LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/8/12   西荻窪 アケタの店

出演:林+千野+石渡
 (林栄一:as、千野秀一:p,key、石渡明広:g)

 この日は完全なセッションかな?曲をやるかもと期待したが、前後半共に完全フリー。
 長尺でだらだら押さない。曲が自然に終るのを見計らって、各セットとも4曲程度の即興を演奏した。
 千野はピアノだけでなく、ムーグのショルキーを持ち込んだ。
 リーダー役は特に設定してなさそう。比較的、林が仕切り気味か。

 とにかく林と千野が奔放に弾き倒し、そこへ石渡が切り込む格好。
 1stセットではパイプ椅子に腰掛けて聴きに入る場面が目立った石渡。そのため、今ひとつ物足りなさが残る。
 後半になると積極的にギターがからみ、スリルが増した。ブライトな音色を中心に、ときおりオクターバーでぐっと音程を下げ、ベースのように操る。
 あんがいこのセッションのキーパーソンは石渡だったのでは。

 アルト・サックスの無伴奏ソロから音が重なる。メロディはごくわずか。さえずるような独特のフラジオを、循環呼吸で連ねる。顔をクシャッとしかめ、マウスピースを噛み締めた。
 鋭くても余裕ある、ユーモア残る音色。ライブ全般を通して、重苦しい緊張はなかった。
 ときたまメロディが産まれる。3度で駆け上がり、ほんのりブルージーに溶けた。ピアノやギターと僅かに絡み、舞う。

 千野は一曲目から強く指を振り下ろす。とたん、鈍い音。ピアノ線が一本、切れたようだ。一曲終ったところで、くるりと丸めて蓋の間から飛び出させた。
 他にも調律ずれたところあるのか、ずいぶんホンキートンクだった。
 身体を大きく動かし、鍵盤へ指を落とす。時にはクラスターも。
 勢いよく指を回し、メロディよりも細切れな音列をひっきりなしに出した。

 林も千野も独自のビートで動く。小節も拍子もフリー。しかしどこかでノリが交錯し、グルーヴが成立した。
 出遅れ気味に感じてしまったのが、石渡。パイプ椅子に腰掛けて、ブライトな音色でギターを鳴らす。足をペダルに乗せ、ワウもかませた。
 単音やカッティング風味で絡むが、主導権をつかむまでいたらず。もどかしかった。

 10分くらいたって自然に音が着地した瞬間、林がアルトサックスを口から離す。軽く一礼、曲の終わりを示した。他の曲でも同様。最後の曲を除いて、林がどこで終るかを決断していた。
 全員が音を止めた瞬間を狙ったため、特に強引さは無い。

 2曲目あたりで、石渡は低音のアプローチ。ベースのように弦を鳴らす。
 リズム楽器が無いぶん、石渡のフレーズがくっきりとサウンドの輪郭を作った。
 千野は長く手を伸ばし、ピアノの内部奏法で対抗。
 
 続く即興では、千野が立ち上がる。ショルキーをスタンドへ立てたまま、俯いた姿勢でキーボードを低音で弾く。
 ウッドベースのような扱いでアドリブへ持ちこんだ。

 ソロ回しのお約束は無い。あくまで自然発生で進む。ほとんどは林が吹き続け、千野が絡む。互いにマイペースで弾きながら、アンサンブルはきっちり成立した。
 一曲終るごとに林が時計を眺め、約50分のセット。

 「一曲目は千野さんのソロでどう?」
 声をかけたのは林だろうか。飄々と千野がピアノへ向かう。
 ピアノ・ソロで2部は幕を開けた。クラシカルなフレーズ。曲だと思う。ランダムに旋律がふっと崩れ、フリーな音が奔出した。
 5分程度ながら、濃い内容だった。

 ふらっと立ち上がる千野。そのままステージを降りてしまいそう。
 笑いながら片手で押しとどめる林。千野がふらふらとピアノへ戻る。
 セッションが始まった。ショルキーを千野が抱えたのはここか。

 石渡がカッティングっぽくストロークを進め、きっちり前のめりに進む。
 林は猛烈なフリーク・トーンの長尺。後ろを向いたまま、ショルキーを肩から下げる。フィードバックを引き出すように、アンプへ向かって腰を下ろし、鍵盤をちょこちょこ弾いた。低音が中心。

 立ち上がって林と渡り合う、ってパフォーマンスを期待したが・・・そんな気はさらさら無いみたい。
 千野はゆっくり立ち上がったが、相変わらず背を向けたまま弾く。演奏が進むにつれ、次第に身体がステージへ開いていく。
 たっぷり時間をかけて、半身に。グランド・ピアノへ寄りかかり、ショルキーの操作を観客へ見えるようにした。
 無頓着なのか照れくさいのかわからない。音もさることながら、その演奏スタイルへ目が行ってしまった。

 「水を頂戴」「あ、ぼくも」
 曲の合間に、林と千野が水を求める。
 いつの間に登場したのか、明田川御大自らコップを二人へ手渡した。

 後半セットは進むにつれ、アンサンブルに味が出る。
 最後の曲がロマンティックできれいだった。フリーク・トーンから、ゆったりしたメロディに。アルトが鳴る。
 ギターのアドリブも、すとんと音像にはまる。三人三様のフレーズが調和した。
 ほとんどが早めのテンポだった今夜のライブで、唯一のスロー。幕を下ろすのにぴったりだった。

 2部は約45分の演奏。
 アンコールの拍手へ、まず林がこたえた。
 無伴奏でアルトを吹いた。鋭く、断片的な音列でメロディを組み立てる。モンクのイメージが頭に浮かぶ。
 全て即興と思う。旋律からフリーへ、また旋律へ。数分間をサックスで埋め尽くした。
 その横を石渡と千野が、タバコを片手に通り過ぎる。

 ふっと音が途切れそうなころあい。石渡と千野が滑らかに音を重ねた。
 林が横へ身をずらす。ピアノとギターのセッションをしばし聴きに入る。
 やがてその場でマウスピースを咥え、吹きながら中央へ向かった。

 アンコールだけで15分近く。3人の音ががっしり絡んだ。
 石渡のギターが冴え、林のフラジオと渡り合った。千野の鍵盤がリズミカルにあおる。このサウンドを聴きたかった。
 後半2曲とアンコールは、CDで成立しそう。録音はしてなさそうだが。

 アケタの写真館を見ても、次回の予定はないようだ。
 この三人だけのセッションは初めてなのかは不明だが、特に続けるつもりないのかな。煮詰めたら面白いサウンドが鳴りそうなのに。
 肩の力を抜いて、互いの音楽をぶつけ合う。自然体のセッションだった。

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