LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2005/5/14   下北沢 Lady Jane

  〜サイレント映画ライブ:“硬派ドタバタ決戦”
出演:太田恵資+黒田京子
 (太田恵資:vln,etc.、黒田京子:p,etc.)

 喜劇映画研究会の企画で即興デュオ。米サイレント映画に音楽をつける試みだ。太田恵資はそうとう長く、同種のイベントへからんでいるようす。
 スクリーンはトイレ側のスペースに吊るされた。太田はアコースティックとエレクトリック、両方のバイオリンを持ち込む。そのほか小物もぎっしり。
 黒田京子もアップライト・ピアノの横へ小物をずらり並べ、ピアノの横にもパーカッションを置いていた。
 
 この日は前の席で鑑賞できた。ところが目がすさまじく疲れた・・・。スクリーンと奏者をしばしば交互に眺めるため、目の焦点を頻繁に変えてたせいか。いっそ後ろの席のほうが、のんびり楽しめたかも。
 かといってかぶりつきの席も棄てがたい・・・難しい。

 まずはチャップリン"ライムライト"の演奏シーンと、キートンの作品を喜劇映画研究会が編集したフィルムで幕を開けた。
 映像はとにかく大掛かりなキートンの仕掛けに唖然とする。ギャグもさることながら、スタントも使わぬアクションシーンに圧倒された。

 当時は背景合成の技術くらいあったにせよ、CGなんてもちろんなかろう。
 すると滝つぼやビルの上でのアクション(というかギャグ)は、かなり危険が伴ったのでは。身軽さや基礎体力も含め、すさまじい体力を伺わせた。すごい。

 太田は"ライムライト"のバイオリンをコピーしたことあるそう。MCでさわりを聞かせてくれた。
「映像に合わせることも出来ますが・・・むしろ合わないほうが面白いかな、って思いまして」
 と、まったくの即興アプローチを聴かす。
 恥ずかしながら"ライムライト"をきちんと知らず。完全シンクロでの演奏も見てみたかった気がする。

 最初はエレクトリック・バイオリンを使用。リバーブを深くし、するするとメロディを奏でた。
 柔らかなタッチで、黒田がピアノを弾く。映像の世界を素材に膨らませた。
 冒頭はふたりとも映像を見ずに弾いてた。だんだん映像を見ながらの演奏となり、映画との距離が縮まる。

 どっちかというと映像に目が行ってしまい、音楽は細かいところ忘れちゃった。いかんな。
 映像も音楽もどちらも並存させるスタンスのイベントだが、なかなか注意力を両方に保てなかった。

 太田がワニのオモチャを使った即興はここだっけ?水中を映したシーンだった気がする。
 尻尾をねじる位置で音程が変わる。画面を見ながら無造作にあちこちを捻り、ピアノと見事にリンクさせるアドリブを弾ききった。さりげない仕草だが、見過ごせぬテクニシャンぶりだった。

 続いてモロッコのハーレムをテーマにした、アメリカのスラップスティック・コメディ。
 太田は幾度もこの映画に合わせて音楽をつけたそうで、「もう飽きましたが・・・」とぼやいて、観客を笑わせる。

 ちなみにライブ前のBGMは、黒田京子トリオだった。
 スタッフがMCで「さっきのCDで、ずいぶん太田さんの技が出尽くしてますが・・・」と紹介。なんのことかな、と思ったら。

 冒頭の中近東フレーズで、太田がいきなりアラブ風に唸る。何の気なしに聴いてた。ところが太田がぼやく。
「・・・最初にやったときは、ここで大爆笑を貰いました」
 なるほどね。彼のライブを幾度も聴くと、こういう技を素直に受け止めちゃうからな。

 なお太田は目を覆うプロジェクターをモニターにした。ぶっといサングラスをかけてるような絵柄だった。
 黒田も事前に映画を見ているようだ。即興の進行によどみがない。
 丁寧な準備が多彩な即興に繋がってて良い。前回のイベント進行に違和感覚えただけに、嬉しかった。

 冒頭部分はタールを軽く打ち、楽器はアコースティック・バイオリンを中心とした即興。
 あえて太田は音楽を、画面とリンクさせない。奔放にインプロを膨らます。
 一度、喋りのほうに行きかけて、「いかん、弁士になってしまった」と、さりげなく音楽へ軸足を戻した。

 この映画もアクションが派手。Ω型のドア形状に添って、くるりと一回転する走りのシーンでは、観客から驚きの声が小さく上がる。
 ストーリーは他愛ないが、個々のシーンが凝っていた。
 主役の身体さばきもパワフル。さりげないボケのシーンでも、そうとう筋力いりそう。

 黒田はジャズを下敷きにした演奏で、アラブ色を強調しない。丁寧に鍵盤を押さえ、ふくよかに音を響かせた。
 どこまで意識してるか分からないが、ときおり映像と音がぴたりと合うシーンが心地よかった。
 譜面台に紙を置いて演奏する。映画の進行メモが書かれてたみたい。もっともそれに縛られない。太田の奔放なアドリブを聴きながら、アンサンブルを組み立てた。

 休憩時間のBGMはエノケンだった。後半は、映像とは別に一曲披露することに。
 譜面物だ。"You don't know what it mean"ってタイトルだったかな。スタンダードだと思う。
 落ち着いたジャズをしみじみ演奏。快演だった。

 太田がアコースティック・バイオリンでジャズどっぷりなメロディをしみじみ展開。黒田はしっかり音世界を受け止め、暖かな風景を作った。
 古き良きアメリカン・ジャズな世界が目の前に浮かんだ。

 弓弾きを基本にしつつ、ピアノへ主導権をまかすときは、ピチカートでそっと刻む。
 自らのソロでは嗄れ声でスキャットをぞんぶんに聴かせた。
 黒田も負けじとスムーズなフレーズでアドリブをたっぷり。最後にカズーを吹いたのはここだっけ?
 エンディングはふたりで優雅に決めた。

 最後はちびっこギャングの機関車ギャグ中心のコメディ。
 動力に犬を使うギャグが面白かった。
 今夜上映されたのはどれも、どういう映画か知識がない。詳しく書けません。ごめんなさい。

 演奏から映像までスムーズな切り替えを太田は期待してたようすだが、あんがい映画の上映に間が空いてしまう。
 ずいぶん機械の立ち上げに時間かかるもんなんだな。
 たまたま"The End"の文字がちらりと映され、「もう終りかい!」と奏者がつっこみを入れた。

 この時点でそうとう目がチカチカしてたので、なるべく奏者を見ようと思ってたが・・・映像も見ちゃう。どおしても。
 映像監督は黒田。「即興だから関係ないですよ」と言ってたが、即興の進行を黒田がひっぱり、しっかりした構成となった。

 事前に映像を見ていたようで、機関車の車輪が回るシーンでは低音鍵盤をアルペジオのように弾く。逆走すると音列も逆にして。細かな演出だが、効果的だった。
 木笛で汽笛を表現し、ハーモニカや子供のオモチャなども使用。かなり黒田はSEにも凝っていた。小さなジャンベを叩いてたのは、前半の映像だったかな。

 出発の霧笛(でいいの?)が鳴るシーンでは、金筒にスティックをつっこみ、ガラガラ鳴らす。
 きれいな響きとタイミングに、太田が感心した目で眺めた。
 なお、この筒は荒物屋で"もっともきれいに鳴るヤツ"を、黒田が選び抜いて買ったとか。

 デュオの基調はヴォードヴィルをイメージする、のどかな雰囲気。
 妙に前衛へ傾かず、映像に融ける音世界を選んだ。穏やかさに和めた。
 エンディングは映像があまりに唐突だったが、演奏はそのままやめない。
 しばらく即興デュオを聴かせ、鮮やかに着地した。

 前半は50分弱。後半も40分くらい。イベントとしては短め。しかし充実して良いイベントだった。
 映像の伴奏として成立しつつ、即興性は維持して音楽ももちろん楽しめる。
 今度はもうちょっと体調万全にして行くかな。また見てみたい。

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