LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/5/24 大泉学園 In-F
出演:小森+早川+太田
(小森慶子:b-cl,cl,ss、早川岳晴:b、太田恵資:vln,per)
In-F企画のセッション。三人の共演は初めてだそう。
店へ入ると、すでに準備万端だった。小森慶子は譜面を持って構成を思案中のようす。太田恵資は立つ場所の足元に、ずらりエフェクターを並べた。
早川岳晴はウッド・ベースをアンプへ通したのみ。太田がエレキ・バイオリンを準備するも、基本はアコースティック・セットだった。
進行は小森がつとめる。「早川と曲を持ち寄った」と言うが、ほとんどが小森の選曲ではなかろうか。ミンガスは早川の提案かな?
太田はハンド・パーカッションにエレキとアコースティックバイオリン、全ての用意を整える。どんな展開になっても自由に演奏へ臨める態勢だった。
蓋を開けるとほぼ、アコースティック・バイオリンを使用。エレキはごくわずかのみ。ボイスやメガホンはまったく使わなかった。
演奏冒頭では探りあいの趣も。ライブが進むにつれて、みるみる音楽に艶が出た。
<セットリスト>
1.ファンタフラッシュ(?)
2.パストラル
3.バリタコ
4.(ルイ・スクラヴィスの曲)
(休憩)
5.(アンソニー・ブランクストンの曲)
6.ランド(?)〜ガヨ(?)
7.タンゴ
8.SELF-PORTRAIT
IN THREE COLORS
一曲目はクレツマー系の曲だそう。テーマは複雑なアンサンブルをかなり長めに決める。譜面きっちりな風合いで始まった。
アップテンポでめまぐるしかったが、サウンドの感触はこのトリオに似合ってる。
太田のバイオリンがアラブ系からヨーロッパまで自在に行き来し、小森のバスクラは冒頭から勇ましく低音をばらまいた。
バスクラでぐっと低い音を唸るように吹きグルーヴを出す、彼女の得意技がいきなり披露された。
ヒールでときおりリズムをしっかり取り、腿を高々と上げて身をそらしながら吹いた。
ソロ回しも彼女のサインが基本で進む。
テーマは探るような雰囲気の太田だったが、アドリブのとたん、にこやかに音がこぼれる。
逆にバッキングでは戸惑い顔。エレキにもちかえてピッキングしたり、ハンド・パーカッションをもってみたり。だけどすぐに楽器を置いてしまう。
最後に掴むのは、アコースティック・バイオリンだった。
そして早川もそっけない雰囲気だった。指は弦を素早く押さえ踊り、後半ではアルコで低音を渋くうならす。
しかし表情は硬く譜面を眺め、ストイックな表情でベースを操った。互いの出方を探るような空気をかすかに感じた。
自作曲"パストラル"は5年ほど前に書いたそう。3拍子の優雅で美しい曲。
小森はクラリネットに持ち替え、ふんだんに流麗なメロディをふるまった。
滑らかな旋律が早川の溢れる低音フレーズに乗って、長尺で続く。途中からアドリブだろうか。ベースとのコンビでかもしだす色合いが心地よかった。
和音の感覚が耳を優しくくすぐった。バイオリンが加わってのハーモニーも素敵。これ、また聴いてみたい。
HAYAKAWAのレパートリー、"バリタコ"はドラムのリフが無しで聴くと、なんか違和感ある。
でも、リズム楽器無しで室内楽なアレンジも、別の味わいで良かった。ベースのソロから始まり、早川がこの辺からぐっと前のめりになる。自作曲だけに自由に動けるのか。
太田のアドリブもユニークだった。アドリブからテーマへ戻って、じっくりとメロディをフェイクさせる。小森と即興をからませあった。
前半のクライマックスはルイ・スクラヴィスの曲。フランス語のタイトルを、覚え切れず。11/8拍子が含まれる、変拍子構成のよう。
「・・・やる前に練習していい?」
と、早川が呟く。採譜は小森。ほかの二人は初見で臨むそう。太田も変拍子リフの譜割を確認してた。
演奏が始まると、テンションがきゅうっと上がった。
小森のクラリネットが芯となり、旋律をめまぐるしく繰りだす。
この日はずっと腰掛けて吹いた。足をぐっと上げ、身体を曲げて小森は楽器を奏でる。目線はきりっとしてるが、小森は終始楽しそうに演奏していた。
複雑な展開だけあり、ところどころメロメロ。真剣に全員が譜面を見た。
そのぶんアドリブではだれもが肩の力をゆるめ、フレーズを炸裂させた。太田はアドリブ後半で、変拍子リフをきっちり織り込む。
早川のウッドも激しく動き、音域いっぱいを使って、アグレッシブに叩きこんだ。
指弾きが基本で、バッキングでも同じメロディをまずやらない。
ソロ奏者を踏まえたうえで、奔放かつ的確なベースを弾いた。ソロこそ小森や太田が取る場面が多い。とはいえフレーズの多彩さでは聴きどころ満載だった。
コーダではタイミング合わず、ばらばらっとランダムに終ってしまう。
早川がベースをぶん、と唸らせてエンディングをまとめた。
後半はアンソニー・ブランクストンの曲。先月、in-Fで翠川敬基とデュオのときと同じ曲か。数字が並んで、曲名覚え切れず。
前半テーマはメカニカルで硬質な響き。ところが即興部分では、とたんに親しみやすい空気へ切り替わる。
小森がソプラノ・サックスでアドリブのとき、早川が自由なベースのフレーズで支えた。
エレクトリック・バイオリンを構えた太田は、静かにサンプリング・ループを構築。
低音の聴いたフレーズを元に、アコースティック・バイオリンを朗々と弾いた。
今夜のクライマックスがここから一気に続く。
ぼくのベストは次の、小森の作品2曲メドレーのとこ。この構成も翠川とのデュオで披露した曲だ。
最初はウッドベースの無伴奏ソロ。アルコで早川はじっくりと即興を紡いだ。やがてテーマのリフが顔をのぞかせる。
バスクラがかぶさり、ユニゾンでテーマを形作った。太田は真剣な面持ちで楽譜を眺めた。
ここでのバイオリン・ソロが最高。クラシカルで豊かなメロディが、果てしなく溢れる。穏やかでとろけるアドリブが、ふくよかに空気を震わせた。
バイオリンが落ち着いた低音テーマと見事に調和し、素晴らしいひとときを産んだ。
続く曲へのブリッジは、早川の無伴奏ソロが再び。クラリネットに持ち代えた小森は、大田と掛け合いながらアドリブを展開する。
早川は頬杖をつき、二人の音楽対話を眺めた。
早川の曲"タンゴ"では、ベースを切っ掛けにイントロへ入る。低音フレーズで太田がメカニカルなアプローチのアドリブをぶつけた。
面白がる顔を一瞬だけ見せる。ベースの即興フレーズも、するりと太田のムードへあわせた。
アドリブのバッキングでもベースが止まらない。覆い被さるようにウッドベースを抱え、ときおり前へ泳いだ楽器を、ぐいと引寄せる。
メロディ豊かなこの曲を、ベース一本で様々な観点から奏でた。
ベースをがっちり掴み、フレーズを溢れさす。太田や小森のアドリブも温かく、密度の濃い演奏だった。これもいい演奏だった。
エンディングでひときわ小さな音で演奏したのは、ここだったか。
太田は弦を削るように弓を弾き、無音のフレーズで反応。消え入るように、ゆっくりフェイドアウトして曲が終った。
最後はミンガスの曲。たぶん"SELF-PORTRAIT IN THREE
COLORS"だと思う。曲名を小森が告げたが、覚え切れなくって。
エレクトリック・バイオリンに太田は持ち替えた。この演奏もばっちり。
ボリュームもテンションも上げず、肩の力を抜いて寛いだムード。
僅かにエフェクターをかましたバイオリンが、切なく響いた。今夜のテンションをそっとぬぐうかのよう。叙情的に、しっとりと幕を下ろした。
アンコールの拍手をマスター率先でせがむが、曲が無いそう。
「ミンガスで静かに終わりましょう」
という太田の意見を尊重し、ライブが終った。
もっとも始まる時間がちょっと遅かったため、終ったのは11時半を余裕で回る。2時間たっぷりとって音楽を味わえた。
セッションの面持ちからライブが始まり、セカンド・セットではぐんと3人の距離が縮まり、アンサンブルに味わいが増した。あえて小森はクラリネット中心に吹いてくれたのが嬉しかった。彼女のバスクラが出す、深い低音の響きが好き。
今回はベテラン二人に気を使った格好だが、選曲はかなり小森の色が出ていたと思う。
自分のバンドを持たぬ小森だが、ぜひこの顔ぶれでさらに深めて欲しい。さらに自由に広がるのでは。太田と早川の組み合わせも、まだまだ奥が深い。
小森HPの掲示板では2回目も示唆された。ぜひ。