LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/6/18 新宿 Pit-Inn
出演:Orquesta-Nudge!
Nudge!
(芳垣安洋,岡部洋一,高良久美子,関根真理,坂田 学,龍大,茶谷雅之,高田陽平,Taichi,
中里たかし:per)
PIT-INNのスケジュール表には上記の10名。ただし一人は病欠のため、9人編成でライブが行われた。観客は立ち見がずらりと並ぶ盛況。
今回は普通にステージへみっしりと楽器が並べる配置だった。下手に芳垣安洋、上手に高良久美子が向かい合って、客席へはみ出る。中央のスペースは開けられた。
芳垣はドラムセットの周りにさまざまなパーカッションを並べ、高良はヴィブラフォンの横にパーカッション群をセッティング。布をヴィブラフォンの上に敷き、パーカッション置き場にもしていた。
下手奥の岡部洋一の前には、薄い鉄板を丸く切ったシンバルが一枚。関根真理が持ちこんだという、胴鳴りする大きな豚のオモチャが乗っていた。
<セットリスト>
1.新曲1(45分)
2.新曲2(15分)
(休憩)
3.旧・新曲(10分)
4. ? (30分)
5."ブンバカ"(20分)
(アンコール)
6.屋上の飛行機凧(10分弱)
新曲は芳垣が仮題をつけたそう。しかし、「メールでメンバーへ譜面を送ったとき書いても、誰も覚えていない」を理由に、すべて"新曲"で押し切った。
まず小さな木製パーカッションをメンバーが持ち、静かに叩く。中央奥に座った関根らは、膝上にカホンを乗せて叩いた。奥ではボンゴで6/8拍子のリフを叩く。
芳垣は中央に立って指揮者役。ときおりメンバーを次々指差し、演奏を続けるもの、ストップさせるものを指定。たとえるならばDCPRGの"Catch
22"の形式を取った。ストップさせるときは、コブラでも使う親指サインを使用。あの仕草がすっかり共通言語になってるな。
シンプルなリズムで静かにビートが重なる。ポリリズムかもしれないが、根底に鳴るハチロクが強固に響いた。
ウッドブロックが淡々と響く中、岡部が小脇に抱えたトーキング・ドラムでちょっとしたソロ。
芳垣は中央で指揮に専念せず、上手奥に立って奏者の一員としても音楽に参加した。ティンパニらしきものを叩く。
1曲目から、かなり長尺の展開。ラテン風味か。
リズムが延々と流れる。ときに口パーカッションに切り替えさせる。
それぞれが基本リフを持ってポリリズミックにかぶさるが、だれもがなんだか気抜けした風情で、脱力リズムなのが可笑しかった。
小物パーカッションは、次第にドラム・セットへ移行する。だんだん音が大きくなった。ビートは4拍子に変化。一小節づつ、全体アンサンブルとドラム一人のカット・アップを芳垣は指揮した。
ボイス・パーカッションも混ぜる。「くろあちあ、くろあちあ、くろあちあ」って、淡々と続ける岡部。芳垣は大真面目な顔で周りの音を止め、岡部一人に単独で呟かせた。
エンディングは冒頭のウッド・ブロックによる静かなアンサンブルへ戻る。ボイパを混ぜて、次第に音を減らす。ラストは一人だけ、淡々とリフを呟かせた。
ついに、声を止まらせる。そのとたん、大きな息継ぎ。笑いが飛んだ。
いきなり45分の長尺に続き、本日2曲目の"新曲"。今度はアフリカンだった。
「ドラムセットの前に立ったけど・・・こんなのをもってます」
芳垣が小さな木製パーカッションを掲げる。筒に棒を通し、こきこきと音を出す楽器。
4/4拍子でしっとりと始まった。関根らはバード・コールなども持ち出す。
いつしか全体のリズム。アンサンブルへ繋げた。
芳垣の提示するパターンと、直後のユニゾンの迫力がオレカマ状態ですごい。
ファンクな展開に傾きかけても、あくまで主体はリズム。淡々とした雰囲気は変わらない。ヴィンセント・アトミクスに通じる音像が香った。
ヴィヴラフォンのメロディを挟み、芳垣のシンプルなソロへ。岡部がメタル・パーカッションを叩く。
この辺からラテン全開でさらに賑やかさを増した。4小節と8小節でリズム・パターンを切り替え、怒涛の盛り上がり。ホイッスルが鳴り響き、サンバで高まってエンディングに雪崩れた。
一旦休憩、後半は「前回ライブでの『新曲』」から。
4拍子で頻繁にブレイクを挟み、リズムを変える。途中で3拍子に変化した。
芳垣はマラカスをスティックに、ドラム・セットを叩きのめす。5拍子っぽい瞬間も。かなりメリハリ利いた曲だった。
続いては、曲名を告げず。高良はヴィブラフォン、芳垣はシンバルをコントラバスの弓で静かに引く。玄妙な響きが高まり、幾人かが静かなパーカッションを重ねた。
岡部は豚のオモチャを乗せたシンバルを、両手でうぃーんと曲げる。柔らかな響きが空気を震わせた。テンポはフリーだったが、次第に3拍子へ収斂する。
芳垣はボンゴを叩く。高良がメタル・パーカッションで基本パターンを示した。
アンサンブルは全体に広がる。3拍子とも4拍子とも取れる、ポリリズミックな展開へ。ソロも何もなく、ただただ溢れるビートに酩酊感すら覚えた。
最後はヴィブラフォンが静かに鳴らす。芳垣や高良がソロ風に叩いて終った。これも約30分の尺。
「最後は"ブンバカ"です」
チューブ・ドラムを中央へ置き、芳垣と高良が向かい合って叩く。高速パターンを分け合い、スリリングに鳴らした。
岡部が豚の人形を鳴らし、コミカルに茶々を入れる。わざわざ演奏を止め、芳垣も岡部の方向へ。豚を握って、ひと鳴きさせた。
4拍子で、高良はメロディカをかぶせる。芳垣と岡部のデュオっぽいリズム合戦から、オーケストラへ展開した。
勇ましくリズムが打ち鳴らされる。
「ティック・タック!ナッジ・ナッジ!ティカティン!ティカティン!」
幾人もが声をそろえて、シュプレヒコール。隙間を縫って、高良がヴィブラフォン・ソロを入れる。
後半は芳垣らがホースを振り回したり、デンデン太鼓を持ち出したりと落差ある展開だった。アルバムをきちんと聴いたことないが、CDを踏まえたアレンジなのかな?
最後は岡部が中央に石油缶を持って登場。力まかせに連打する。勇ましいエンディングだった。
そのままアンコールへ。"屋上の飛行機凧"は、幾人もが筒状の金属パーカッションを持つ。降ると一音だけ鳴る仕組み。
それぞれがメロディにあわせパーカッションを振り、旋律を作った。
柔らかく、深く、そっとメロディが響く。誰もが一旦振り下ろしたパーカッションをくるりと回し、空気を揺らせた。
ヴィブラフォンがメロディを紡ぐ。その後ろでランダムに鳴る金属パーカッション。
最後は高良の音だけが残り、リタルダンドして演奏が終った。
23時になろうというボリュームたっぷりなライブ。メロディやソロ回しを極力廃す、ストイックなバンドだと改めて実感した。
PAもリバーブをほとんど利かさず、ピットイン・レベルだと生音で耳へ届くような箇所も多数。
ダンスを前提としたリズム・オーケストラながら、座ってじっくり聴く要素も多分に含んだ。
惜しむらくはパーカッションが林立し、後ろのメンバーがなにを叩いてるか良く見えないところ。
見下ろしタイプのステージで、じっくり聴きたい。次回は11月頃らしい。リズムの沼へずぶずぶと浸る快感を味わうには最適のバンドだ。