LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/7/17 大泉学園 in-F
出演:黒田京子トリオ
(黒田京子:p,acc、翠川敬基:vc、太田恵資:vln,etc)
雨が降る夜。20時を大幅にまわった頃、ライブの幕が開いた。今夜はin-Fの11周年にあたるそう。
それを意識してか、いつもと違うプログラム構成で幕を開けた。
<セットリスト>
1.Waltz
step〜passing〜It's tunes〜Bon fire〜Valencia
(休憩)
2.Gumbo
soup
3.20億光年の孤独
4.Para cruces
5.Seul-B
6.Check I
1stセットは黒田京子トリオが得意とする、富樫雅彦のメドレー。幾度かこのバンドのライブを聴いたが、完全なメドレー形式で1セットは、初めて体験した。
まずは弦2本のピチカートから。抽象的なノービートから、次第に曲へと収斂する。
黒田京子がぽおんと鍵盤へ指を落とした。突発性難聴が治っていないようで、ときおり耳を押さえ顔をしかめる仕草が痛々しい。
完全フリーから、テーマの変奏へ。おもむろに太田恵資が"Waltz
step"のテーマを奏でた。
翠川敬基は主軸のメロディをほぼバイオリンに任せ、奔放にチェロを操る。フラジオからカウンターへ。リフに留まらず、自在に旋律を遊ばせた。
黒田のピアノの音量はぼくが聴いてた位置だと、ちょっと小さめか。もっともタッチそのものを柔らかく扱ったと思う。
場面全体を広げるように、そっと鍵盤を叩いた。低音は控えめで、高音フレーズが転がる印象が強かった。
メドレーだが、曲順はまったく決まってなさそう。メドレー形式すらも自然発生っぽかった。
ひとしきり"Waltz
step"でアドリブが展開し、バイオリンがテーマを奏で着地する。その瞬間、チェロが"Passing"のリフを始めた。
譜面台にいっぱいのった楽譜を繰って、曲を探す太田。黒田は平然と曲の展開へついてゆく。
ぐっとリズムは重たく引っかかり、翠川のチェロが朗々とソロを取った。
"It's tunes"はほんのサワリだけ。"Passing"から"Bon
fire"のブリッジとして、数十秒ってところか。
翠川が僅かに旋律の断片を弾いただけだと思う。どの部分か特定は難しい。正直、MCの曲紹介で演奏されたと分かった。
"Bon
fire"あたりからピアノがぐっと前へ出る。流麗な旋律が溢れ、弦二本をバッキングに温かく奏でた。
チェロのpppも活き活きと店内へ広がる。小音のアンサンブルだが、バランス的に不都合ない。
チェロによる滑らかなアドリブが、ここだったろうか。
圧巻は"Valencia"。翠川と太田は目を閉じたまま演奏。黒田がときおり視線を投げるが、二人は気づかない。アイコンタクトでなく、音で意思疎通がはかられた。
太田が弓をぐいと弾き、"Valencia"のテーマへ。三人の音が溶け、美しくメロディが導かれた。
足並みをそろえ、静かに着地。およそ40分。時間こそ短めだが、凝縮された音世界だった。
「当然、休憩だよね」
翠川が笑いながら、呟いた。
後半セットはメンバーのオリジナル曲を集めた。あえて新しめの曲を控え、馴染み深いレパートリーを並べたようだ。
"Gumbo
soup"では黒田がアコーディオンを構え、オモチャの笛で楽器のボディを叩く。ラフなリズムで。さらに弾きながらステップを踏み、舞った。
太田はアフリカン・タッチで唸りながら、ウクレレのようにバイオリンを爪弾いた。翠川が茶々を入れ、笑いを呼ぶ。
タールを構えた太田がビートを刻んだのもここか。
黒田の"20億光年の孤独"ではイントロにて、前日に行っていたという四万十川に引っ掛けた即興語りを入れながら、ピアノを弾いた。
拡声器で太田は混ぜ返す。ほかの二人は思いっきり吹きだした。
翠川は弓の背を使って弦をこすり、かすかな音を。さらに背でぽんぽんと弦を叩く奏法でアプローチ。
構えなおすとめまぐるしく指が動き、次々にフレーズが溢れた。この日はチェロのフレーズが冴えわたり、二人をせかすようにさまざまなパターンで曲を振り回す。
"20億光年の孤独"のテーマでは、黒田の呼吸の合図で、アンサンブルがダイナミックに展開した。
太田は独自の世界を構築し、ピアノやチェロにのって存分にソロを取る。前面に出て弾きまくった。
場面ごとでかなり印象が変わったのが黒田。ほとんどの曲では一歩下がったイメージが強い。体調不良のせいか。
むろん、演奏はきっちり。瞳をきろっと輝かせ、楽しそうに二人の演奏を眺める。アイコンタクトを求める瞬間も合ったが、二人は目を閉じてそ知らぬ顔。そのまま黒田は鍵盤で二人へ語りかけた。
バイオリンが一休みした瞬間には、ぐぐっとピアノがリーダーシップを取る。
パーカッシブなプレイより、音符をばら撒いてスケール大きく展開するさまが効果的だった。
聴きに入る時がひときわ少ない。常にピアノを弾き続ける。
"Para
cruces"あたりでは、軽快にピアノのボディを叩いてリズムを取った。
この曲で、チェロのピッチが僅かに低い気がしたのは気のせい?
響きがなんだか違和感ある。翠川は前のめりの音で、チェロから音を搾り出した。
曲そのものはアップテンポで、ぴしっと突っ走った。
ジャジーな雰囲気で塗りこめたのが"Seul-B"。ピアノもチェロも、むろんバイオリンも積極的にアドリブを交錯させた。
「世界初。ホーメイ・ジャズ」
太田が宣言して、ホーメイのスキャットでアドリブを取る。
面白がった翠川が、ホーメイっぽい声で後押しするコミカルな一幕も。
この時点ですでに1時間ほど経過していた。最後の曲として、これもスピーディな"Check
I"を。バイオリンのピッチが低めに聴こえた。
バイオリンのボウイングが激しくなり、ひときわ弓の糸を切りまくる。
次々に糸はほつれ、馬の尻尾のように垂れ下がった。あんな切りまくるなんて。どうしたんだろ。
ソロは短めで、一気に終った。
ここ3年、in-Fでの開店記念日には黒田京子トリオがブッキングされている。in-Fとかかわりの深いミュージシャンらによって、in-Fから産まれたユニットだからか。
04年は"ブラームス・プロジェクト"。05年は「レコ発パート2」と言いながらも、新しめの曲を中心に演奏された。
そして06年。足元を見据えた選曲と感じた。今後の展開へ進むまえの、足場固めのように。
もっともっと前へ、そして新鮮な音楽を。そんな、黒田京子トリオの音楽をこれからも聴きたい。