LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/5/20  渋谷 Uplink Factory

  〜FORESTATION〜
出演:Merzbow
 (秋田昌美:powerbook,synth A,junk,etc.)

 イベント出演のワンマンライブ。「ロングプレイ」とクレジットが、どんなものかと聴きにいった。菜食生活に関する対談があるかと想像してたが、ライブ以外は何もなし。80分一本勝負のハーシュ・ノイズだった。

 Uplink Factoryによれば、本イベントは松田創の主宰らしい。以下、告知を引用する。

『「明鏡止水」名義での作家活動で知られる松田創が中心となり発足したプロジェクト『CSP』(Creator's Social Possibility)主催によるイベント『FORESTATION』の第2弾。今回は秋田昌美氏をゲストに招いての開催。』

 ところが松田創も、他の誰もステージへ顔を見せない。観客として、もしくは撮影者としてイベントに参加したのか。
 純粋にメルツバウのノイズ・ライブのみで、イベントは演出された。
 ライブ終わったら帰ったが・・・もしかして、そのあとに何かあったのも知れない。

 ステージのスペースには大きな机。そこへいつものMacのノート2台にミキサー。
 さらに今回は、Synth Aや足元にペダルやエフェクターも。以前見たときより、機材が増えていた。
 BGMは海の音だろうか。自然音のような電子音のような音が、静かに流れていた。
 客席は椅子がずらっと並ぶ。約60人くらい入ったのかな。満員の盛況だった。

 開演時間を10分ほど押して、客電が落ちる。ステージ横の扉から秋田昌美が登場。かばんとペットボトルを持って。
 椅子に腰掛け、ぐいっと前へ引く。カーペットをはさみこんで動きが止まってしまうが、かまわない様子だった。
 
無表情にマウスを動かす。じわじわとノイズが立ち上がった。

 最初は2台のノートを交互に操作してのエレクトロ・ノイズ。音成分が次第に増え、音量も上がる。ループさせながら音飾を変えるが、リズミカルさは控えめ。時折ハーシュの嵐が立ち上がる。
 これが30分くらい。途中、うとうとしながら聴いていた。

 ライブハウスじゃないためか、音は轟音ながらも凶悪さは控えめ。低域もあまり出ておらず、高音から低音まで満遍なく音が広がった。
 ときおりミキサーをいじり、音色を変える。さらにクリックで、前面に出すノイズを変えた。
 
 今回も曲を演奏してたのかはわからない。冒頭の場面は、John Wieseとのコラボで発表した"Multiplication"からか。
 ただし珍しく、手元に数枚の紙を準備する。演奏途中に何度か見ながら、Macをいじった。段取りでも書かれていたのか。

 これまで幾度もメルツバウのライブを見たが、基本的にデジタル化したノイズのみ。ところが今回は、ここからが違った。
 つと立ち上がり、Synth Aへ手を伸ばす。小さなピンを差し替えたり、つまみをねじったり。アナログ・シンセっぽい太い電子音が轟いた。

 とはいえメロディ感は皆無。あくまでハーシュ・ノイズを志向する。
 びょこびょこと強い電子の泣き声をループさせ、室内に響かせた。
  いくつものノイズ成分を立ち上らせる多重構造を基本にしつつ、場面ごとに表情を変える。あるときはほかの音を絞り、シンプルなループだけを強調もした。

 ミキサーだけでなく、シンセの音もMacへ取り込み、波形操作できるセットだったのかも。
 響く音は秋田がマウスを動かすと、微妙に音色が変わった気がする。

 やがて手元で秋田はなにやらいじりだした。よく見えず、伸び上がって覗き込む。
 どうやらメタル・ジャンクらしい。鉄板の欠片にさまざまなバネをくっつけ、いじっているようだ。ピックアップがついており、増幅できるみたい。
 かがんでエフェクターをいじり、ペダルを踏みながら秋田はひときわ太いバネをはじいた。

 アナログ・ノイズのハーシュが響き渡る。このノイズを出すところ、生で見るのは初めて。嬉しかった。
 
 秋田は演奏姿そのものをパフォーマンスにする意識は希薄のようだ。Macの操作は、客席をまったく意識せずに淡々とクリックする。
 それはアナログ・ノイズでも同じ。ギターっぽくメタル・ジャンクを激しく操作もできたはずだが、アピールしようという雰囲気すら薄かった。

 たまに立ち上がって演奏することで、ジャンクが見える。しかしそれは見せるためではない。Synth Aやミキサーをいじるついで、だった。自己陶酔してノイズに溺れるわけもなく、ストイックにハーシュ・ノイズをばら撒いた。

 とはいえかなり今日は、構成を意識していたと思う。垂れ流しノイズに陥らず、場面ごとに操作する機材を変えた。
 あふれるノイズの表情も、そのたびに切り替える。

 メタル・ジャンクは操作がうまくいかぬのか。足元に放り出して、別の機材へ移るときもしばしば。
 ひとつづつ接触を確かめるようにエフェクターやミキサーを操作した。ジャンクはシールドをつなぐ場所も2箇所あるようで、途中から真ん中につないで、金属の箱でバネをこすった。

 とにかくアナログ・ハーシュの響きが心地よい。ぶわっと太いノイズが耳へ炸裂した。
 
終わりそうな雰囲気を醸し出しては、さらにノイズは続く。
 慎重に機材を操作する秋田。 ついにメタル・ジャンクを足元へ投げ出す。右足でペダルを踏み、左足で軽く踏みつけた。
 ただしそれは長く続かない。あれは意図した操作じゃないのかな?

 アナログ・ノイズの間も、デジタル・ノイズが平行して溢れる。周辺をデジタルが埋め、中央突破で太いざらざらしたノイズが貫いた。

 MacからSynth Aへ、メタル・ジャンクからまた別のノイズへ。
 一つ一つを聞かせながら、規則性を見せずに機材を変える。
 うっすらと物語性が影を見せた。つばを飲み込み、たまに長髪をかき上げて。秋田は視線鋭く、手元を見つめてノイズと対峙する。

 ついに終焉を迎える。 
 秋田はつぎつぎ機材をとめて、甲高い一本の電子ノイズに絞った。
 ミキサーをいくつか操作し、音色を透き通らせる。 メタル・ジャンクは足元に放置された。

 しばしの轟き。純粋ノイズが高く響く。 それも音を絞った。

 Macのふたを閉じ、静寂へ。
 軽く一礼する秋田。
拍手の中、無表情に立ち上がり、ステージを去った。

 メルツバウは今後、デジタルとアナログのハイブリッドに進むのか。
 完全コントロールされた波形操作に方向性を移し、さらにリズミックなビートの追求。そしてここ数年ではヴィーガンを踏まえ、精神性の比重を高めたストイックな作品が続いていたと思う。

 不規則なアナログ・ハーシュに惹かれたのがきっかけだから、アナログへの帰還は素直に喜びたい。
 さらにデジタルとの混交で、新たな地平を覗かせた。
 今回のライブが単発的な機材なのか、今後の方向性なのかはわからない。 なんにせよ、貴重なひとときだった。

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