LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/8/1  代々木 ナル

出演:小森慶子+吉野弘志
 (小森慶子:cl,b-cl,ss、吉野弘志:b)

 もともとは黒田京子の仕切りで小森慶子とデュオの予定。ところが黒田が突発性難聴で残念ながら欠席し、吉野弘志とのライブになった。

 黒田の出られぬことを小森が説明、吉野を紹介する。
 ベースの爪弾きへ、バス・クラリネットが乗った。
 ランニングのベースに、聴き覚えのあるグルーヴィなテーマ。ぐっと黒っぽいアプローチがなんだか意外だった。

 鋭くバスクラが切り込み、ベースとフォー・バーズに。そこからチェイスで加速する。びしばし弦をスラップさせたのはここかな。
 のっけから前のめりな演奏で、今夜の期待が高まった。
 
<セットリスト>(不完全)
1.(ローランド・カークの曲)
2.パストラル
3.It's tunes〜"即興"
4. "即興"
5.(アンソニー・ブラクストンの曲)
 (休憩)
6.カステリョ・ドルメント(?)
7.レント〜ガヨ(?)
8.フーベリング
9.ヒンドゥ
10.Self-portrait in three colors

 一曲ごとに曲名を紹介する丁寧なMCだったが、曲名を覚えきれず。すみません。特に小森のオリジナル、(2)、(6)、(7)、(8)はタイトルすら上手く聞き取れない始末。
 選曲はおそらく、全て小森だろう。オリジナルとカバー曲がバランスよく並び、数曲の意外なレパートリーが選ばれた。(1)、(3)、(9)あたりが新鮮だった。

 小森は曲ごとにバスクラからクラ、ソプラノ・サックスへと持ちかえる。この店は僅かに残響あるが、低音でぐいぐい押す曲がなかったせいか、クラリネットが最も効果的に響いた。
 ふたりともアンプ無しの演奏。ベースがかき消されるかと思ったが、巧みにフレーズを工夫し、きっちり響かせた。

 正直なところ、二人ともぎこちなさを僅かに感じた。特に吉野はサポート役に徹し、ほとんど目立たない。無論ソロ回しはあるものの、最低音弦のバーはついに外さず。(いや、(1)のラストで外したかな?)独特の超低音を響かせることはなかった。
 選曲もおそらく吉野のカラーは出さず。突発的な参加だし、仁義としてこういうときは前面に出ないものなのかもしれない。

 とはいえせっかくの機会。むしろがっぷり二人の斬りあいも聴きたかった。
 今回のミュージシャン変更は残念だったが、怪我の功名もこっそり楽しみにしてた。小森のクラで吉野が得意とするモンゴルの曲や、彼のオリジナルの演奏、とかね。

 そんな距離感でのライブだったので、勢い小森が全面に立つ。特に1stセットでは、多彩なボディ・アクションも取り入れ、のめりこんで奏でた。
 ふわりと左手を宙に舞わす独特のポーズだけでなく、手首を高く上げて指先だけでキーを押さえる優雅な仕草。
 さらに足や腰、肩をくるくる動かして、魅せる。
 ぐっと来たのが、(8)あたり。背筋をぴんと伸ばした半身で髪の隙間から、鋭い目で譜面を見つめる。一瞬のポーズがびしりと決まってた。

 今夜の小森はスローなメロディが味わい深かった。たとえば(2)。 
 クラリネットでテーマからスムーズにアドリブへ移行する。美しいメロディが3拍子に乗り、即興すらも全て書き譜のようだった。
 吉野も負けずに、アルコで重厚なソロを取る。

 続く"It's tunes"は富樫雅彦の曲。これを切っ掛けに即興へ雪崩れた。すごく意外な選曲。もしかしたら黒田+小森デュオのために、準備していたのかも。
 硬質なリフがソプラノ・サックスとベースで絡み合う。抽象的でノービートな展開が刺激的だった。

 完全即興で演奏されたのは(4)のみ。この曲に限らず、小森は吉野を立ててイントロをベース主導にうながす。吉野も遠慮してか、実際はほとんど小森の音が切っ掛けになってたが。
 中盤ではベース・リフにまたがって、メロディアスなクラのアドリブが入る構築した展開にも行った。
 力技の押し合いな瞬間も。ずぶずぶの応酬で無く、どこか洗練された感触だったかな。

 1stセット最後は、小森が好んで取り上げるアンソニー・ブラクストンの曲。毎回、曲名を言ってくれるが・・・さっぱり覚えられない。
 クール・ジャズっぽいアレンジ。テーマはベースとユニゾンだった。ソロ部分では、ソプラノ・サックスがベルを大きく上へあげ、高らかに鳴る。スピーディな展開だった。
 ソロ回しからテーマへ。小森のヒールが切っ掛けを軽やかに踏み、幾度も二人はテーマをユニゾンで弾いた。

 
 後半セットは小森の曲を連発で幕を上げた。なんだか二部になると小森が、元気なく見えてしまった。気のせいかな。
 メロディを大切に演奏が広がる。クラリネットが凛と響いた。

 (7)のメロディがダイナミックでよかった。前半曲では、吉野がアルコでリフを連ねる。小森はテーマをフェイクさせつつ、ソロをたっぷり取り混ぜた。
 目線でベースへアドリブをうながす。吉野も丁寧に、かつ素早い動きで音符を操った。
 ひとしきりベースが音を重ねると、ふっと滑らかに次の曲へ。ユニゾンで次なるリフが、美しく提示された。

 (8)も小森の得意レパートリー。デイヴ・ホランドの曲をモチーフに、即興へ雪崩れた。
 冒頭テーマの一瞬、鈍くフラジオを響かせる瞬間。小森はくっと膝を曲げ、強く音を震わせた。
 硬質なイメージがここでも漂う。アップな展開を見せても、静かに高まるのみ。汗を飛び散らす熱気とは別のベクトルだった。

 小森が翠川敬基とのデュオでやった、翠川のオリジナル(9)。これを演奏するとは思わなかった。複雑な音列が気に入ったのかな。
 吉野も奔放に音を動かし、小森との互い違いに音をぶつけ合う。リズムはアブストラクトで、響きも複雑。面白かった。

 クライマックスがミンガスの(10)。抜群に切ない快演だった。
 寂しげな空気が僅かに漂う。ひたむきにクラリネットのアドリブが舞う。
 端整なベースががっしり支え、頼もしく受け止めた。
 きれいなメロディで、魅力に溢れてる。あっさりめに終ってしまったのが残念。もっともっと長尺で聴きたかった。

 各セット1時間程度。あっさりと進んだ。もどかしさが正直、残る。もっと二人の音楽はすごいはず。
 小森はステージを引っ張ろうと構成をきっちり立て、吉野が遠慮深く受け止める。破綻無く整然と纏め上げた。
 つまりスリルが希薄だった。突発的なデュオに求めるべきでないのかもしれないが・・・。

 黒田がどういう意図で、吉野を緊急ブッキングしたのかは分からない。ピアニストはあえて避けたのか。ベーシストを選んだのはなぜだろう。 

 完治したら黒田と小森とのデュオは、どこかで再演されると期待したい。そのときにはゲストで吉野を呼んで、トリオでも演奏して欲しいな。

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