LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/6/10 西荻窪 アケタの店
出演:明田川荘之ソロ
(明田川荘之:p,オカリーナ,.etc)
アケタの店恒例の、ソロの深夜ライブ。今年の3月ぶりに聴く。
「最近覚えた曲です」
0時20分頃。ピアノの前に座った明田川は、そう呟いてピアノを弾き始める。
約2時間に及ぶライブの幕開けだった。
<セットリスト>
1.バット・ナット・フォー・ミー
2.世界の恵まれぬ子供たち
3.パール・ブルーズ・フィリップ
4. ?
5.コサック古澤もしくはネフリュード高木
6.ミヤコシノ〜ブラックホール・ダンシング(?)
7.レフト・アローン
8.オカリーナの楽しみ〜悲しき天使
9.テイク・パスタン
10.? 〜 インバ
11.アローン・トゥギャザー
12.マイ・フェイバリット・シングス
(アンコール)
13.リフレクション
この日はさくさくと曲を披露した。各5〜10分くらい。
"バット・ナット・フォー・ミー"は先日のライブでも演奏したスタンダード曲(だと思う)。ピアノのソロをひとしきり、そしてオカリーナを手に取る。
フレーズをちょっと吹いては、ピアノでコードを弾く。そしてペダルで音を伸ばし次のオカリーナのアドリブへ。これをしばらく繰り返し、やがて完全無伴奏オカリーナ・ソロへ雪崩れた。
穏やかなメロディの曲。これが"アイル・クローズ・マイ・アイズ"のように、ライブの定番曲へなっていくのかも。
"世界の恵まれぬ子供たち"は「最近のオリジナルです」と紹介した。とはいえ、ぼくの知る限り03年の8月頃から演奏されている。
切ない情感溢れたテーマをフェイクさせ、唸りながらアドリブが紡がれた。たっぷり時間をかけて展開してもおかしくないが、ここでは比較的あっさりとソロが終ってしまう。10分くらいかな。
続く"パール・ブルーズ・フィリップ"は、たぶんはじめて聴く。4拍子っぽいが頭をずらし、変拍子みたいな感じ。
後ろの厨房で水を出す音がみごとなタイミングで、アクセントで聴こえて面白かった。
さらにクラスターやピアノ内部に手を突っ込む特殊奏法を連発し、ライブ開始早々からフリーな展開となった。
確か前半はペダルを使わず、後半はじっくり響かせた。
アドリブはきっちりスイングする。フリーなテンポや肘打ちが炸裂しても、グルーヴがぎりぎり残ってた。
(4)は曲名を紹介するも覚えきれず。沖至とデュオでやってた曲だそう。2ndアルバムに録音したと言っていたが、その盤は手に入らないしなあ・・・。
前曲のフリーなイメージを素早く拭い去る。情感が演奏に戻ってきた。
"コサック古澤もしくはネフリュード高木"。去年の2月に深夜ライブで聴いた曲だろうか。ほとんど聴き覚えないメロディだった。
"コサックダンスを踊る古澤良治郎"と"横浜での名物タクシー運転手"の二人のイメージをあわせた曲とか。
ごつごつしたメロディの途中で唐突に、ロシア民謡"カリンカ"みたいな旋律が挿入される。大胆な展開の曲を、ゴツゴツしたメロディ中心にアドリブが展開した。
普段はあまりMCをしない明田川だが、この日は積極的に曲の由来などをあれこれ説明してくれた。
本当にてきぱきと、ライブが進んでいく。このあたりまでで30分強じゃなかったろうか。なお今夜は事前にセットリストが組まれている。ピアノの上に置いたメモを、明田川は目をすがめて読み取る。
"ミヤコシノ"はスピーディにアドリブが前のめりに動く。低音で一部ホンキートンクするところを、幾度も弾いてた。コード進行の関係かもしれないが。
エンディング間際で、同じく明田川のオリジナル"ブラックホール・ダンシング"のテーマを挿入したはず。足元に置いた大きな鈴を、高らかに振り回した。
曲が終ったときに明田川はMCで触れなかったため、ぼくの勘違いだろうか?
パワフルに鍵盤を叩き、盛大にうなり声が高まった。
「さっき演奏してたグループ聴いて、曲を思い出しました。」
当日夜の部でマイク・レズニコフのバンドが演奏してたらしい。マル・ウォルドロンの曲。
テーマこそペダルを思い切り踏むと予想したら、違うアプローチ。むしろからっとテーマを提示した。アドリブでペダルを踏み、思い切り情感を込めて弾く。
フレーズがしっかりアケタ節になってるのが興味深かった。時に右腕を高く上げて身体を傾がせ、次々とメロディを溢れさす。八分音符がずぶずぶランニング、ときおりシンコペートさせてグルーヴを揺らがした。
オカリーナを幾本も足元のケースから取り出して、ピアノの前におく。
曲名を紹介し、"オカリーナの楽しみ〜悲しき天使"とメドレーで演奏した。
次々と持ちかえるオカリーナのキーで、牧歌的な旋律が上下する。ひとしきり空気を和ませたあと、ピアノへ向かう。
"悲しき天使"とは、ジーン・ラスキンの曲だろうか?メロディに聴き覚えはあるが、この曲を良く知らない。コード進行はまるで60年代の歌謡曲を思わせる、じわっと情緒的な雰囲気だった。
雰囲気はジャズに戻った。明田川のオリジナル、"テイク・パスタン"。
テーマは時に、たっぷり間を取って演奏する。しかし今日はあっさりとフラットに奏でた。淡々と冒頭を提示し、切々としたアドリブに向かう。
このあたりから本格的に熱がこもったか。かなり長尺でソロを披露した。
ふわりと空気が動く。エアコンの音がかすかに聴こえる店内に、明田川のピアノが広がった。ステージを見てる視線の片隅で、小さな蛾がちらちらと舞った。
次に弾いた曲はアケタの店の常連に捧げた曲だそう。カタカナ四文字くらいのタイトルだったが、記憶できず。すみません。
いきなりクラスターが飛び出し、思い切りフリーな曲。その中に細川たかし"心のこり"を連想するフレーズの断片が挿入される。
メロディはあるようだが、ほぼ全編がクラスター。肘打ちだけでなく、かかと落としがピアノ高音部に幾度も当てられた。
さらにオカリーナをピアノの中へ投げ入れ、鈍く響くピアノ線の効果を盛大に使ってソロが展開した。びよんびよん音が揺らぐ。
いい時間だし、このまま終わりかなと聴いていた。歯を食いしばって、両肘で鍵盤を叩きのめす明田川。ところがするっと次の曲へ移った。ピアノの中からオカリーナを取り出す。
片手にセットリストを持って、眺めながら演奏は続く。時間はすでに1時半に近づいてる。
曲は"インバ"。うなり声をドローンに、たっぷりとソロを展開させた。最近、良く弾いている。
一転して情感のこもったスケール大きい曲に映った。テーマが自由に解体され、即興をやまほど提示した。
「"マイ・フェイバリット・シングス"ってメモにはあるけど、今弾くとめちゃくちゃになりそうなので・・・何かリクエストある?」
そして弾かれたのが、"アローン・トゥギャザー"。ちょっとイントロを弾き、すぐに中断。水をスタッフから貰う。そんなふうに肩の力が抜けた演奏ながら、アドリブが盛り上がるとぐいぐいのめった。
低音が執拗にグルーヴし、右手はフレーズを重ねた。
ライブはそれでも終らない。「もう一曲やリます」と、"マイ・フェイバリット・シングス"へ移った。
コルトレーンでのマッコイ・タイナーより粘っこくテーマを弾き、アドリブに行く。ねっとりと、それでいてスケール大きく。アドリブが存分に高まった。
エンディングはあっさりと。テーマへ戻ったかな。
最後は鍵盤を尻で一打ち。にっこり笑って「終わります」と幕を下ろした。
たまたま観客が誰も帰らずタバコを吹かしてたため、「なんならもう一曲やるよ。静かなやつを」
後ろで一息ついた明田川が提案した。「モンクの曲を」と声が上がる。
「"リフレクション"ね。」
即決する。店の外へ姿を消すが、すぐさま戻ってきた。ピアノの前へ座る。譜面は無し。
柔らかく弾くと予想したが、のっけからアタックが強い。唸りながらみるみるテンションが高まり、ソロがドライブした。アンコールも心のこもった演奏で、かなりたっぷりと弾いてくれた。
さすがにライブはここで終り。時間は夜中の2時半になろうとしていた。
二時間位、聴いてたことになる。すごいボリュームだな。深夜ライブは時間制限ないからか、かなり奔放にステージが展開する。その醍醐味に触れた一夜だった。