LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/6/4 西荻窪 アケタの店
出演:明田川+翠川+吉野
(明田川荘之:p,オカリーナ、翠川敬基:vc、吉野弘志:b)
チラシには副題で"性の歓び"とある。明田川荘之がつけたらしい。
「はい、楽器置いて後ろ向いて」
「・・・もっと飲んでくればよかったなあ」
ステージに上がった明田川の第一声。苦笑してぼやくのは翠川敬基だ。
立ち上がって客席へ背を向ける翠川と吉野弘志。
ピアノをぽろんと弾く。すぐにみんな噴出してしまい、向き直ってチューニングに戻った。
どうやら音楽にあわせて尻を振る演出だったらしい。せっかくの副題だが、企画は30秒で終る。まあ、冗談なんだろう。
吉野と明田川はよくセッションしているイメージあり。翠川とも一年に一回、ここ数年はセッションしてる。前回は05年の7月。その前は04年3月。今日と同じトリオ編成で演奏された。
この日も録音された。吉野も翠川もアンプを使うが、録音マイクは楽器へ直にあてたのが印象深い。
翠川はいつもと違うチェロを持ちこんだ。根柱を調整していた楽器で、鳴りは硬いが使えると判断したそう。
ちょっとサイズが小さめに見えた。ニスは深い茶色。
ライブは"侍日本ブルース"から始まる。すさまじく濃密なライブだった。
<セットリスト>
1.侍日本ブルーズ
2.アルプ
3.?
4.大感情
5.ブラックホール・ダンシング
(休憩)
6.クルエル・デイズ・オブ・ライフ
7.バット・ナット・フォー・ミー(?)
8.インバ
9.アフリカン・ドリーム
(アンコール)
10."アイ・リメンバー・グリーン"
ほとんどが明田川のオリジナル。(3)はタイトルを聴き取れず。(4)は三上寛の曲。(7)はスタンダードかな。(10)は"アイ・リメンバー・クリフォード"の変奏だろうか。
ピアノのイントロで"侍日本ブルーズ"が始まる。ベースがランニングし、チェロは特殊奏法を多用。
フラジオをばら撒き、演奏に膨らみを出した。
"アルプ"はテンポが速め。イントロのピアノ・ソロはフリーからテーマへ雪崩れる。テーマのフレーズが唐突に現れる新鮮なアレンジだった。
翠川はイントロで譜面を持ち、ふるふる振って風切り音を挿入した。
いきなりベースが、味わいたっぷりな極上ソロを聴かせる。メロディアスに音を紡ぎ、たっぷりと深い低音を響かせる。
吉野はバッキング中心のプレイながら、ときおりカウンターのフレーズをさりげなく織り込んだ。
(3)は聴いたことあるが、曲名浮かばず。"Bのブルーズ"と明田川がメンバーへ伝えた気がする。アップテンポの疾走ジャズ。オーソドックスだが、スリリングな展開だった。
インテンポのジャズでソロを取りまくる翠川、って貴重かもしれない。
両足をバタバタ動かしてリズムをとり、額に大粒の汗をいくつも滲ませる。
翠川は滑らかなボウイングとビブラートで、美しいアドリブを追い込んだ。
譜割は小節を解体せず、あくまでインテンポでソロと向かい合った。
最後は4バーズ・チェンジに。ソロ回しの順番に戸惑ったか、一旦全員が音を止めてしまい。顔を見合わせるシーンも。
すぐさまアドリブにうつる。途中で翠川のスキャット・ソロも飛び出した。
テーマを盛大に唸りながら、切々とピアノを奏でたのが"大感情"。チェロのアドリブも、どこか日本情緒寄り。美しかった。
明田川は即興にも行くが、テーマを幾度も重ねる。この曲はそのアレンジのほうが映えた。
休憩かと思ったら、まだ止まらない。"ブラックホール・ダンシング"へ。これもテンション高かった。
ピアノの譜面台を、明田川は平手でバシバシ叩く。アフリカン・ベルを掴み、ジャラジャラ鳴らした。
いちどは演奏がエンディングへ行きかけたが、翠川が許さない。さらに演奏をあおるリフをいれ、もいちどセッションへ突き進んだ。
後半は最近の名曲"クルエル・デイズ・オブ・ライフ"から。朗々としたメロディは、チェロに響きに良く似合う。
中盤のベース・ソロでは、バッキングをいさぎよくチェロに任せてしまう。ピアノに頬杖ついて、目を閉じ演奏を聴く明田川。珍しい光景ではないか。
翠川はピチカートやカウンター・メロディを多用し、ベース・ソロを盛り立てた。
"But not for
me"は明田川曰く、チコ本田のアルバムを前夜にマスタリング中、気に入ってオカリーナを合わせて吹いたという。
「初めてやる曲だよ」
呟いて、この日初めてオカリーナを手に取った。静かに吹き進める。数本を使い分けながら。チェロがキュートなオブリを入れた。
果てしなくオカリーナのソロが続く。たんまりとアドリブを明田川は披露した。彼がエンジン本格的に入ってきたのは、この辺からか。
もはや"インバ"以降は、弾き方がソロ・ピアノな勢いだった。
アンサンブルやソロ回しはどこ吹く風。とにかくがんがんテンション上げて鍵盤をひっぱたく。
うなり声が盛大に炸裂し、素朴で東北的なメロディをふんだんにばら撒いた。
一瞬の隙を突いて、チェロのアドリブが滑り込む。ベースは着実に底支え。
3人のベテランが切りあう、とびきりスリリングなセッションになった。
ちなみにこの曲、三上寛がレコーディングしたそう。歌詞は明田川が作曲したときと、かなり世界観変わったとか。
"アフリカン・ドリーム"でも明田川の好調は変わらず。しかしアドリブでは翠川と吉野の二人だけに演奏を任せる鷹揚さを残した。
イントロから力強く高音部を叩き、内部奏法やタンバリン、ベルなどをアクセントに織り込む。
翠川はチェロのボディを強く叩き、明田川の特殊奏法に応えた。
すでに22時半を回ってるが、終る気配なし。たっぷりと演奏は広がった。吉野は最低音弦のつまみをくるりと回し、極長弦を強くはじく。
明田川のクラスターが、次第に高まる。翠川も吉野も呆れ顔で眺めながら演奏を続けた。
朗々と長尺演奏が、ついにテーマへ戻る。静かに曲は幕を下ろした。
そのままステージを降りず、明田川の提案で"アイ・リメンバー・グリーン"に。
ピアノの伴奏で翠川のソロに移るが、チェロはわざと調子っぱずれなフレーズを弾きまくる。
「ばっかばかしくって、やってられないや」
明田川が苦笑して演奏中断、今夜のライブが終った。
23時になろうかという頃合。実に2時間半近くにわたる、ボリュームと熱気たんまりなステージだった。
熟練と経験豊富さがにじみ出るやりとりは、コクがあってとても楽しめた。
ぜひこのライブ、CD化して欲しい。ぼくの曲順希望は(5)(7)(3)(8)(9)。このくらいでCD一枚分じゃないかな。