LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2005/5/12   入谷 なってるハウス

出演:渋さチビーズ
(出演:不破大輔:b、小森慶子:ss,as,b-cl,etc、立花秀輝:as、岡村太:ds、倉持整:ds)

 なぜかドラマー二人なチビーズ編成。倉持整の名前は直前に告知されたが、突発的に編成が変わったのかな。観客はぎっしりあつまった。

 下手の定位置に岡村太が座り、倉持は上手のピアノ奥へ。どちらもシンプルなセットだった。
 不破大輔はウッドベースをまず構えた。高音部をランダムにはじく。小森慶子がカリンバを掲げ、かすかに鳴らした。

 やがて加わるドラム。ソプラノ・サックスへ持ちかえた小森が、即興をはじめた。
 立花秀輝はフリーク・トーンで参入した。舌の上にリードを載せる変則奏法で、ばちばちとタンギングを強調する。

<セットリスト>
1.即興("行方知れズ?")
(休憩)
2.股旅〜犬姫〜ナーダム
3.仙頭

 1stセットはずっとインプロ。小森が中盤、バスクラで"行方知れズ"の後半テーマの、変奏っぽいフレーズを提示した気がした。実際は何も決めず、自由にやっていると思う。

 とにかく今日は小森が冴え渡った。
 まずは冒頭のソプラノ・ソロ。延々吹き続け、果てしなくフレーズが溢れる。指癖ではない。メロディ展開やアドリブ構成をきっちり意識していそう。
 豪快にサックスを軋ませるフレーズも織り込んですら、曲を吹いてるかのよう。ドラマティックに旋律を組み立てた。

 続く立花のソロ。ここでは秀逸だった。ブルージーにサックスを歪ませ、ぐいぐい押す。旋律はあえて意識せず、勢いでインプロを展開させた。
 フリーク・トーンを多用するイメージあったが、このソロはもっと太い音。抜群にかっこよかった。

 不破は同じ音を執拗に繰り返し、視線鋭く管楽器をあおる。ときおり入れるカウンターが強靭で、高速フレーズもたくみに織り込んだ。
 岡地と倉持の奏法も対照的。ブラシやスティックを頻繁に変える岡地は、ぎろぎろ視線を動かす。アンサンブルの行方を見ながら、リズム・パターンをかえる。
 一方の倉持は目を閉じて耳を澄ませ、漂うサウンドの空気を元にリズムへ反映させた。スティックを中心に使い、豪放なドラミング。

 2ドラムでテンポは同一。ポリリズムにはならないが、ばらばらなパターンとユニゾンを行き来する、リズムの濃密さは聴き応えあり。
 立花のソロは小森のバスクラ・ソロへ受け継がれた。

 バスクラの勢いもばっちり。力任せにリードを軋ませず、丁寧なフレーズ展開で長尺ソロを弛緩させずに吹ききる。さすがのアドリブだった。
 低音を単音で繰り返し、ファンキーにあおる瞬間も登場。あのリズム感がグルーヴィーで好きなんだ。

 管のアドリブがひとしきり盛り上がる。不破がドラマー二人を指差した。 
 いきなり打音が強くなる。なってるに、2ドラムが轟いた。立花は店外にまで避難する。
 同時フィルからソロの交換へ。めちゃめちゃしぶといビートが、耳をつんざいた。

 ウッドベースのソロ。高速フレーズもたっぷり織り込んだ。
 ところがドラム・デュオで耳鳴りして、いまいち聴こえづらい・・・。かなり強力なベース・ソロだっただけに悔しい。
 小森がソプラノを持ってオブリを入れる。

 ドラムもベースも手を休め、サックス二人のデュオへ。
 フリーク・トーンを二人が使い、向かい合って喋りあうかのよう。
 コミカルな中で、フレーズが多彩で面白かった。

「解説します。『わたしのツバメにならない?』『いやだよ』『どうして?』と言っています」
 不破の適当なアテレコに、小森が噴出し中断してしまう。
 気を取り直し、アルト・サックスでアドリブを再開した。

 再び全員のアンサンブルへ。一時間弱、ノンストップだった。
 最後はあっというまに終わってしまい、岡地がドラムを軽く一打ち、締めたと思う。

 一転して後半はロマンティックな、渋さのレパートリーを並べたメドレー形式。
 立花が客電を落とす。照明役をやりたくて堪らない模様で、目をキラキラさせてメンバーが演奏始めるのを待つ。あまりに無邪気なさまが可笑しかった。

 ソプラノでアドリブを取った小森は、かなりの長尺ソロを決める。
 溢れるフレーズが止まらない。がっちりとアンサンブルを支え、豊かな旋律で音楽を膨らませた。
 マウスピースを直接ボディに入れたり、ネックについたマウスピースを上下逆に咥えたり。立花がおかずをのせた。

 小森はやがて"股旅"の変奏に切り替える。
 ひとしきり盛り上がったところで、後ろ足のカウント。
 ところが立花が入りそびれ、小森一人のテーマになってしまう。
 「しょーがないなー」って表情の小森。もいちどアドリブで仕切りなおした。

 後半セットも基本はフロント二人がソロを順番に。
 前半では小森のソロへも積極的に絡んだ立花だが、後半ではあまり吹かない。それぞれの個性を生かす形となった。
 混沌としたアンサンブルから、次の曲が浮かぶ。
 ベースのフレーズに惹かれたか、小森がサックスで誘導したか・・・するりと曲は、"犬姫"に代わってた。

 アドリブごとに小森は楽器を持ちかえる。
 とことん吹きまくってたとき、そっと立花が手を伸ばして小森のピアニカを掴む。
 マイクに向かって吹いてたが、ぼくの座ってた位置では、何も聴こえずじまい。残念。

 "犬姫"のコーダを決めても、不破は演奏をやめない。メドレー形式で"ナーダム"に繋いだ。
 2ドラムの迫力にエレベだけで、ボトムの厚みはたっぷり。
 小編成とは思えぬ音量と勢いだった。ドラムがそろってリフを連打し、サックス二本が綺麗にユニゾンでメロディを展開。
 立花はさっとマウスピースを捻って、ピッチを合わせた。

 一気に小森のサックス・ソロへ雪崩れた。
 ここではアップテンポの勢いのまま、アドリブが駆け抜ける。
 
 立花のソロでは一気に音数減らし、ドラム二人も静かに刻んだ。
 後半セットはエレベに持ちかえた不破が、睨みつけるように立花を見る。
 フリーク・トーンでアルトを軋ませるが、いまひとつ前へ出てこない。
 苛立つようなチョッパーで、執拗に不破は同一音を弾いてあおった。

 ボリューム下げたピックアップあたりのリフ、そして弦の根元を親指で叩く、鬼の単音チョッパーをボリューム上げて。
 二つを交互に提示し、立花のソロを盛り立てる。
 やがて立花もテンション上がり、ドラムも勢い良く疾走した。靴も靴下も次々脱ぎ、裸足でサックスを吹いた。

 小森は床へ腰掛け、カリンバをいじる。ところが音が小さい。
 横に置いたパンダのオモチャを握り締める。音が出るらしいが、さっぱり聴こえず。バンドの音が大きいからなあ。
 ときおり耳にあてて確かめるが、2ドラムにベース、さらに立花が吹きまくってる最中だから、ボリュームが負けていた。

 ぎゅーぎゅー人形を絞ってたが、諦めてピアニカへ。こっちも最初は音量負けで聴こえませんでしたが・・・。
 立花のソロがまとまると、いったんアンサンブルがボリューム下がり、やっとピアニカが聴こえた。

 サックスへ持ちかえた小森が、即興を展開する。
 やがてテーマへ戻った。ところが立花がたまたまサックスを置いていたか、吹きそびれ。「やべっ」と呟き、あわててサックスを構えなおした。

 不破のエレベ・ソロも所々で聴ける。颯爽と指が駆け抜け、低音を刻み込んだ。
 ドラム二人は汗だく。ずっとハイテンポでたたき続け。
 ときおり汗をぬぐいながら、休まずに二人はテンションを保った。
 後半も技の岡村に力の倉持(こう書くと仮面ライダーみたいだな)って役割分担だった。
 
 ついにテーマへ。後半もやっぱり一時間くらい。怒涛でお腹いっぱい。
 拍手が大きく響き、メンバー紹介へ。
 「ワンワンワンワン!」
 いつもの不破のカウントで"仙頭"を演奏した。
 サックス二本は小森は旋律を比較的きっちり吹くが、立花は変奏しまくり。
 フロントはぴょこぴょこ飛び跳ね、ドラムは汗みどろで叩きのめす。がっつりエンディングを締めた。

 2ドラム編成は音量がすごい分、アンサンブルの勢いが締まる。
 テンション一辺倒ではなく、ブラシやマレットでの静かな展開ももちろんあるため、強引さはない。
 むしろ2ドラムの微妙なリズムの絡みがサウンドに膨らみを出した。

 個々のソロはじっくり楽しめる。フロントが少ない分、存分に長尺できる。リズム隊の厚みもばっちり。2ドラムはトリッキーだが、聴き応えある的確な編成アイディアかも。
 熱気たんまり、こってりみっちりなライブだった。

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