LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

06/6/2  大泉学園 in-F

出演:谷川+太田+佐藤
 (谷川賢作:p、太田惠資:vln、佐藤芳明:acc +佐藤浩秋:b)

 意外な事にこの三人でのライブは、今回初めてだそう。てっきり何度もやってる組み合わせかと。
 それぞれは面識ある仲のため、雰囲気は最初から寛いでる。探りあいは曲や段取りのみ、サウンドの呼吸はかみ合ってた。
 観客は演奏中もぞくぞくあらわれ、あっというまに満員の盛況。太田恵資の入りがぎりぎりになったため、ライブは20時半近くに幕をあけた。

 まずはインプロだろうか。太田と谷川の対話みたいな演奏から。佐藤芳明はアコーディオンの蛇腹を開き、ドローンを出す。
 エレクトリック・バイオリンを持った太田は、俯き加減でワウペダルを踏みながら、低音を出す。メロディオンを持った谷川賢作が、胸を張って鍵盤を吹いた。ピアノの前に立ち、ゆったりと奏でた。
 ひとしきり吹いた谷川は、ピアノに向かう。大きく蓋を開けたグランドピアノから、そっとリフがこぼれた。

 太田がおもむろにアドリブ。そして谷川へ。ソロ交換が二人で行われる。
 佐藤はしばらくたってからぐっと音を前に出した。
 まず15分ほど、長めのインプロを置く。4拍子のはずが、微妙に三人の譜割が違う。ポリリズムっぽく聴こえたのは気のせいだろうか。

 バイオリンはヨーロッパ風味で、旋律が美しい。上品なピアノや穏やかなアコーディオンとからみ、おっとりしたアンサンブルが産まれた。

 事前リハ無しな太田を、谷川がいっぱいからかう。
「リハなしでも5年前から弾き続けたように、自然に弾くんだから〜」
 佐藤と二人して持ち上げ、「褒め殺しの対抗手段ですかな?」と太田が苦笑した。

 でも、その意見はもっとも。続いて演奏されたハバネラのリズムを取り入れた谷川の曲(すでに太田は知った曲だそう)、その次の太田が初見の曲。どちらも太田の音は滑らかに響く。
 最初こそ譜面を見てもアドリブのとたん、ふっと肩の力が抜ける。
 そして滑らかなメロディが、ふんだんに溢れた。
 曲世界へあっというまに入り、なおかつ自らの美意識を崩さない。強靭な音楽へのプライドがバイオリンから溢れた。

 この日は弦を張り変えたアコースティック・バイオリンに苦戦。ピッチが合わないそう。後半はほぼエレクトリックを弾いた。
 1stセット最後のジャンゴ・ラインハルトの曲では、演奏始まってるのにアコースティック・バイオリンのチューニングを続ける。
 見かねて谷川が中断すると、「せっかくいい感じだったのに」と太田が笑った。チューニングを爪弾きのように取り入れて演奏してたから。

 谷川のピアノは初めてじっくり聴いた。ダイナミックと穏やかさが同居する。早弾きや荒っぽいフレーズは使わない。むしろメロディすら多用しない。
 バッキングを意識したのか、オリジナリティなのかはもっと彼の音楽を聴かないと分からないが・・・。

 谷川は軽やかに鍵盤へ指を落とし、音を弾ませる。切り方が綺麗だった。和音を柔軟に飛び交わせ、優雅にグリサンドする。破綻させず、美しさを崩さない。
 そして訥々と素直な面も見せる。グルーヴよりも構成美に軸足置くようす。だから2曲目に演奏したような、美しい曲が見事にはまった。

 佐藤は一歩引き気味。遠慮したのかな。左手でアコーディオンのボタンを押して低音を出しつつ、鍵盤を滑らかに弾く。
 メロディは太田とぶつけ合うような切りあいが、もう少し多いと嬉しい。
 ボディを叩く特殊奏法は味付け程度。姿勢をぴんと伸ばし、さりげなく存在を主張する。
 1stセットが進むにつれ、次第にリラックスしていった。

 このアンサンブルの聴き所は、いかに曲を成立させるか。リハ不足の太田は、さすがに切れ目切れ目でアイコンタクトを両者へ送る。
 目を閉じてバイオリンを弾くときも、佐藤と谷川が合図しあって演奏を構築した。
 あやういバランスでアンサンブルが成立してるのに、音だけ聴くととても滑らかで面白かった。

 1stセットで傑作なパフォーマンスだったのは、最後に弾いたジャンゴの曲。メロディオンに持ちかえた谷川が、「こっちのほうが音が良い」と言い張って、演奏しながら上手スペースへ歩み寄る。
 中央にいた太田と上手の佐藤の間へもぐりこみ、吹き続けた。

 すかさず太田がバイオリンを置き、ピアノの前へ。
 谷川を伺いながら、そっと鍵盤へ指を乗せる。小さな音が響いた。
 佐藤は笑って弾きながら様子見。谷川と太田の一騎打ち。
 最後に太田がピアノをダイナミックに弾き、ガンガンに盛り上げてエンディングへ導いた。ピアノを弾く太田ってなかなか見られないから、貴重な一幕だった。

 後半セットの目玉企画はクール・ジャズ。曲名は言わず。コニッツあたりだろうか。
 3曲まとめて(最後の1曲は、谷川のオリジナル)演奏された。
「クール・ジャズにはベースがいないとダメ」
 谷川の意見で、in-F店主の佐藤浩秋がベースで加わった。

 その前に1曲、谷川のオリジナルを。"カシミール"ってタイトルだったかな。以前に佐藤は演奏したことあるそう。
 しかしそのときとタイトルが違う、弾いたことあるのに忘れてた、いやそれは今日渡された譜面が3ページ目のみだったからだ、と演奏前にわいわいMCが盛り上がる。

 鍵盤楽器二台とバイオリンのみのためか、ビート感は希薄。谷川のピアノはきっちりと刻むが、揺れるよりも広がる感触だった。
 アコーディオン・ソロのとき、太田がタールを持ち出したのはここだったか。
 静かな打音が、ゆらゆらと空気を震わせた。雄大で優美な曲だった。

 いよいよベースも加わって、クール・ジャズ3連発。谷川以外はリハを数度やった程度。太田は初見状態。MCの間も、真剣に譜面を見つめてた。
「イントロが無いジャズですから、いきなりテーマです。このくらいのテンポで」
 谷川はにこやかに喋り、テンポを決める。かなり早いらしく、苦笑しながら他のメンバーは譜面を見つめた。

 ランニング・ベースに支えられ、他の3人はユニゾンでテーマ。正直、とっ散らかるとこもあったが、すぐに誰もが立て直す。ピアノがしっかりしてたせいもある。
 ベースの佐藤は厳しい視線を譜面に投げつつ、屈みこむように楽器をあやつる。ソロは控えていたが、がっちりとランニングでノリをキープした。安定感ある低音で、ぐいぐいあおる。

 アコーディオンの佐藤はときおり落っこちかけ、苦笑しながら弾きまくる。ときどき帳尻あわせに最後の音だけ、びしっとあわせて決めポーズをとったときは観客も爆笑だった。
 百面相のように表情を変えて弾く。アドリブはフレーズに発展性が物足りない。手癖で行っちゃった気がする。

 太田がすさまじかった。テーマのときは危なっかしいが、アドリブのとたん、音も姿勢も堂々たるもの。クール・ジャズを意識しつつ、旋律感溢れる演奏だった。
 
 にこやかにピアノを弾く谷川。やはり自由度では彼がいちばん。余裕あるぶん、音につやを出せる。カウンターのフレーズや和音連打など、華やかに盛り上げた。
 クール・ジャズはほとんど聴いたことないが、こういうアレンジだと心地よさが良く分かった。

 一曲やるたびに互いを紹介して、褒めちぎりあう。
 二曲目のクール・ジャズは手書き譜面らしく、見づらいと太田がぼやいた。
「あと、フラット4つってのも何とかして欲しいです・・・」

 なお、クールジャズ三連発の最後は、谷川の曲。太田は譜面を見て、
「シャープ4つってのも何とかして欲しいです・・・」
 ちなみにソロがまわると、太田はここでスキャットに切り替え強引に盛り上げた。ジャズからはみ出す、ハナモゲラなフレーズも楽しい。
 
 印象がどれでも同じだから、と谷川が曲によってソロの順番を変えた。
 どれもコーダ前に4バーズ・チェンジでまわす。互いに半拍前食いでせめぎあい、アドリブをばら撒きあった。
 谷川の曲は8符音符が転げて続くクール・ジャズに、ときおり違う譜割や裏が入る凝った旋律。
 「難しい曲だなあ」と太田は呟くが、演奏は軽々と弾きまくった。

 最後に一曲、三人で演奏。その前の印象が強くて、なにも覚えてない・・・。すみません。
 谷川のオリジナルだったかな?最後は熱く盛り上がった気がする。

 拍手は止まず、そのままアンコールへ。曲はやめて、インプロに。
 「曲じゃなさそうだ」と、ベースで佐藤も参加した。
 昭和30年代をテーマに今作曲した、と言い張る谷川がモチーフを提示。ベースの二音リフがとても効果的だった。

 ベースの爪弾きを軸に、メロディオンで谷川が音を膨らます。
 太田はチャルメラをエレクトリック・バイオリンで表現し、観客から大笑いが飛んだ。
 ホーメイで豆腐売りの口上を、さらにメガホンで"巨人大鵬玉子焼き"や力道山にからんだコメントを語る。
 フリーで暖かい即興だった。
 ラストはピアノが音を長く伸ばし、静かにデクレッシェンド。
 ベースがぼんっと一音、はじく。緊張を漂わせ、ラストは素早くミュートした。

 アンサンブルはがっちりハマるので、むしろスリリングな要素が欲しい。それがリハ無しの初見大会なのかもしれないが。
 柔軟性あるミュージシャンが揃い、むしろ展開が読めない。どんな要素も吸収してしまいそう。何か違和感や異物感覚を持ち続けることも欲しい。
 とにかく寛いで聴けた、面白いライブだった。

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