LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/6/3 新宿 Pit-Inn
出演:大友良英ソロ
(大友良英:eg,ag)
大友良英によるギター・ソロのライブ。立ち見も出る盛況だった。
20時を軽く回ったころ。後ろのカウンターで談笑していた大友は、ゆっくりステージへ向った。にこやかな表情から一点、ふっと真剣な面持ちで。
客電が落ちて、ステージが明るくなる。
「今日は2セット、エレキとアコースティックで即興をやりたいと思います」
椅子に腰掛けた大友は、マイクを横へ押しやった。膝に手を当て、俯いて体を硬くする。
ステージにはテーブルがふたつ。それぞれの上に、エレキギターが横に置かれた。足元にはエフェクター類が並ぶ。
客席はしんと静まり、何が起こるかをじっと見つめる。
大友は俯いたまま。やがて微かなフィードバックが、ゆったりと立ち上がった。サイン波のよう。
足はペダルに乗っている。ペダルで操作しているのか。いったん大きくなりかけたフィードバックは、そっと音量を下げる。
そして再び、ボリュームが膨らんだ。
大友はギターを持たない。机の上に置いたまま。腕すら動かない。膝の上に載せたままだった。
僅かな発信音が倍音を伴って響きが複雑さを増す。空気の中で微妙に音成分が入れ替わるよう。
単音が響き、耳が酩酊してきた。
大友は周波数を演奏した。
<セットリスト>
1."2本のエレキギターによるフィードバック"
2.ロンリー・ウーマン
(休憩)
3・女人四十
4・カナリア
5・青い凧
6・ミスティ
7・"エレキギターでの即興"
(アンコール)
8・ロンリー・ウーマン
冒頭の即興は40分くらい続いた。大友は身じろぎもせず、ずっと二台の横置きギターが出すノイズへ耳を傾ける。
始まって10分程度たった頃だろうか。つと手を伸ばし、ギターのボディへ触れる。ハウリングがじわっと変化した。音程が揺らいだ。
大友が動き出した。テーブルへ横置きしたギターの向きを変える。新たな共鳴が響いた。
もう一本のギターのペグを緩める。低音が出た。フイードバックは太く唸り、震えた。
指板をやわらかく触る。クリップをいくつか挟む。ついに大友は一本のエレキギターを抱えた。
ギターを構えても、弾かない。もったままボディを揺らし、フィードバックを引き出す。ボトルネックを出した。横に置いたギターのネック上で転がす。
磁石を抱えたギターのピックアップへ押し付ける。ギターを抱え直し、横置きギターのクリップもはずした。
さらにボディへ磁石が近づいた。足のスイッチもいくつか操作しているよう。
体の向きを変えた。ともなってフィードバックの響きもじわっと変る。
抱えたギターのネックへは、指をそえただけ。フレットは押さえない。
さわさわ動かされる指。心なしか小刻みにフィードバックの鳴りが変る。鼓膜を震わせる大音量。
つと、音量が下がってく。単音が伸ばされ、倍音をつれてきた。
しかし次第に音の響きが拭い去られる。たったひとつの単音フィードバックが漂う。・・・フェイド・アウト。
一息つき、拍手に応える大友。ギターを抱え直した。
弦が爪弾かれる。ミュートしては、さらにフィードバックを。
やがて"ロンリー・ウーマン"のメロディが歪んだハウリングを伴って現れた。テンポはゆったり。ノイズ成分をしたたらせて。
ハウリングをビブラートに、フィードバックを彩りに。ノイズの装飾を施して、大友はギターを奏でる。ノイズはコントロールされた。
メロディの途中で大友は音を止めた。低音のドローンが延々と続く。唐突に音がやむ。大友は一礼して、1stセットを終わらせた。
「前半は最近凝っている"2本のエレキギターによるフィードバック"です。最近増えてきた観客が、また減りそう」
笑いながらしゃべる大友。新しくできるスペースの紹介も含めて、しばらくしゃべった。
山本精一曰く、ライブハウス営業の秘訣は「近所づきあい」だとか。新スペースの隣にはカラオケ教室があるため、
「おれもカラオケ、習い始めるかもしれません」
2ndセット前半はアコギによる映画音楽集。
まず"女人四十"の曲から。しんと固唾を呑む雰囲気の中、中国大陸を連想する優美なメロディをやわらかく奏でた。
二つのコードが交互に行き来され、とつとつとメロディが紡がれる。
続く"カナリア"のテーマは、童謡を意識した曲だという。シンプルなメロディをしみじみ繰り返す。アドリブは控えめで、テーマを幾度も弾いた。
"青い凧"は大友の初サントラだそう。こちらも子供が主人公で、わかりやすいメロディを考えたと説明。
この演奏が素晴らしかった。倍音が響く。フレーズを溜めて、拍の頭やリズムをずらす。旋律はめくるめく展開をした。
曲名を告げずに演奏を始めたのが、エロール・ガーナーの"ミスティ"。インプロがしばらく、小音量で続く。ぎしぎしと響く音。フロアのエアコンが出す、低い唸りすらアレンジに溶かしてる。
じっくりとイントロを膨らませ、おもむろにテーマを浮かばせた。
「ピットインですから、ジャズもやりました」
にっこり笑う大友。エレキギターへ持ちかえる。
抱え込んで、強烈なフィードバック・ノイズをばら撒いた。
ギターを空気へ押し付けるように、凶悪な響きを。頻繁にブレイクを挟み、スピーディな展開を選ぶ。ネックをわしづかみ、メロディでなくノイズそのものと対峙する。
これまで白かったライティングが変わる。ステージが赤く染まった。
ロングトーン、フィードバック、そしてブレイク。空気を切り裂き、ざくざく微塵に。ノイズの咆哮をコントロールした。
ストーリー性を持った展開ではなく、響きそのものの膨らみを重視した即興だった。
約20分ほどのインプロ。唐突に音を切り、ステージを降りた。
アンコールの拍手に応え、エレキギターを構える。
「1stセットでも演奏しました。誰がなんと言おうと、この曲は演奏し続けます」
もういちど、アコギで"ロンリー・ウーマン"を。
弦にクリップを幾つか挟んだみたい。遠目で良く見えず。
鈍い倍音を響かせ、軋むような音色を引き出す。弦をピックでこすり、ひっかく音も。
ボディを叩き、リバーブたっぷりまぶして鳴らした。
歯軋りするような切ないムードの演奏。最後は薄くハウリングを残し、幕をひいた。
ノイズ一辺倒ではなく、バラエティに富んだ演奏。ターンテーブルも欲を言えば見たかった。
ずっと腰掛けたため、演奏姿を観づらかったのが難点か。ピットインはステージ低いため、もう一段台を置いて高く座って欲しい。
この日はカメラが入っていた。記録映画を撮影中かな。ちょうどカメラが陰になり、本人が見づらくなるセッティングだったが。
轟音が必然や前提ではない。空気のふるえそのものを操る、大友の個性が見事に出た、聴き応えあるステージ。座ってじっくりと彼の音楽を味わえる、良いライブだった。