LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/7/13   吉祥寺Mandala-2

出演:渋さ知らズ劇場
(不破大輔;b、片山広明,川口義之,小森慶子,立花秀輝,鬼頭哲:sax、
  辰巳光英:tp、関根真理:per、大塚寛之:g、磯辺潤,岡村太:ds)

 「それでは始めます」
 不破大輔が呟き、俯いてエレベを弾き始めた。"サリー"のリフが流れる。
 非常に暑い日で平日なせいか、観客は控えめ。もったいない。先週のロシア・ツアー@東京の影響もあるかな。
 渋さを聴くのはひさしぶり。楽しみだった。

<セットリスト>
1.サリー
2.股旅
3.犬姫
(休憩)
4.リトル・ウイング
5.ひこーき
6.ナーダム
7.Pーchan
8.仙頭

 "サリー"ではかなり混沌としてた。指揮役は片山広明。ハンドキューで大塚寛之へソロを促す。そして立花秀輝や鬼頭哲へ回した。
 訥々とした鬼頭のバリトン・ソロが広がる。
 自らはカウンターでアドリブを入れる程度。積極的にアンサンブル全体を盛り立てる。
 ソロは長尺で、ホーン隊はしばしば休んでソリストを目立たせた。小森慶子は冷静な面持ちで、静かに耳を傾けていた。

 2ドラム編成だが、前半セットでは岡村太のほうが良く聞こえる。ワイルドにつっこみ気味なリズムでがしがしと叩きのめし。対照的に磯辺潤はクールにビートを刻んだ。
 ステージ奥で関根真理はさまざまなパーカッションを使い、時に歌う。しかしぼくが座った位置だと、聴こえづらかったのが残念。

 "サリー"だけで30分くらい。まったりとした空気が漂った。
 コーダが切れた瞬間、不破が小森へ手のひらで5拍子を示す。
 "股旅"だ。
 すかさず小森はソプラノ・サックスを持つ。アルトを首からさげたまま、フリーに吹き始めた。

 旋律が次々溢れる凄みのあるソロ。空気を一気に塗り替えた。
 立花は本体へマウスピースをつっこみ、ぴこぽこと音を入れた。
 ギターとベースがサイケにフレーズを遊ばせ、静かにドラム隊がリズムは刻む。

 テーマへ突き進む。ドラムのあおりは控えめ、ホーン隊が分厚く鳴る。ライトが明るく照らし、太い響きが映える。心地よかった。
 ソロへ行く瞬間みんなが吹きそびれ、一瞬の停滞が産まれる。
 不破の目がぎょろっと光り、すかさず速いテンポで唸るベース。大塚にソロを促した。
 いきなり空気が緊迫感を増し、ぐんと音が締まった。

 ソロで怪気炎をあげまくったのが、辰巳光英。大活躍だった。
 静かなフレーズからアドリブを始め、しだいに熱がこもってハイトーンを吹き鳴らす。ソロの終わりは自己主張をすっと消し、滑らかに次の奏者へつなげた。
 とにかく"股旅"に限らず、他の曲でも熱いソロを片っ端からさらった。

 いっぽう片山は場の展開へ常に気を配る。プロ精神がもっともにじみ出だしたのは、さすが。
 次々にソロを配り、自らはカウンターを積極的にぶつける。バンドをあおり続けた。
 
 曲中で小森がソロのとき、片山は横の立花へハンド・サインを送り続ける。上手く伝わってないのか、笑いながらずっと立花は首をひねってたが。
 足元へ置いた小森のアルトへ片山の足が当たってしまい、ソプラノでソロを取りながら、足で楽器を引寄せてたのはここだっけ?

 ソロは大塚へも回る。ディストーションを利かせ、時にボトル・ネックを上手く使った。
 昔に比べると、かなりアンサンブルを意識してる。さりげなく後方へ視線を投げ、ソロが終るとたちまちエフェクターを切ってバックへ戻る。
 アンサンブルをねじ伏せるように、奔放に弾き倒す姿もちょっと聴きたいなあ。

 この2曲で1stセットは終るかと思いきや。"股旅"が終るなり、ゆっくりとベースが低音を響かせた。拍手する暇も与えずに。
 小森がすぐさま、ソプラノ・サックスで応える。
 完全フリーなデュオ。チョッパーを不破が決めたのもここか。
 リズム隊も控えめで、不破の低音に小森のサックスが美しく絡んだ。じんわり"犬姫"の香りが漂う。

 片山は立花へ耳を寄せる。曲の確認かな?得心顔で、片山は一音、ロングトーンを吹いてハーモニーをつける。
 ソプラノ・サックスのソロは、深く豊かに響き続けた。

 おもむろに"犬姫"へ。関根が歌ってるようだったが、まったく聴こえず。残念。
 ホーン隊がかもしだすテーマの深さは、とびきりだった。

 ここで休憩。不破は水をかぶったように、汗みどろの熱演だった。
 岡村も汗でぐっしょりだったな。

 後半セットは"リトル・ウィング"から。ライブで聴くの、ずいぶん久しぶり。
 ホーン隊のテーマが織りなす響きが心地よい。ギターがここぞとばかりにソロを取った。辰巳も熱いアドリブをぶちかます。
 エンディングはギターの独壇場。
 最後は無伴奏ソロで、歯でも弾く。チョーキングやアームも多用。3弦ほどまとめて、思いっきりチョーキングしてた。

 ちなみに立花か辰巳がソロを取ってるまに、小森はすっとステージを降りた。
 何かと思ったら、うちわを持って再登場。片山や不破をあおいで笑わせる。
 自らのソロになると、うちわを片山が持って小森をあおぐ。その瞬間、ちょっと両足をそろえる、お嬢様な軽いお辞儀の仕草がキュートだった。

 メドレーで"ひこーき"へ。イントロは片山が野太いアドリブをつける。
 シェイカーを振りながら、ゆったりと関根が声を伸ばした。にこやかに微笑んで。
 すっと立花が立つ。歌心あるアドリブを、長尺で堪能した。今夜の立花はフリーキーな場面と旋律重視のソロを、場面ごとに使い分けた。

 "ひこーき"は10分程度と短め。関根は幾つかのパーカッションを使い分けつつ、優雅に声を伸ばした。
 演奏中に不破が客席を見て、手招き。なんだろ。謎は次の曲で解けた。
 
 不破が指三本をメンバーへ示す。"ナーダム"へ。間違いなく、今夜のベスト・テイクだった。
 ゆったりさはあっというまに終り、すぐさまインテンポのスカ・ビートがあふれる。
 いきなり川口義之がステージに現れた。手招きはこれか。遠慮して、テーマ部分では上手の大塚の横に立った。
 
 片山がうながし、ステージ中央へ。いっきなり、勇ましいソロを猛烈に吹き倒す。抜群のソロだった。
 力強いベースを芯に、アンサンブルがぐんぐん引き締まる。グルーヴが加速した。
 川口は吹き終わるとまた、上手の大塚の横へ行ってしまう。
 大塚は両足を大きく開き、シャープにギターを弾いた。

 後半セットでは磯辺の音が良く聞こえる。タイトにあおり続けた。
 岡村はカウベルを叩いたり、シンバル連打で襲ったり。むしろパーカッションっぽい奔放なプレイも多用した。

 立花のソロも力強い。さらに横で片山と小森が合図を交わし、オフマイクでカウンターをいれまくる。
 すっとアンサンブルが静まると、鬼頭のリフが残る。がっしりと立花のソロを支えた。
 
 エンディング間際、不破が携帯を覗く。弾きながら素早く。
 この時点で50分くらい経過。もう一曲やるかの確認だろう。

 朗々とコーダが響き、大団円。片山がサックスを振りおろし、がっちりと決めた。
 「Pーchanね!」
 間髪入れず、不破が両脇のドラムへ指定する。岡村のカウントでテーマが炸裂した。
 
 ソロは辰巳から。ハイテンションで吹きまくり、立花へ繋ぐ。
 横で片山がホーン隊を順に指してみせ、ソロ回しを合図する。
 片山へアドリブが繋がると、一気に静かになった。
 片山は頭をかいて笑いながら、無伴奏で演歌や歌謡曲メドレーを始めた。任意に他のメンバーも音を加える。

「知ってる曲をやってくださいよ〜」
「・・・知ってる曲ねぇ」
 小森のリクエストに、片山は首をひねりながら幾つか曲を。強引に小森に振って、ソロ回しは歌謡曲メドレーに突入した。
 すぐさま鬼頭に小森が受け渡す。雰囲気は一気にリラックスムードへ。横で川口が頭を抱えてた。

「オチですからね!」 
 小森が笑って、追い討ちのプレッシャーをかける。
 悩み顔の川口は何曲かさわりを吹いたあと、アグネス・チャンの"ポケットいっぱいの秘密"を。この曲、好きなんだ。バンド全体で一気に盛り上がったのに笑った。

 さらにメドレーは大塚へ続く。
「古いロックでな!」
 片山が声をかける。大塚はにやりと笑い、"イン・ザ・ムード"へ。みんな大笑いしながら、かなりフェイクしたアンサンブルで奏でた。

 ドラムのデュオに雪崩れる。岡村はげしげしドラムをひっぱたき、磯辺はツイン・ペダルを踏み鳴らした。
 最後は片山へ戻り、さんざじらしたあげくに、定番の"サティスファクション"へ。テーマへ即座に戻り、どっしりと着地した。
 不破は指板をわしづかみにして、上から下までぐいぐい音をグリサンドさせた。

 すかさず、不破のカウント。"仙頭"に。すっくとホーン隊が立ち上がる。
 勇ましくテーマが疾走して、幕を下ろした。

 ステージが終っても、片山以外の奏者は舞台を降りない。タバコを吹かし、ゆっくり楽器を片付け始める。やがてステージへ戻る片山。
「大塚、今日誕生日なんだって?」

 照れ笑いの大塚。すかさず立花が"Happy birthday"を。
 他も加わり、高らかに奏でられた。にっこり微笑んで、大塚はギターを観客へ持ち上げて見せた。

 尻上りにテンションが上がったライブだった。ソロを重視し、アンサンブルはきっちり。片山以外はほとんどカウンターを入れないので、響きが薄くなってしまう時が、もどかしい。てんでに応酬しあう混沌さが好きだから。

 互いの呼吸がかみ合った瞬間、一気に盛り上がるのを肌で感じられる編成だ。オーケストラほど多くないから、ぎりぎり個々の楽器を聞き分けられる。
 この編成が、これからどのように展開していくのかが楽しみ。いろんなレパートリーを投入して欲しい。

目次に戻る

表紙に戻る