LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/6/29   大泉学園 In-F

出演:巻上公一+太田恵資
 (巻上公一:voice,theremin,口琴,etc.、太田恵資:vln,voice,per.etc.)

 満員の盛況だった。喋りがいっぱいで、ほぼ半分がMC。
 下手に出る太田とあっさり肯定する巻上の組み合わせは、雑談から毒舌に進み爆笑の展開だった。

 演奏は全て即興。次々に技を繰り出す巻上を、太田は受け止める。
「なにやっても勝てないなー」と苦笑しながら、興味深げに巻上の演奏を聴いていた。
 一方の巻上も、つねに太田の演奏を見つめパフォーマンスを展開。バランス取れたライブとなった。

 最初は短めの即興を2曲。メモっておらず、ちょっとエピソードがごっちゃになってるかも。

1.太田はアコースティック・バイオリンを持つ。
「今日はバイオリンなんだ〜」
 と巻上がツッコミを入れ、楽器を構えた後もしばしトークが続く。
 コミカルなボイスをまくし立てる巻上を踏まえ、太田はフレーズよりもリフの方向へ向かった。

 息もつかせず多彩なパターンを次々ぶちかます、巻上のアイディアがすごい。
 スタンド・マイクを立てて声を拾うが、生音でも声が通るin-Fのスペースを生かし、頭の位置をオンマイクにしたりずらしたり。響きそのものも意識したボイスだった。

 一旦はメロディアスに展開しかけても、フレーズは短め。
 ますます激しくなる巻上のボイスが高まったところで、バイオリンを弾きながら「うるさ〜い!!」と太田が絶叫。カットアウトで終った。
 
2.太田はいっぱい持ちこんだ小物から、東南アジア風の木の笛を持ち出した。笙のように上へ数本の笛が立っている形。
 巻上の語りにあわせ、ふわふわと鳴らす。指で笛の先を押さえ、音程もいじった。

 巻上はひよひよとテルミンを弾く。
 太田がエレクトリック・バイオリンをウクレレ風に構えた。ディストーションをかけた音色でロック・ギター風にリフをひたすら繰り返す。巻上を立てた。
 口をきっと引き結び、巻上は膨らみある即興をテルミンで行う。
 いったんアグレッシブに盛り上がったあと、すうっとエンディングへフェイド・アウト。

3.長いMCをはさみ、アメリカ製の口琴の一種を巻上が弾く。
 口に当てたボディを指で素早くはじき、メロディを提示したのに舌を巻いた。
 同時にボイスも出し、ひとときも飽きさせない。
 太田はバイオリンを静かに弾いた。途中でバイオリンをマイク・スタンドにこすりつけ、シャウトしたのはここだったろうか。

 木製の鳥笛を巻上が吹く。笛の先を指でさまざまに押さえ、メロディを構築したのに驚いた。あんなこともできるのか。
 さりげないが、そうとうなテクニックだ。

 巻上は金属製の大きな口琴へ持ちかえる。"トロンボーン"と後半セットで呼んでいたが、正式名称はかなり長い名前。覚えきれず。
 口琴のようにはじく一方で、指でバルブを操作し音程を変えられる。楽器の動きも面白いが、巧みに演奏するテクニックも素晴らしい。見入ってしまった。

4.前半最後のセット。15分くらいやったか。今夜のライブでは長めの部類だ。
 エレクトリック・バイオリンはディレイでループを作り、音を重ねてく。大きくビブラートさせ、サイケな音像を作った。
 対抗するテルミンは足元のスイッチで音飾を変えつつ、ノイジーなアナログ・シンセっぽい響きを唸らす。

 プログレ・タッチなメロディを組み立てる太田をじっと見ながら、巻上はテンポを次第に速めて盛り上げた。
 ボディへ指を乗せ、さらにテルミンのアンテナに指を激しく這わせる。エレクトリック・ノイズを響かせた。

 二人の呼吸がぴたりと合い、演奏が止む。
 バックに低く、バイオリンのループが続いた。太田はそ知らぬ顔で頭をかく。
 一呼吸置いて、カットアウト。刹那、巻上が一声挿入した。

 後半もたんまりなMCから。後半セットの1時間中、30分くらいは喋りのはず。巻上が「徹子の部屋」へ出たことから、あちこちへ話が膨らむ。
 とにかく演奏も喋りも、笑いが絶えないライブだった。

5.太田はタールを掲げる。巻上はボイス。複数の喉声でボイパ風のアプローチだった。これがまたすごい。喉や口を共鳴体にして、凄みのある即興だった。
 ときおりテンポを変えながら、太田はタールを淡々と叩き続けた。
 途中で太田は演奏を止め「それでは、巻上さんのソロをお聴きください」と観客モード。にこにこしながら飲み物をすすり、巻上のパフォーマンスを眺めてた。

 アコースティック・バイオリンに持ち替え、静かに弾き出す。アラブ風の即興ボーカルをユニゾンで歌った。
 一瞬だけホーメイを出すが、すぐやめてしまう。
「"ボイス対決"なんて言ってる人もいましたが・・・巻上さんの前でやりませんよ」
 にんまり笑う太田。リフをバイオリンで弾きながら、ボイスで対抗した。
 パーカッシブに「ボボボボボボボッ」と連呼する。
「九州の人にはキツいことばですよね・・・俺が九州じゃん!」
 と、即座のボケツッコミで笑わせる。

 MCで太田が持ってきた「シッポナール」というオモチャ(楽器?)について喋り出す。たまに太田が使う、象の尻尾を捻る場所で音程が変わる物。
「象なら尻尾じゃなくて鼻を長くすべきですよね」
「商品名が"シッポナール"だから。きっと会議でどっちを長くするか、議論白熱したに違いないよ」
 もっともなツッコミを入れる太田へ、巻上がにんまり笑う。そして巻上のリクエストで、太田のソロとなった。

6.尻尾をゆっくり捻り、メロディが紡がれる。"イパネマの娘"を弾いた。
 「サビは難しいんだよな〜」
 ぼやきながら巧みに演奏されて、面白かった。途中で旋律を口ずさみ、とっちらかり気味になりつつも、最後まで弾ききった。

7.巻上は口琴。これも複数の音色とボイスを噛み合わせ、単調さを避ける。
  太田がアコースティック・バイオリンをメロディアスに弾いた。
 ときおり巻上をたてるそぶりで、リフっぽく続くシーンも。しかし楽器そのものがメロディを作るには苦しく、即興を引っ張ったのは太田だった。

8.エレクトリック・バイオリン対テルミンの対決で始まる。
 ここぞと太田が旋律をばら撒いた。ステージを通してメロディをあえて避けた太田だったが、最後の即興では力強い演奏でぐいぐい前へ進む。

 巻上も負けずにテルミンをぶわぶわと鳴らす。本体へのタッチやアンテナのタッピングにくわえ。手を低い位置で素早く動かし、空気を震わせた。
 さらに手をぐるぐる回し、音をはね散らかす。

 とうとう太田は、ホーメイを巻上へぶつけた。
「ついにやってしまった・・・」
 口ではぼやいてみせるが、きっちり期待にこたえるサービス精神はさすが。
 目を閉じて延々とホーメイを唸るが、巻上は低く喉を震わすボイスで応酬する。太田とアプローチかぶるのを嫌ったか。
 しばし声の綱引きが続いて、太田がバイオリンを弾き出した。
 とたんに巻上がホーメイを始める。頭蓋を響かせる、巧みな奏法。

 そして太田は振って音を出すオモチャを両手に持ち、シャウトしながらぶんぶん振り回す。
 力いっぱいのテンションで、太田は巻上をあおる。
 巻上はテルミンで立ち向かった。メロディよりもサイケ志向の浮遊を噴出させた。
 たがいに激しく盛り上がり、エンディングへ。メガホンを取り出す太田だが、音が出ないみたい。さんざん叩きまくって、あげくに内臓電池を床へばらまいた。

 演奏はフェイド・アウト、やはりループが静かに残る。
 カット・アウトで締めた。ここでも最後の一音、巻上が見事に挿入。太田がにやりと笑った。

9.「時間も遅いし、アンコールは短めに」を合言葉に。太田はアコースティック・バイオリン、巻上がボイスだったろうか。
 6拍子でリズミカルに盛り上がったのが、ここかな?最後は二人で激しく切り合い、さくっと終わった。

 とにかく芸達者な二人にふさわしい、濃密な展開。
 すべて即興だが、弛緩するヒマがない。巻上は太田を圧倒するほど、のべつまくなしに様々なボイスをまくしたてる。クリシェが微塵も無い豊富なアイディアがすさまじかった。
 音楽そのものも刺激に満ち、喋りの毒っぷりも面白い。ああっというまに時間がたってしまった。次回があるかな。あるといいな。

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