LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/8/7 入谷 なってるハウス
出演:渋さチビーズ
(小森慶子:ss,as、立花秀輝:as、不破大輔:b、岡村太:ds)
不破大輔が19時半ごろ、ぬうっと店内へ姿をあらわした。手早くウッド・ベースをセッティングし、全員のサウンドチェックで"行方知れズ"を一節。小森慶子や立花秀輝がフラジオを響かせた。岡村太が威勢良くスネアをひっぱたく。
一休みして、おもむろにライブの始まり。店内はほぼいっぱいの入りだった。
「・・・行方知れズ」
メンバー紹介の後、不破が静かに呟く。
<セットリスト>
1.行方知れズ〜股旅〜行方知れズ
(休憩)
2.バルタザール〜犬姫〜ナーダム〜仙頭
今夜は前後半ともメドレーで、自由に演奏が進む。新たなステップを感じさせる、力強い演奏だった。
一音、一音。不破が静かに弦をはじく。小森がそっと音をのせ、ゆったりとノービートで幕を開けた。
前半の"行方知れズ"は全てフリー。テーマへまったく行かず、アドリブのみで構成された。
小森が上手、立花が下手。二人ともステージから落ちそうなほど、ギリギリに立って演奏した。
いきなり小森が素晴らしいソロを聴かせる。突き抜けた冴えっぷりで、メロディアスに吹きまくった。
冒頭から15分ほど、休み無いアドリブ。最初はカウンターを入れてた立花だが、途中から聴きに入る。
アルト・サックスを高らかに掲げ、惜しみなく小森はメロディを振りまいた。
涼しげなワンピース姿でマウスピースをがっぷり咥え、キュートにサックスを操る。
特に高音の切れがばっちり。するるるっと歌い上げるフレーズの、エッジがぴんっと立った。
フラジオもきれいにぱあんと響く。後半はフリーキーにたっぷりと軋ませた。
つとサックスをふって、立花へアドリブをうながす。そのまま袖の、ピアノ席に座った。
立花は身体を大きく動かし、フラジオのばら撒き。小森のソロが抜群だっただけに、ちょっと小粒に聴こえてしまう。
ドラムとベースはひたすらグルーヴィにリズムで猛進した。音数少なめで、しっかりと不破は弦をはじく。ドラムはビートをキープよりも、パーカッシブに叩きのめすイメージ。
小森がすっとステージへ戻る。ソプラノで即興を始めた。
ときおりくっきりと、アドリブのリフが提示される。
リズム隊の音が消え、いつしか小森のソロへ。ふわりとメロディが変わる。アドリブだが、曲想は明確。
ドラムとベースが乗っかり、立花がカウンターを入れる。
小森は"股旅"のテーマを吹き鳴らした。こうくるか。
繋いだ立花のソロも、力いっぱいメロディアス。頬と首をぶっとく膨らませ、身体を大きく曲げて次々にきれいな旋律を搾り出した。
威勢良くドラムが打ち鳴らされ、サックスをあおる。
しかし小森のソロが始まると、彼女の独壇場。立花はステージ袖で聴きに入り、たまにカウンターを入れてもステージへ戻らない。
アドリブの主導権は、小森ががっちり握った。
ベースのソロへ行く切っ掛けはなんだったろう。
不破は高速フレーズを取り混ぜ、強く唸りながら猛烈に弦をはじいた。
最近、不破のソロを聴いてなかったから嬉しかったな。
みるみる不破の額に汗が滲む。岡村も汗びっしょり。
明確な"行方知れズ"のリフをベースが提示する。
すらりと小森のソプラノが加わった。
エンディングまで2管のソロがたんまりと。やがてテーマへ収斂し、ベースのリフに沿ってフロントが雄叫びを上げる。
終盤リフを繰り返し、合間にサックスのソロへ。
ついに小森が飛び跳ねてコーダへの合図、一気に雪崩れた。
前半は50分ほど。後半は20分くらいの短い休憩で始まった。
イントロはベースだったかな。岡村はブラシに持ち変えた。
小森はソプラノを持ち、"バルタザール"のテーマを朗々と奏でた。
後半セットでも小森のアドリブは切れ味鋭い。空気を弛緩させない。
くいっとサックスを振って、立花のソロをうながした。
フラジオを連発させ、ひたすらサックスを軋ませる立花。顔を真っ赤にし、ハイテンションにつっこんだ。
涼しげな顔の小森は、ソプラノをベースのボディへ押し付けたり、その場にあった扇子で弦を叩き、不破に苦笑させる。
さらにピアノの上に置いたアルトのベルへソプラノをつっこみ、リフを響かせる。アルトのベルと外へ、ソプラノの先を出したり入れたり。リバーブ効果を狙ったかな。
今夜は不破以外、全員がノーマイク。そのためか、さほど音の違いは聞分けられず。
果てしないフリーキーで吼える立花と対照的に、優雅なそぶりだった。
カバンをごそごそかき回す小森。ホイッスルを吹き、ヘアスプレー(?)を宙に撒いたり、コミカルな仕草だった。
ところがアドリブに入ると、一転してハイテンションで疾走する。その対比がすごい。
小森は"バルタザール"のテンポやアクセントを次々フェイクさせ、さまざまなアレンジで聞かせる。
岡村が迅速に合わせ、アップテンポのスカで応酬した。
ステージを軽やかに歩きながら、吹き続ける小森。不破へ向かってソプラノ・サックスのベルを軽く振り、ベース・ソロへ持ちこんだ。
無伴奏でぶっとい音が強く店内へ響く。猛スピードで激しく指が動き回り、フル回転で弦が弾かれた。
おもむろに小森が、"犬姫"のテーマをなめらかに吹く。
2管のアドリブが交わされた後、無伴奏で小森と立花のサックスによる対話へ。
参入を伺う岡村だが、タイミング合わずにグルーヴが解体してしまう。
顔を見合わせ、苦笑する三人。
すかさず不破が、ベース・ソロで音世界を繋いだ。
高音部をぐっと数音、弾く。不破はアドリブよりも、シンプルなリフを延々と続けた。
岡村がカウンターをいれ、いつしかドラム・ソロへ変わる。
しかしひたすら、不破はミニマルに高音を弾き続けた。
額からまぶたまで、汗まみれ。かまわずに不破は、ひたむきに弦を弾く。
ついに音が変わった。ドラムがついていくが、曲が分からない。
小森はステージ袖で宙を仰ぎ、コードを追っている様子。
おもむろにアルトをくわえなおした。歩を進め、ステージへ上がる。
フェイクしたフレーズから、アップテンポな"ナーダム"が始まった。
立花は腰を大きく曲げ、足の間にサックスを投げ入れて吹き続ける。
目を閉じた小森は、軽くステップを踏みながらスピーディに旋律を溢れさせた。
テーマが解体し、アドリブへ。テーマへ戻り、また即興へ崩れる。
山盛り味わい濃い演奏だった。
コーダへ一件落着した瞬間、不破のカウント。"仙頭"だ。
立花が岡村へ向き、フラジオをぶつけておどける。
そのとたんにやりと笑った岡村は、猛烈にバスドラを踏みつけて、ブラスト・ビートでやり返した。
"仙頭"は着地しても、勢い余ってそのまま続く。珍しくさらにコーダが続いた。
おしまいに小森が一節吹いて、不破が音を載せる。後半は約1時間。
とにかく今夜は、小森のサックスが飛び切り。隙の無いフレーズが、果てしなく溢れる。ひとつ突き抜けた印象だった。
さらに不破のベースもたっぷりソロあり、4人の個性が強調された。
ひときわまとまったアンサンブルを堪能の、内容たっぷり豪勢なチビーズだった。