LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/7/4   西荻窪 Konitz

出演:宇川+吉野+太田+小山 
 (宇川彩子:tap、吉野弘志:b、太田恵資:vln、小山彰太:ds)

 タップダンスとジャズ・コンボの競演。どんなのか楽しみだった。この顔ぶれは以前にも見かけてたが、今まで聴きそびれてる。
 宇川が昨年12月のライブに体調不良に欠席したため、05年3月ぶりのライブのようだ(コニッツのHPより:このときは吉野と太田のデュオ+宇川のタップ)。

 コニッツははじめて。20人強も入れば満杯のジャズ系ショット・バーだ。フロアの一角をスペースに、ぎっしりミュージシャンがスタンバイしてる。
 舞台スペースの最前に1畳ほどの板を置き、タップダンスのスペースにした。
 観客は常連がほとんどかな。予約で全てが埋まる満席だった。
 
 まず2曲はインストのみ。一曲目はスタンダード?タイトル思い出せず。そしてインプロらしき曲へ続ける。
 吉野のタイトなベースに乗って、初手から太田がアドリブをがんがんばら撒く。今夜はアコースティック・バイオリンにコンタクト・マイクをつけたセッティング。
 ひとしきりソロのあと、アラビック・ボイスで賑やかに盛り上げた。
 小山のハイハットが、シャープに刻み続ける。タム1個のシンプルなセットで、曲の間もブラシ、マレット、スティックを使い分けた。
 
 セッションのリーダーは吉野のようだ。しかしベースソロは抑え目。ふんだんにソロを取ったのは太田で、ドラム・ソロも頻繁に挿入された。
 ぼくが1stセットで聴いてたのはカウンター横。PAの関係か、ちょっとベースが聴こえづらくて残念。

 2曲目のインプロが始まったとたん、吉野は最低音の弦を押さえるつまみをくるりと回し、なんだか嬉しくなった。彼のベースは特殊で、1弦だけが異様に長く、つまみを回すとさらなる低音を引き出せるようだ。
 しょっぱなから1弦を使って、低く空気を揺らせた。
 小山はブラシを持ってフリーなビート。太田が欧州を思わせる、雄大なバイオリンを聞かせたのはここか。
 最後につまみを元へ戻したときに弦を挟んでしまい、吉野が戸惑い顔のハプニングもあった。

 じっくり演奏を聴かせた後、いよいよ宇川の登場。チャイナ・ドレス風のブラウスとスラックスを黒で優雅にまとめる。
 スイング・ビートにのってコケッティなタップを存分に披露した。
 3曲ほど1stセットはタップつきで。オリジナルだったのかもしれないが、良く分からず。"彼岸の比岸"のレパートリーかな?聴き覚えあるテーマが多かった。

 演奏も面白いが、タップが始まると視線はそっちに釘付けになっちゃった。
 パーカッションとしてドラムとパターンをあわせたり、カウンターでぶつけたり。さらに目の前でのタップ・ダンスが加わるぶん、視覚的に新鮮だ。
 軽く背を伸ばし、ときおり腿の付け根でスラックスを軽くつまむそぶり。
 宇川はつま先や足の甲までつかってキュートにタップし続ける。
 時にくるりと回転、足踏みでムーン・ウォークのように前へ進んだと思えば、スペースを広々つかってステップを踏む。
 
 演奏とタップの相性もばっちり。バンドはタップの伴奏に陥らず、タップも音楽を踏まえて踊る。ステージの全員がひっきりなしに笑顔を見せる、賑やかなライブになった。
 
 1stステージ圧巻はグラッペリの"マイナー・スイング"。途中でタップの完全ソロも挿入される。
 バイオリン・ソロに続いてのタップは、明らかにリズムが歌ってた。コツコツと響く音は、微妙に音程の違いがあるのだろうか。

 タイミングと踏む箇所の力でアクセントをつけ、メロディ楽器の幻想が一瞬浮かぶほど、ここでのタップは優雅だった。
 ともすればリズム楽器のソロはテクニック志向なのか、グルーヴを無視した連打や乱打に淫して興醒める。ところが、この瞬間のタップ・ソロは嬉しく、楽しかった。

 1時間弱のステージが終り、休憩へ。スタッフがBGMにかけたのはバイオリンのジャズ。
「本物をかけるのはやめようよ〜」
 数小節流れただけで、即座に太田が笑う。そのままバイオリンを構えなおし、アドリブ(!)を数フレーズ、CDとユニゾンで完全コピーしてみせる。舌を巻いた。アドリブまで覚えてるんだ。
 グラッペリの中期アルバムだったらしい。即興部分まで聴きこんだ太田の一面が仄見え、興味深かった。

 後半も2曲、演奏のみ。オリジナルとおぼしき"竹"と、モンゴルの曲で吉野のレパートリー"遙かな土地の蜃気楼"が弾かれた。
 リフが浮遊する"竹"、ふくよかなメロディが特徴的な"遙かな土地の蜃気楼"と充実した演奏が続く。特に後者でのバイオリン・ソロが聴き応えあり。
 メロディを自在にフェイクさせ、ゆったりと振り幅大きく展開させる。ほんのりアラブ風味の音程も、雄大なムードの盛り上げに一役かった。

 上手横で聞いていた宇川が加わり、4曲ほど。とにかくすさまじい盛り上がり。
 曲はスタンダード?吉野のオリジナルかも。タイトルを紹介せず、立て続けに演奏が進んだ。
 とにかくリズミカルなタップのスピード感が堪らない。1stセットに増してステージ上を踊りまくる。活き活きと手を動かし、にこやかに勇ましくタップが響いた。

 バイオリンとかけあい状態でタップ。太田のフレーズに堪える形で、アドリブの交錯が刺激いっぱい。
 さらにドラムのソロ。小山はスティックで豪快なタムロールを猛打した。
 タップが滑り込む。
 笑顔を崩さず、宇川はドラムに負けないボリュームでめまぐるしく足を動かした。
 かかと、つま先、両足を踏み鳴らし、くるりと回転。床をこするザザッと言う音すらも、いいアクセントになった。
 いつのまにか宇川の表情に汗が滲む。大粒の汗が、涙のように頬できらめいた。

 観客も大盛り上がり。ソロが終るたびに盛大な拍手が飛ぶ。
 いつのまにか1時間半近く続いた2ndセットは、終る気配がかけらも無かった。
 それでも、ついに最後の曲。新疆ウイグルの曲だそう。
 宇川は足元に譜面を置いてタップを踏んだ。もっとも見てる様子は無し。
 ゆったりした旋律を吉野が無伴奏で奏でる。ひとしきりベースが動いた後、タップで宇川は歩みをすすめた。

 寛ぎムードで終らせようとしても、観客からアンコールが止まない。
 ちょっと相談ののち、"ヘイフン・ヘイハッ"が選ばれる。
 宇川の手拍子に合わせ、観客もリフを打ち鳴らす。
 暖かな雰囲気の中、バイオリンがたっぷりとソロを取った。

 後半は1時間40分ほど演奏。時間は23時を軽くまわった。
 しめて2時間半以上の濃密なライブだった。店内は熱気でいっぱい。クーラーがガンガンに効いてるのがわかるが、それでも暑い。
 予想以上にタップがジャズ・コンボにはまった、充実したライブだった。 宇川と太田のデュオももっと聞いてみたい。ややの夜のゲストで出ないかなあ。

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