LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/8/5   下北沢 PIGA

   〜natural gift presents LiFeLiKe vol.6〜
出演:nyaaano

 若手バンドを積極的に紹介するイベント、"natural gift"の別企画が"LiFeLiKe"。弾き語り歌物をメインとするコンセプトのようだ。
 この日は4人のミュージシャンが各20分の持ち時間で出演。時間にきっちりしたイベントって印象あるngだが、今夜はちょっと押し気味。その後に用事がもうひとつあったため、残念ながら最後は気もそぞろになってしまった。

 目当てはi-tunes奏者のnyaaano。その他の出演者は4畳半フォークや、サイケ・フォークありの弾き語り。ここではnyaaanoに絞って、感想を書きます。

nyaaano(19:55〜20:15)

 03年に解散した即興バンドspeonic teroecaのリーダー、庭野によるソロ・ユニットがnyaaano。同年11月にソロ・ライブをやるものの、しばらくライブは休止していた。
 ところが今年あたりから、i-tunesの即興を元に数回のライブを実施。やっと見に行けた。

 i-tunes奏法とは画面上部の時間軸バーを再生中に動かすことで、音飛びやループのような効果を生じさせる方法をさす。
 やってみると面白い。思い通りに操作するのが大変だけど。

 nyaaanoはライブにマックとサンプラーを持ちこんだ。
 ノートを立ち上げ、曲をクリックする。
 左手でサンプラーのボタンを次々押した。中指や親指を同時押しで、ループのリバーブやピッチなどを調整していた様子。
 音はミニマルなテクノだが、ビート感は希薄だった。マックの画面が見えたが、曲はさほど頻繁に変えてないふうだった。

 ときおり、左手でキーボード右下を押さえる。なにやってるんだろう、と思ったら。曲を変えていたそう。
 あくまで右手のマウスは時間軸バーの操作に使用していたのかな。

 メロディもパターンもかなり抽象的。静まり返った店内に、電子音が漂う。
 みりみりと時間が揺らいだ。音数は少なめ。サンプラーはエフェクタとしてのみ使用で、i-tunesでの自作音源のみを操っていたようだ。だとしたら、かなり音数は厚い。
 喋り声のサンプリングも現れ、リバーブやダブ効果を施された。

 マウスさばきは極わずか。i-tunes奏法のダイナミズムをぼくの耳では判別できず。
 素材が抽象的なせいか、どこまでがオリジナルでどこからがリアルタイム加工か分からずに聴いていた。

 むしろ左手のほうが頻繁に動いた。エコーやサンプリングのピッチをしきりに変え、単調さを避ける。唐突にリバーブを切り落とし、素の音素材を浮かばせるスリルが面白かった。
 
 ミニマル志向で淡々とすすむと予想したら、かなりアヴァンギャルド。繰り返しやポップさを意図的に避け、サウンドは変わり続ける。
 冒頭に簡単な挨拶をしたほかは、20分間ノンストップでnyaaanoは画面へ向かった。

 ときおり、ぶつっと途切れる音。意図かともかく、連続性を拒否する演出のように聴こえた。
 ステージ・アクションや、観客とのコミュニケートも皆無。あくまでも画面へ没入する、ストイックなステージだった。

 曲としての一貫性は気づけなかった。
 中盤で喋りのダブ操作が集中するなど、構成は準備してたのかも。
 音量はさほど上がらず、ノイジーな方向へ行きかけても、決してハーシュな展開にならない。あくまでも耳ざわり良く、混沌とした電子音が漂った。

 観客はじいっと息を潜め、nyaaanoの音楽を見つめていた。次になにが起こるのかを探るかのごとく。
 寸前のミュージシャンと、あまりの落差がユニークだったな。
 他は大なり小なり歌ものだっただけに、nyaaanoの音楽性がことさら目立った。

 終了の時間が近づいたか。マウスが大きく動く。
 nyaaanoは無造作に、i-tunesを終了させた。
 ソフトを閉じてしまう。画面はすっきりとして、何も表示されない。

 音は僅かにあたりへ響く。ディレイをかけていたのだろうか。訥々と響いた。
 つまみを触って、音を止める。静寂が戻った。

 挨拶をして、撤収へ。あっというまのステージだった。

 i-tunes奏法を耳馴染みしやすくする方法は幾つかある。
 たとえば聴きなれたポップスをスクラッチや、喋り音源をいじってコミカルな演出など。
 しかし安易な方法で聴衆の集中を集める方法を避け、とことんミニマルなエレクトロ・テクノをあえて選ぶ志向がいさぎよい。
 
 さらにサンプラーを横へ置くことでサウンドの複雑性も増した。
 次なる方向性は不明だが、今後の活躍が楽しみ。

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