LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/7/30  吉祥寺 GRID605

出演:中村直嶋デュオ:vol.1

 "隔月で一年間、6回限定"ライブの1回目。中村としまると直嶋岳史のデュオに、ゲストのデュオを招く構成か。
 会場は大友良英が主宰(でいいのかな?)の新スペース、GRID605にて。ここは初めて行った。

 ほんとうにこじんまりした場所。クーラーがかなり効いてるし、床はつるつるのボード(塩ビらしい)が貼られてる。最低限靴下を履いていったほうが良さそう。冬になったらスリッパ持参したほうがいいかなー。
 場内は禁煙。喫煙場所のベランダはステージ・スペースの奥になるため、タバコを吸うのはムリ。そのかわり出入り自由となっていた。そんな長尺の構成じゃなく、タバコ吸いたくて悶絶はしなかったが。

 椅子はパイプ椅子がずらり。定員30名と聴いてたが、むしろあのスペースに30人押し込むほうが大変そう。理由は最後に書くが、床に絨毯しいてフリーに座らせるやり方も検討して欲しいな、と思った。
 小劇場みたいなぎゅうづめってのは、勘弁して欲しくもあるが。

 この日は開場が16:30で開演が17:00。夜の10時くらいまで5時間くらいぶっ続けのイベントか?とドキドキしていったが、そんなことはなさそうでほっとしたよ。
 あの環境で身じろぎもせず長時間座ってるのは、こらえ性の無いぼくの正確だと辛いです。
 この日は風邪が直らず、喉が痛い。小音量ライブだったので、咳をこらえるのが大変でした。身じろぎする音すら、場内に響きそうな静けさのライブだったもので。

中村+直嶋
(中村としまる:mixing board,g、直嶋岳史:mixing board,objects)

 観客が集まるのを待って、17時を20分程度まわった頃に開演した。
 ふたりとも床にぺたんと座る。フェルトの絨毯ユニットを幾つか並べて、底へ機材を置いていた。
 中央に録音用とおぼしきマイクが立つ。二人とも床座りだったため、演奏風景が見えづらい・・・。ぼくの位置だと、直嶋岳史がなにをしてるかさっぱりでした。むう。

 中村としまるはエレキギターを横に置き、小さなスピーカーへつなげる。ボディと弦の間に6角レンチを挟み、弦の上からピックアップの上辺りに鉄板を置いた。そこへヘッドホンをのせ、ミキサーへ繋ぐ。ヘッドホンは卓経由のノイズをピックアップへ落としてたのかな?
 直嶋岳史は卓を起き、幾つか小物を動かしていた。マイクで拾っていたのか、詳細は何も見えず。残念。

 実際、聴いてる間も直嶋の音はほとんど聴こえない。場内スピーカーから出しているようだが、超音波のような響きがかすかに聴こえるのみ。ときおり、小さな金音が混じる。高周波な極小ノイズを操っていると推定した。

 中村はまずそっとギターへ乗せたヘッドホンを動かす。静かな高音ノイズが膨らんだ。
 ときおり宅をいじる。シンプルなサイン波から濁った電磁音へプツッと切り替わる。めまぐるしくはないが、ひとつ音に留まらず、タイミングごとに音色を変えていた。
 複数のノイズを操るのではなく、動く音はシンプルなもの。ノービートだが、ときおりパルスっぽく電子音がゆらめき、わずかにテンポを感じるときも。

 二人は俯いたまま卓を操作し続ける。デュオといいつつ、有機的に二人のノイズが結合して音が膨らむさまは感じられず。それぞれのノイズを尊重しあい、冷徹にサウンドが成立した。
 中村が出す音はハーシュな響きを表すときも、しかし、音量はあくまで小さい。穏やかな凶悪ノイズのアプローチがとても刺激的で面白かった。
 
 耳をそばだてる。おそらく直嶋が出してるとおぼしき超音波がきーんと空気を震わす。ピックアップの上のヘッドホンをずらし、鉄板を動かし、レンチへさわり、卓をいじる。そのたびに滲み出すノイズは表情を変え、動く。
 空気は張り詰め、観客は身じろぎもせず黙って耳を傾けた。
 中村が鉄板やレンチに触れると、僅かに弦が動いて音程が現れる。けれどもそれらは夾雑物らしい。あくまでも無調電子音で勝負した。

 ふと、中村が手を止める。身体を動かさず、じいっと足元を見つめた。
 数分たって、直嶋も音を止めた。
 
 奏者の緊張が解け、軽く首を下げて終わりの合図。拍手が飛んだ。

 30分ほどのステージ。中村は「足がしびれた・・・」と、しばらくの間、立ち上がれずに呻いてた。

Sachiko M+伊東篤宏
(Sachiko M:sinewaves、伊東篤宏:optron)

 10分ほどの休憩を挟み、18時から始まった。客電はむろん、ステージ上の明かりも落とされる。暗闇の中で、ステージ奥のベランダに続くガラス扉から漏れる、薄明かりが鈍く輝いた。

 伊東篤宏のオプトロンはこれまでに数度、ライブを聴いた。轟音ユニットのイメージあったが、本日は小音量セット。こういうのも出来るのか。
 二人とも腰掛けて演奏する。

 伊東はエフェクターを足元に並べ、音色を変えていた様子。長い長い蛍光灯を斜めに持つ。
 「間近で見ると大きいわね〜」
 Sachiko Mが面白そうに話しかけていた。
 輝く蛍光灯はいつもの通りなので、Sachiko Mは直接に光源を見ず、俯いて機材へ向かう。
 ミキサーと小さな箱が幾つか。あれがサイン波発生器かな。

 静寂の中から、かすかに蛍光灯の瞬きが膨らんだ。次第に耳が慣れたか、サイン波とおぼしき高周波が耳の奥をくすぐる。
 二人の音はあくまで控えめ。
 視覚的にも音響的にも、オプトロンのほうが目立った。
 このセットも互いの音が影響し合うのを明確に提示せず、並行してノイズを出し合うスタイルに見えた。
  
 蛍光灯の両はじだけ。中央まで。明かりの程度をどうやってかコントロールし、激しく伊東は明滅させる。
 咳をこらえ、風邪薬でぼおっとした体調では、オプトロンを直視するのはキツかった。
 顔を背けたり、目を閉じたり、なかなか集中できないが、耳だけはノイズに音を澄ます。
 爆音で過去は分からなかった、細かいニュアンスまで聞き取れたのが嬉しい。

 高速パルスが基調だが、エフェクターを通しているせいか、ときおり音色が変わる。太くなったり、歪んだり。畳み込むパルスが激しく空気を揺らす。小音量でも、ぐっと迫力あった。まれに響くアナログ・シンセのような丸い音も楽しい。
 ときには煌々と蛍光灯を光らせ、場内を明るく照らした。

 つと、音が止む。静寂へ。二人が一礼。30分ほどのセット。
 背後のすりガラスは闇を増している。
 時間の経過を効果的に感じさせた。このための夕方セットか、と思わせるほど。

 前述の通り、観客は身じろぎもせず静かに音へ聴き入る。指を鳴らす音やおなかの鳴る音まで聴こえるほど。
 別にそれはかまわないが、咳をするのもはばかられる緊張感が延々続くのは、好みとしてしんどい。もっとリラックスして聴きたいな。
 絨毯敷きの上で思い思いに腰掛け、のんびりと音楽へ耳を傾けたい。ソファがあればベストだけど、あのスペースじゃそれはムリだろうから・・・。
 
 それと、せっかくだから4人の同時演奏も聴いてみたかった。時間的には短めだったので、様々な組み合わせでも。

 音楽そのものはストイックな上、隅々まで耳が届いて心地よい。爆音とは違う、小音ハーシュはある意味理想だ。サイン波まで聞き逃すまいと耳をそばだてる行為そのものが、集中力を増す。
 また聴きに行きたい。体調万全なときに。

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