LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/7/15  関内 エアジン   

出演:渋さ知らズ
(不破大輔:b,片山広明:ts,立花秀輝:as,北陽一郎:tp,室舘彩:vo,fl,関根真理:per,vo.大塚寛之:g,岡村太:ds)

 渋さ知らズはライブハウスごとにサウンドを変えている。以前から、そう思ってた。
 エアジンへ行くのは初めて。渋さのごっついジャズへ、どっぷり浸れた。そうか、ジャズ専門のハコだと、こういう音楽になるのか。
 
 階段を上がると、まだリハ中だった。”行方知れズ”や”ナーダム”が聴こえる。店の外にまで、分厚いアンサンブルがかっちり響いた。
 
 20時を少しまわった頃、メンバーがステージへ。ぎっしり並んだ。中央奥にウッドベースを掲げた不破大輔が、どっしり座る。
 無造作にベースがアドリブを始めた。うっすらとテナーはフリーにからむ。
 
 3拍子のリズム。片山広明がふっと出した一音。"ナーダム"かな、と誤解した。
 次第に他のメンバーも音を重ねてく。やがて、テナーがテーマを太く提示した。"バルタザール"だ。

 コンガを静かに指で叩く関根真理。
 立花秀輝が横から指を伸ばし、打面を同じく叩いてふざける。関根は笑いながらも、ぱしっと手で払った。

<セットリスト>
1.バルタザール
2.行方知れズ
<休憩>
3.ひこーき
4.パ
5.ナーダム
6.仙頭

 サウンドのバンマスは、ほぼ片山が引き受けた。積極的にカウンターを入れるのはもちろん、ソロ回しも彼がサインを送る。
 エンディングへ向うタイミングも、あらかた片山の指示だった。曲順は不破が決めてたみたい。
 曲によってはとことんソロを吹きまくり、満足げな表情でそのままエンディングへの指示を飛ばす片山が面白かった。

 甘いテナーが、硬質なアルトと絡む。
 一曲目は互いのソロが対照的だった。立花は眼鏡がずり落ちそうになりながら、アルトでソロを繰り広げた。

 大塚へもソロが回り、ディストーションを伸びやかに広げる。
 しかしバップな展開の今夜だと、大塚のスタイルは正直、分が悪い。渋さ知らズ劇場ではストロークなども聞かせるが、今夜はホーンのソロでは弾かずにいる姿が目に付いた。
 むしろジャズ・ギタリストをブッキングしたほうが、はまったかも。あえて、異化効果を狙ったか。
 
 今夜は室舘綾のフルートを、きちんと聴けたのが嬉しい。彼女の入った中編成は幾度も聞いてるが、たいがいはアンサンブルに埋もれて聴こえづらい。
 ひっきりなしでは無いが、アドリブのカウンターでフリーなオブリを、ゆったりと室舘はいれた。
 もうちょいフルートも聴きたかった。1stセットでは帽子を目深にかぶり、目を閉じてサウンドに身を任せる場面多し。

 "バルタザール"はフロント陣でソロを回し、エンディング。
 すかさず不破が”行方知れズ”を指示した。
 片山が室舘へフルートの無伴奏イントロを促す。

 フルートによる、ふわりと滑らかなアドリブが広がった。次第に音世界のイメージが固まってゆく。
 その途端、片山がテナーで野太く切り込んだ。フルートのソロが終るのを待てない、せっかちさが可笑しくなる。
 
 時間をかけてこの曲は演奏された。中近東を思わせるフレーズを、大塚はエレキギターで表現する。
 関根は指を唾で湿らせ、幾度もコンガの表面をすっと撫ぜる。タブラのように音をベンドさせる仕草が印象に残った。なんだか新鮮な奏法だった。

 彼女は他にもタブラやティンバレス、カウベルなどを持ち込んだ。ソロこそ無かったが、ストレートなリズムを膨らます色合いを加える。
 彼女のパーカッションで、よりグルーヴにふくらみが増した。

 北のソロ。彼を聴くのは久しぶり。大小のトランペットを使い分け、真っ直ぐにフレーズを叩き込む。片山の目配せで、室舘が小さくスキャットをかぶせた。
 彼女のソロへつながり、まっすぐなフレーズで喉を揺らす。ぱあんと彼女の声が響いた。

 休憩を挟んだ後半は"ひこーき"から。室舘は自らのマイクを関根へ渡し、自分は立花のマイクを使って歌う。
 伴奏はエフェクターを控えめにした、大塚のエレキギター。ゆったりしたストロークをバックに、主旋律は関根が受け持つ。

 前半セットのグルーヴィさを控え、うつむき顔で細く伸びやかなファルセットを、ランダムに室舘が挿入する。2人のハーモニーが心地よかった。
 片山のオブリは次第に高まり、ソロへ雪崩れた。

 すっと立ち上がる立花。室舘がすかさずマイクをスタンドへ戻す。硬質な響きで、アルトのソロを組み立てた。
 曲そのものは短め。ボーカルのリフレインが幾度も提示され、静かに幕を下ろした。

 続く“パ”のハード・バップな展開が痛快だった。
 ホーン隊がテーマを奏でた瞬間の響きに、体がぞくっとくる。

 ソロ回しもバラエティに富んだ。大塚のソロではリズム隊がほとんど手を休め、シンプルなハード・ロック調の世界に。片山と立花が太いリフをカウンターでぶつける。室舘も薄く載せた。
 ソロが北や片山へ回ると、ぐっとノリは粘っこくなる。凄みある展開だった。

 エンディングはテーマを幾度もホーンが繰り返す。 
「これじゃ終わらないな」
 片山がつぶやき、アンサンブルが消えかけた瞬間。不破がベース・ソロに突入した。  
 ぐいぐいバラ撒く低音を聞きながら、立ち上がった片山。アドリブがぶつかる。そして、"ナーダム"へ。
 
 テナーひとりで浪々とテーマ。岡村がフィルを入れ、豪快に全員でテーマを押し広げた。
 フルートも加わり全音域で高らかに、和音が轟いた。
 
 アップテンポで疾走する。片山のソロが素晴らしく気持ちいい。全体がぐいぐい盛り上がる。関根は太い撥でコンガやジャンベを連打。
 岡村もドラム・ロールのように激しくスネアを叩きのめした。
 
 恒例の“仙頭”は勇ましい盛り上がり。
 室舘はフルートをバトンのように持ち、振り上げながらボーカルでコミカルな合いの手を入れた。
 後半セットは約1時間弱。店内が熱気で暑い。特に”パ”〜”ナーダム”の流れが強力だった。
 横浜は遠いから今まで行きそびれてたが・・・これなら、また行きたくなった。

目次に戻る

表紙に戻る