LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/7/25  大泉学園 in-F

出演:翠川敬基+さがゆき
 (翠川敬基:vc、さがゆき:vo)

 意外な組み合わせと思ったら、実際は昔馴染みらしい。数年ぶりの競演になるそう。
 無造作にライブは始まる。探りあいのようなフリーから、静かに音が立ち上がった。
 
 今日はMC控えめ。曲目紹介は無く、次々と曲が演奏される。たまに即興が挿入される構成。翠川敬基は外の"楽屋"へ行っており、20時頃店内へ戻る。さがゆきは19時半頃に店へ登場。
 曲は全てさがが準備し、翠川は初見での演奏となった。

 前半ではエリントンやガーシュインを演奏したようだ。曲目は不明。すみません。
 パーカッシブなさがのボイスにチェロが断片的に絡む。

 ふたりとも腰掛けて演奏した。翠川はノーマイクで、右手肘を高々と上げて弓を持ち、ダイナミクス豊かにチェロを奏でる。 
 さがは、軽く足を組む。帽子をかぶり俯き加減にマイクを持った。
 リバーブをかけ、声を響かせる。マイクを持った腕自身を上下させ、増幅された声と生声を、曲中も頻繁に使い分けた。

 メロディを歌い始めるまで、たっぷりと抽象的なイントロを作る。
 呟くさがにあわせ、翠川も指弾きを多く使った。ビートの頭をずらしポリリズミックなアプローチが目立つ。

 歌が始まってもかなりリズムをずらすチェロ。
 フラジオを多用したフリーキーな音色でボーカルに向かい合う。伴奏とは一味違う絡みかただった。
 だからこそ、ときおり弓でじっくり弾く豊かな響きが美しい。

 この日はほとんどソロを翠川は取らない。一筋縄ではいかぬ。
 低音弦を積極的に使う、振り幅の広さを感じた。一弦を強くチョーキングする姿も、たとえば黒田京子トリオではあまり見られない奏法だ。

 さがは翠川のフリーな演奏にがっぷり組みあい、独自の世界を作った。
 呼吸を上手く使って細切れの抽象フレーズを作ったあと、メロディでは繊細に声を広げる。
 喉を張らず静かな声使いだった。パーカッションなどの小物も無し。声だけでステージを通した。

 旋律へ向かうとブレイクを織り込み、ふわりと英語詞を歌う。譜面台へは何も置かず。
 かなりメロディをフェイクしてるようだ。左手のマイクを上下させるだけでなく、時に右手もゆらり動いて声のバランスを取る。
 曲ごとに足を組みかえ、さがはずっと歌いっぱなしだった。

 エンディングはフェイドアウト気味に終ることが多い。
 チェロの弓が、そっと動く。いっぱいに。
 音が途切れ、一呼吸置いて奏者が力を抜く。それが曲が終った知らせだった。

 数曲やったあと、1stセットは完全即興で締めた。
 断片的なフレーズの応酬から、翠川のリフにさががぴたりと合い、アドリブが広がる。
 最後はユニゾン状態で、ジャストに着地した。
 かなり手ごたえあったようで、さがはニコニコだった。約40分の演奏。
 
 短い休憩を挟み、後半セットへ。最初はスタンダードかな?歌詞は日本語だったと思う。
 2曲目あたりから、ぐいぐいステージにひきつけられた。
 
 2曲目は完全即興。「決め事なしでいきましょう」と、さがが翠川へ呟くのが、即興の合図。
 さがのボイスはますます細かくなり、ボイパのように。翠川はチェロの背を小さな音で叩く。
 メロディへ行ったさがの歌声へ、翠川も歌で絡んだ。小さく鳴る背を叩く音が、リズム・ボックスのよう。一瞬、ヒップホップみたいな世界が生まれたのが面白かった。

 この曲では、ほぼ翠川は歌いっぱなし。さがと不思議な調和を見せた。
 エンディング間際でチェロをランダムに爪弾き、最後は弓弾きで閉める、ユニークなアレンジだった。

 続いて"星に願いを"。「フラット5つかよ・・・」と翠川がぼやいたのはこの曲だったろうか。このあとにもう一曲、英詞曲をやったかな?記憶があいまいです。ごめん。
 ヴァースでは自由な声のさがに、翠川がフリーに立ち向かう。
 たっぷりメロディをフェイクしたあとで、主旋律へ。呟き声のさがは、日本語で音符を紡いだ。自身による訳詞らしい。

 「酔っぱらったオヤジが家にいる娘を想いながら帰る」といった歌詞のテーマを、さがが簡単にMCで紹介。翠川が苦笑する。
 「俺には娘いないもんね。犬はいるけど」
 実際の演奏では家に待つ"犬"へ歌詞を変える、茶目っ気をさがは見せて笑いが飛んだ。

 声のテクニックに圧倒されたのが、中間部分。さがが猛烈な速さに声を区切り、機関銃のようにパーカッシブな声をばら撒く。ビートの前のめりさがすごい。
 様々な声色を使い分け、キュートにまくし立てるスピード感が素晴らしく、夢中で聴いていた。

 前日4時までin-Fで飲んでいたという翠川をからかうなど、ボイスはスリリングだが喋り倒すさまはコミカル。めちゃめちゃ楽しい。

 スリリングな声にデジャブがあり、どこで体験したろうと考え続けてた。さがのライブ聴くのは初めてのはず・・・。
 帰って調べたら、思い出したよ。10年以上前のボンデージ・フルーツだ。1stアルバムの発売前後に、シルエレにて。あのときのインパクトとスピード感を思い出したのかも。

 ぐいぐい駈ける声に応酬し、翠川もチェロの変則奏法を次々繰り出す。
 エンドピンを弾き、ボディをこすって低音を響かせる。さらに自分の腹も手のひらで叩いた。
 さがもピアノの上に置いた譜面ファイルの表面をつめでこすったり、マイク・スタンドを指ではじいたり。賑やかに盛り上がった。

 2ndセット最後も即興で締める。メロディとフリーが調和した、リラックスした演奏だった。しめて、50分弱。

 もっとカッチリした歌物に、より伴奏らしくチェロが絡むかと想像したが、まったく違う。ぐっとフリー寄りの音楽で、充実したひとときを過ごせた。
 完全フリーで成立するから、翠川のオリジナル曲でのやりとりも聴いてみたいところ。
 数年ぶりとは思えぬ息の合いっぷり。特に2ndセットで。味わい深いライブだった。 

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