LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/6/26   西荻窪 音や金時

   〜ややっの夜〜
出演者:太田恵資+津村和彦
 (太田恵資:vln、津村和彦:ag)

 太田恵資の口上が始まる。BGMのボーカルが入るタイミングで、ぴしりと喋りが終る。細かく計算されてるんだな。初めて気がついた。
 20時前には準備万端。スムーズにライブが始まった。
 すぐにゲストの津村和彦を呼ぶ。今夜はガットギターのみ。てっきりエレキだけと思ってた。
 ちなみに太田とは何年も前に共演歴があるそう。ほんと、顔が広いなあ。

(セットリスト)
1.マイナー・スイング
2.エトワール
3.”即興”#1
4.アルマンドのルンバ
5.”即興”#2
 (休憩)
6.ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド
7.オブリヴィオン
8.”即興”#3 
9.マサラスコープ 

 ジャンゴ・ラインハルトの"マイナー・スイング"で幕を開ける。テーマから滑らかにバイオリンのアドリブへ。今夜の太田は、ほとんどアコースティックで通した。
 タールやメガホンを用意するも、まったく使わず。温かいアドリブのメロディを堪能できた。

 たっぷりとソロをとったあと、津村へ受け継いだ。バイオリンをウクレレ風に、小さくかき鳴らす。
 津村はそれまでのシャープなストロークから一転、活き活きとピックでメロディを弾ませた。高速ソロも取り混ぜる。

 「曲の演奏が気持ちいいなー。もう一曲、やりましょう」
 太田が漏らし、津村が持ってきた譜面を選びはじめた。曲名はタイトル間違ってるかも。あやふやです。オリジナルかな?
 ボサノヴァ・タッチで津村はフィンガー・ピッキング。
 指を巧み操り、低音とメロディを同時進行させる。太田はたっぷりと豊潤なソロを聴かせた。

 即興になると、ギターはラフなフリー・フォームに向かった。
 弦をこすり、根元ギリギリをかきむしる。メロディやコード主体の滑らかなアドリブから、一転してフリージャズの文脈を取り入れた。
 口火を切って即興を始めた太田は、興味深げに津村の演奏を聴き、自らの音へ反映させた。

「なんか無謀なことをやりたいんですよね〜」
 喋りながら、太田は譜面を繰る。津村とお喋りは控えめ。ほとんどが演奏だった。
 選んだ譜面はチック・コリアの"アルマンドのルンバ"。

「初見でやるにはあまりに無謀」
「リハーサルもなにもしてないんですよ」
「公開練習ってことにしましょう」
「なにが起こっても、絶対にとめないこと」

 ためらいの言葉を口々に漏らし、それでも嬉々と演奏を始めた。
 メロディはなんとなく聴き覚えある。高速フレーズを時にユニゾン、そしてアンサンブルへ。
 たしかにしょっちゅう落っこちあい、リズムやフレーズもずたぼろなシーンが、正直あった。どこを弾いてるのかあやふやな瞬間すらも。
 しかし「絶対にとめないこと!」と口々に言い合い、大笑いしながら突き進む。ソロも短く挿入し、爆笑の演奏だった。

「これでステージ終えたら、お客さんにお金払ってもらえないよね」
 太田が笑って、もう一曲即興を。
 津村のきっかけで始まった。

 ふわふわ浮遊するアコギのフレーズを聴きながら、太田はエレクトリックへ持ちかえる。小さく弓を動かし、ディレイ・ループでたちまちバックトラックを作った。アドリブは進む。
 短く演奏するはずが、けっこうボリュームある濃い即興だった。

 後半はスタンダードの"ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド"から。初めて聴いたが、温かいメロディの素敵な曲。
 太田のアコースティック・バイオリン、そして津村のギター・ソロへ。ふくよかな響きがいっぱいにひろがる快演だった。
 手ごたえあったらしく、終ったときには二人で顔を見合わせにんまり笑いあう。

 「あまり演奏しない曲」の前置きで、ピアソラの"オブリヴィオン"を。
 アコギのイントロで始めたのはこれだったかな?
 フリーなフレーズから、ゆったりとテーマが現れる。津村は曲の場面ごとにピックと指弾きを使い分けた。ソロの比重はバイオリンが若干多かったが、巧みに太田はアドリブをギターへ受け継ぐ。

 「即興もいっぱいやると、ネタなくなるんだよね」
 太田の前置きで始まった、本日3曲目の即興。ネタ的には、いろいろ技をつっこんだ。
 まずは太田がホーメイを唸らせながら、バイオリンをゆったり弾く。津村はかすかな音で弦をはじき、興味深そうに太田を眺めていた。
 ギター・アドリブが受け継がれると、フリーな奏法からいつしかボディ叩きに。

 胴や背の部分を叩く津村に対し、太田もバイオリンのボディ叩きで加わる。しばし賑やかにボディ叩きで盛り上がった。
 メロディへ戻ると、いつのまにかブルーズへ変わる。太田がハナモゲラの英語で強く吼えた。
 次第にテンポ・アップ。変則的なブルーズを弾きまくっていた太田が、次第にC&Wへシフトした。にっこり笑って、津村も同じ世界へ進む。
 ハイテンポでC&Wなソロをぶつけ合う。予想外の展開で面白かった。

 この即興がクライマックスでもよかった。しかし幕おろしとして、さらに1曲を。
「津村さんみたいなギタリストに弾いて欲しい曲です。あえて、曲名は紹介しません」
 と、太田。ボロボロの譜面を、台へ置いた。
 イントロの即興、そしてギターのコード・ストロークで、何の曲かぴんとくる。太田の"マサラスコープ"だ。
 
 華やかで優しく響く、太田による主旋律。空気が一気に暖かくなる。
 そのままバイオリンはアドリブへ雪崩れた。ギター・ソロで完全に無伴奏になったのはここかな?
 太田は楽器を完全に横へ置いてしまい、ワイングラスを片手にステージで座る。津村の演奏へ耳を傾けた。

 芯が強くスピード感溢れる、津村の即興が溢れた。テーマへ行きかけるが、座り込む太田に気づいて、さりげなくアドリブへ戻る。
 おもむろに立ってバイオリンを構える太田。テーマへ戻った。

 残念ながらラッパ・バイオリンは用意されず、アコースティックでエンディング・テーマが奏でられる。
 太田は深く頭を下げて、客電が溶暗した。

 メロディアスな津村のギターは太田とかみ合うと思ったが、充実したアドリブが交錯する味わい深いライブだった。
 最近で二人の共演はあまりイメージ無い。ぜひまたやって欲しい。
 "ややの夜"を見に行くたび、太田と共演して欲しいミュージシャンがさらに増えていく。罪なプログラムだね。

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