LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/7/20 入谷 なってるハウス
出演:大澤+宮園+小森
(大澤香織:p、宮園ゆかり:vo、小森慶子;reeds)
大塚ドンファンなどで活躍するユニットだそう。なってるハウスへ初出演。初めて聴く。
マイクは宮園ゆかりの歌のみ、ピアノも管もノーマイクで演奏された。小森慶子はクラリネット、バスクラ、ソプラノサックスを持ち込む。傘立てみたいに3本が綺麗に立てられたスタンドが、なんだか新鮮だった。
大澤香織は譜面立てをセッティングし、演奏する表情が良く見えず残念。
「立ち位置が難しい」
「だんだん下がって行ったりして」
演奏前に宮園と大澤がささやきあう。中央にすらりと宮園が立った。ハンドマイクで、コードをもう一方の手で軽く巻く。
英語詩の歌を、深いアルトで歌い始めた。初手はパーカッシブなスキャットを織り込む。小森はバスクラを持ち、低音をずぶずぶ響かせた。
今夜もメモ取らず。セットリストはご容赦を。1曲は短め、それぞれ6曲程度演奏したと思う。
レパートリーはまちまちで、スタンダードからモンク、クラプトンなどの曲なども。オリジナルも数曲あり。
中盤ではピアノのソロを織り込む構成。ときにp+vo、reeds+pなどの編成でも聞かせた。
1stセット2曲目がスタンダードの"Day
by
day"。初手からテンポとキーをぐっと落とし、底から這い上がるようなトーンでメロディをフェイクする。
ピアノも流麗なフレーズをばら撒き、スイング感を希薄にする。
宮園による歌詞とわずかなメロディの断片、クラリネットに持ち変えた小森が、ソロの冒頭で提示した旋律にのみ、オリジナルの印象が残った。
音楽は常に、どこか緊張感をたもつ。初めての場所で勝手が違うのか、そもそもの芸風なのかは分からない。
MCは軽く曲紹介をするのみ。演奏後には互いを手で示し、紹介しあう。
ステージは広々と使い、下手側の小森は袖ギリギリに立つ。一歩踏み出したら、ステージから落ちてしまいそう。
決して広くないなってるの舞台が、やたら大きく見えた。
ボーカルを芯に置きつつ、ピアノと管が自由にカウンターをかぶせるアレンジを採用。間奏でときおりソロ回しが入る。
小森は後半セット最後になるまでサックスへ手を伸ばさない。曲ごとにバスクラとクラリネットを持ち変えた。
それぞれのセット中盤で、ピアノのソロ。どちらも大澤のオリジナルが演奏された。ときおり肘打ちクラスターも入れていたようす。
1stセットはリズムがひっきりなしに変わる、変拍子連発のようなフリー・ジャズ。
2ndセットでは、よりメロディに軸足を置いた曲だった。
リフが常に提示され、アドリブの音程が低音から高音へ素早く移る。リフを弾く手を即座に切り替えていたのかな。
高いヒールを履いた足で、ペダルを操った。早いパッセージで駈ける時はノーペダル。ペダルを使うときも、無闇に踏みかえない。
響きを巧みに操り、リリカルで華やかなピアノ。ブルージーさは控えめ。
後半だったか、"Growly,growly"というゴスペル・タッチの曲を演奏したが、グルーヴィなイメージは極力抑えていたようだ。
小森のアドリブはボーカルと積極的に交錯する。身体をぐいぐい揺らしながら、旋律を溢れさせた。あえてボーカルを不安定な立場にして、ありふれた歌物ジャズから脱却を図ったか。
低音域を中心に伸びやかな宮園のボーカルは、空気をりんと震わせた。
ロングトーンをごく自然に操り、小刻みに声を途切れさせた即興ボイスもとりいれた。
三人が横一線で並び、主役めいた存在感を大きくアピールしない。キャラクターではなく、音楽そのものを前面に出した。
個人的にはもっとぐいぐいアグレッシブな瞬間も欲しい。
小森のオリジナル"ガオ"(?)をクラリネットとピアノで演奏したのは1stセットだろうか。聴き応えあった。
フリーなイントロから、ゆったりとクラリネットがテーマを奏でる。ピアノがビートを希薄にして、次々に鍵盤で音を畳み込む。
ゆったりと斬りあうさまが繰り広げられた。
1stセット最後の演奏が素晴らしかった。
ブラジルの曲と言ったかな?柔らかなムードを大澤と宮園がかもし、小森が素敵なアドリブで盛り立てる。
リラックスとはベクトルが違うサウンド続いたシメに、寛いだ雰囲気を提示にやられた。
短い休憩のあと、後半の1曲目がクラプトンのレパートリーだった。詳しくなく、曲名は覚えきれず。ごめん。
このあとにやった"I
remember April"も、小森のソロがきれいでよかった。
後半セットのクライマックスは大澤のオリジナル。"アルカイック・スマイル"といったろうか。譜面を宮園は足元へ広げる。
さえずるようなインプロ・ボーカルで、宮園はピアノとサックスに相対した。
きらめくリフを弾き続けるピアノが、とっても効果的な曲。
速いテンポで小森のソロが、スリリングに。ソプラノ・サックスのベルを高々と上げ、まっすぐに音が飛ぶ。
最後の曲は完全フリーだそう。ただし足がかり代わりに、デイブ・ホランド"フーベリング"を採用したという。
宮園のスキャットが前へ出て、どんどん絡む。エンディグまでテンションが維持された。
もっと寛いだ演奏を想像しており、良い意味で意外だった。
アンサンブルの構築を意識してか、薄氷を踏むような空気がそこかしこに漂う。
遠慮とアピールが交互に現れた気がする。
大澤のピアノはソロとトリオのときでかなり違う。自在にリズムやテンポを揺らす奔放で美しいプレイが、トリオではぐっとおとなしくなってしまう。
渋さでは堂々たる存在感を示す小森も、この日は一歩引いた印象が強い。 宮園も楽器アドリブの間は、すっと存在感を消してしまう。
演奏を楽しめた。完全即興ではないが、歌物でもメロディを解体し、自由に展開する。
おっとりした上品さが常に漂う。
アップテンポでも汗を感じさせず。かといって理詰めの複雑なユニゾンを冷徹にばら撒きもしない。それぞれの音楽性をぶつけ合う。
さらにこの三人がわれもわれもと押し寄せたら、どんな音楽になるんだろう。熱っぽいフリージャズも好きなので、ついそんな空想もしてしまった。