LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/6/23 西荻窪 音や金時
出演:ル・クラブ・バシュラフ
(松田嘉子:ウード、竹間ジュン:ナイ,レク、のみやたかこ:ダルブッカ)
以前、太田恵資の"ややの夜"へ竹間ジュンが出演して以来、このバンドを聴いてみたかった。彼女の即興センスが素晴らしかったから。
ル・クラブ・バシュラフはアラブ古典音楽を演奏するユニット。
中央に座った松田嘉子がマイクを持ち、にこやかに挨拶して早々と19時45分にライブが始まった。
MCは丁寧。松田が曲名/作曲者/リズムなどを、演奏前後で事細かに説明する。ただ、今夜はセットリストを割愛させてください。
ぼくはアラブ音楽に対し、思いっきり無知。個人名も曲名も頭に残らずでした・・・。
まず2曲、バンド名にもちなんだ"バシュラフ"という演奏形式(?)を2曲続けて。最初が20拍子で、次が16拍子といったかな?
4楽章構成で、合間にリフレインが特徴というのも初めて知った。
作曲は19世紀といったろうか。今夜は10曲ほど演奏したが、ほぼ全てがアラブ圏(と思う)の古典音楽。
数百年単位で、作曲された時代が行き来する。本当は時代や場所ごとに曲調が違うはず。まだぼくの耳では聞分けられないが・・・。
ステージはぴいんと緊張ムード。竹間やのみやたかこは演奏中はおろか、MC中も背筋を伸ばし無言できりっとした顔のまま。松田も喋るとき以外は、目つき厳しく音楽へ向かった。
しかし音楽はあくまで柔らかく、優雅に店内へ広がった。
一曲目はウードとナイがユニゾンでメロディを奏で、シンプルなビートをのみやが叩く。
正式なダルブッカ演奏だと、打面のフチ部分を積極的に叩くんだ。軽快なビートはフェイクせず、時にリムのパターンが変わる程度。
幕間意味らしいリフレインは、テーマのつもりで聴いていた。
聴いていて耳が西欧米音楽に毒されてるなあ、としみじみ。微分音の新鮮さもさりながら、リズムを強引に分割してしまう。
たしか3曲目の曲が10拍子かな?ダルブッカは1、6、7拍目に打面を叩くアクセントだったと思う。ところがぼくの耳は、強引に4拍子や3拍子の複合で聴いてしまった。
この日は譜面のアンサンブルかな、と予想してた。ところがかなりの部分でタクスィーム(即興)が入る。
ほとんどの曲で、イントロに松田や竹間が無伴奏ソロでアドリブを取った。
(3)では竹間のナイでタクスィーム。演奏スタイルが独特だった。フレーズは長回しで、ときおりブレイクが入る。
そのたびに観客をちらっと眺め、反応をうかがうそぶり。そして即興が続く。これがアラブのスタイルなのかな。
メロディ構成もビブラートを利かせて、一音を長く伸ばす場面がしばしば現れた。欧米音楽なら、このフレーズはソロの終りって気分になりがち。
ところが竹間は終らせない。合間合間に観客を眺めながら、次のフレーズへ向かう。
けっこう長めのソロだった。アンサンブルへは、フレーズの谷間みたいなところで受け継ぐ。視線をちらりと松田へ投げ、竹間は吹きまくる旋律から滑らかに曲のテーマへ向かった。
ソロの締めかたはこのときに限らない。ほぼ全て、アドリブはイントロの一部として、ある意味中途半端なフレーズで幕を下ろす。
タクスィームは奏者のアピールが主眼じゃなく、まさに曲のイントロなのかも。この点も、聴いていて新鮮だった。
竹間のタクスィームは多彩に広がる。
アラブ音楽に立脚したフレーズのみならず、イマジネーション豊かに広がった。
どの部分での即興かあやふやだが、オクターブ上下の倍音まで操る瞬間が迫力あった。低音で響かすメロディが、唐突にオクターブ上へ飛ぶ。フレーズの音符単位で。
頻繁にメロディの音程が上下する、独特の凄みが印象に残る。
タクスィームはほぼ交互にウードとレクが取る。松田のウードは軽やかに響いた。一番の低音弦は押さえていないよう。
ときおり低音弦をオープンではじいて、ドローンのように鳴らしつつフレーズは軽やかに転がる。
楽器の形態ゆえか、サスティンは使わない。ビブラートもほとんど無し。早い音符でめまぐるしく旋律を組み立てた。
おっとりとした雰囲気は、とても心地よかった。
圧巻は前半最後の曲。たしかル・クラブ・バシュラフのオリジナル、と言ってた。
ふんだんにタクスィームを混ぜ、15分近くの長尺でたっぷりと展開した。
途中で竹間がナイを横へ起き、レクを勇ましく響かせたのもここか。
以外なのはダルブッカがあまりにおとなしいこと。パターン維持につとめ、タクスィームもなかった。古典アラブ音楽だと、ガンガン前へ出ないのか。
たとえば1stセット最後のオリジナル曲では、もっとアグレッシブにリズムを叩いてたと思う。
その点で後半2曲目、レクとダルブッカのデュオが圧巻。
まずは交互に無伴奏でリズムを叩く。最初は6拍子。基本パターンは決まっており、バリエーションを挿入する。
のみやは素晴らしくタイトに打ち鳴らした。
打面を手の横で素早くミュートする鋭い音は、ここで初めて飛び出す。打音も複数パターンを操り、刺激たっぷり。彼女のダルブッカの自由な演奏を、もっと聴きたい。ダルブッカのタクスィームってないのだろうか。
竹間はリズムを揺らしながら、激しくレクを叩いた。レクの向きを変えて響きを操作し、横についたシンバルを巧みにリズム・パターンに混ぜる。
長めの無伴奏ソロを幾度も交換して、4拍子でデュオに雪崩れた。
フリーに暴れないが、ユニゾンと別々のパターンが混ざるひとときはスリリングだった。
ステージを通し、曲順は決まっていた。前後半ともに5曲づつ。パーカッション・デュオを入れたり、バラエティ豊かな選曲への配慮が分かる。
作曲者も色々な時代から、意識的に抽出したようだ。
後半ではメロディに、より軸足を置いた展開。ユニゾンが基本のようだが、ナイとウードの絡みも多彩に聴こえた。
曲をさらりとエンディングへ導く。
ここで初めて三人そろってにこやかに挨拶し、幕を下ろした。
古典アラブ音楽を踏まえつつ、ル・クラブ・バシュラフなりのオリジナリティを取り入れた音楽、に聴こえた。
なにせ知識不足で、この編成がアラブ音楽にとって通常なのかトリッキーなのかも分からない。
いずれにせよ寛いでじわっと音楽に浸れる、いいライブだった。ぼくにとっては新鮮な響きを、いっぱい味わえて楽しめた。タクスィームがいっぱいあったのも嬉しい。
次回は7月の荻窪サンジャックでライブだそう。また聴いてみたい。アラブ音楽への興味も膨らんだ一夜だった。