがうずたかくセッティングされた。
 ピアノは逆方向に向けたほうがよかったのでは、と正直思う。イゴールだけ、寂しく下手側に配置されてるように見えてしまう。中央で他のミュージシャンが暴れてるだけに、イゴールのポジションはもどかしかった。

 客電が消え、パーカッションの音が聴こえる。山高帽をかぶった髭のイゴールは、ピアノの前へ腰掛けた。
 "イゴールの嘆き"を朗々と歌う。つけ髭が気になるのか、たまに手で抑えながら。

 タールを叩きながら、金時とワハハが客席を練り歩く。後方で撮影してたビデオに向かって、わいわい騒いでた。
 指先をしならせタイトに叩くワハハと、賑やかに鳴らす金時。
 歌を終える頃、メンバーがスタンバイした。タールの周りに付いた金具を、金時が大きく振って鳴らした。

「キョウハ、アリガトウ!」
 いきなり終わりのメッセージをたどたどしく、ワハハが喋って笑わせる。
 ワハハは素肌に蝶ネクタイとスーツ、胸へ花をさす。演奏が始まると、この花も小道具に遊んでた。

 金髪カツラの金時がクラリネットを持つ。いきなり循環呼吸で、超ロングトーンを始めた。
 ランダムにピアノやキーボードを叩くイゴール。ワハハは象のおもちゃを持ち出し、尻尾で"イパネマの娘"を演奏したかな。

 混沌と演奏が続き、唐突に金時がマイクを持つ。演奏中に、仙波清彦を呼び出した。シェイカーを降り、客席を通って登場。
「こんなバンドとは思ってなくて、私服で来ちゃった。・・・乳首、見えてます」
 Tシャツ姿な自分の胸を突き出してみせた。
 そのままドラムセットへ座る。思いっきりリラックスしてたな。

 仙波は金物パーカッションをシャープに叩いた。大胆なことに、他の三人までパーカッションで対抗。
 タールを置いたワハハは、割り箸を持って譜面台や金時のドラムセットを軽やかに鳴らした。

 中盤からはやりたい放題。奔放なフリーが展開した。それぞれの立ち位置が見えて面白い。
 イゴールはバッキング気味なプレイをし、キーボードでベースラインを奏でる。金時は率先して遊び倒した。各種の笛を吹き散らかし、バスクラを持つ。アルトサックスはなかなか持たない。
 しかし場面が停滞したと見るや、すかさずサックスで場を締める嗅覚がさすが。

 ワハハは場のノリを意識してか、躊躇いが目立った。バイオリンを基調に奏でるが、マイクがオフ気味でアコースティックはいまいち聴こえづらい。
 さらに仙波や金時の動きを見て、楽器を持ったり下ろしたり。弾こうとしてはやめる瞬間がいくつもあった。なかなかソロへ向かわない。
 とはいえ、そこはワハハ。仙波のタイトなドラミングにあおられて、エレクトリックでみごとなソロを取った。
 この日はボウイングも激しく、あっというまに弓がほつれまくってた。
 
 展開は誰も決めてなさそう。仙波も奔放に動き、しょっちゅう前へ出ては様々なパーカッションを鳴らす。
 歯に当てる口琴を、高速で演奏するさまには舌を巻いた。手首の鋭さも相変わらず。ハイハットを片手で連打する様子に目が釘付け。

 金時がホースを振り回し、仙波が別の振り回すパーカッションで対抗。
 次に金時が笛を二本弾きするのを見て、ワハハは強引にバイオリン2丁弾き。最後はバイオリン同士をコツコツ叩き合わせた。
 仙波が骨を模した、大きなパーカッションを両手で叩く。
 実際には叩こうと思った瞬間、金時がさっさと下手へ戻ってしまう。一瞬寂しそうな表情の仙波を見たワハハが、さりげなく仙波を盛り立てて演奏へ突入した。

 とにかく笑いの絶えないステージ。最後はブルーズで締めた。
 イゴールがいきなりピアノを叩き、歌いだす。すかさずバスクラへ持ち変えた金時。ドラム+ピアノ+バスクラ+バイオリンと変則アンサンブルながら、見事にブルーズが決まった。
 凄腕ミュージシャンぞろいなため真剣にアンサンブルへ入ると、とびきり小気味良かった。

 短めの休憩で三人と仙波が登場する。金時は金髪へしっかりとバンダナ(?)を巻いていた。
 すぐさまゲストの福岡を呼び、そのままインプロへ入る。伸びやかな福岡のボイスが、店内に響いた。カオスパッドでエフェクトをかけ、エコーをかけたり断続で切ったり。ワハハが面白そうに眺めてた。
 もちろんワハハと福岡のボイス・バトルもばっちり。

 いきなりワハハが床へ倒れこむ。助け起こす福岡。そのまま歌舞伎(?)調の演技を即興ボイスでやり始める。
 パッドへ向かった仙波が指先で素早く叩き、鼓の音を高速で叩きこんだ。
 ひとしきり演技が終り、立ち上がる二人。ワハハが仙波を見て、嬉しそうに「本物だ〜!」と笑顔で指差した。


 後半も即興だと思う。場面ごとに金時が「2曲目!」「3曲目!」と叫ぶ。
 特にリーダーシップはとっていなさそう。
 
 唐突に仙波が「帰ったらボサノバ聴きたいなー」と呟いた。
 超高速ビートを叩き始める。イゴールがピアノで併せようとするが、ことごとく仙波のダメ出し。ハイハットに併せろ、と言ってるようだが細部は聴き取れず。

 アンサンブルがとっちらかり、「世界で一番難しいビートをやる!」と仙波が宣言。ちょっとハイハットをひねった、シンプルな8ビートを叩く。
 ピアノがかぶったが、微妙にずれてるみたい。
「・・・これすらも併せられないのか!」
 仙波が嘆いて、大爆笑だった。

 金時は様々な楽器を吹いた。大きなポリバケツを担いで鼓のように叩いたのが強烈な印象で残る。
 後ろから仙波がやってきて、二人羽織風に腕を動かして踊った。

 ひとしきりの爆笑即興のあと。金時がクラリネットを構えなおし、流麗なメロディを吹く。変拍子をさらりと流した。
 それまでワハハはパーカッションを叩いてた。すかさず楽器を置き、一枚の譜面を台へ載せる。
 バイオリンを構えなおし、メロディへ載った。
 梅津の曲、"ベルファスト"だ。

 エンディングまでタイトに突き進む。アドリブもさることながら、イゴールと仙波の作るカッチリしたビートがめちゃめちゃ心地よい。
 各人のソロも冴え渡った。特にソロ回しの風情は無く、自然発生的に演奏が進む。
 最後は仙波のみごとなフィルで幕を下ろした。

 演奏は各セット50分程度と、若干短め。アンコールの拍手の中、全員が民謡みたいな節を唸りながら登場。
 ひとしきり全員で歌った後、さくっと終らせた。

 仙波は新ジェンが初めてのようだが、ギャグのセンスやタイミングが新ジェンのノリへ見事にはまってた。
 げらげら笑いながらライブ聴いたのは久しぶり。確かなテクニックに裏打ちされたふざけっぷりが痛快。さほど頻繁にライブやってるイメージ無いが、ぜひまた聴きに行きたい。

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