LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/5/7 吉祥寺 Manda-la 2
出演;渋さ知らズ劇場
(不破大輔:b、片山広明:ts、小森慶子:as,ss、立花秀輝:as、辰巳光英:tp、
川口義之:as,harm、鬼頭哲:bs、中島さち子:key、スガダイロー:p、
倉持整:ds、大塚寛之:g、室舘彩:fl,vo)
20時をまわった直後、不破大輔が咥えタバコでステージに上がった。奥に腰掛けエレキベースを構える。メンバーが三々五々そろってく。
辰巳光英がマウスピース・ガードごしに、アルトのマウスピースを強く吹き、「音が出た〜」と笑った。
最後に川口義之が現れる。腰掛けるのを待たず、不破のせわしないカウント。
"股旅"の始まり。豪快なアンサンブルが店内に溢れた。
<セットリスト>
股旅〜サリー
(休憩)
ひこーき〜犬姫〜ナーダム〜仙頭
真っ先に立花秀輝が不破にうながされ、すっくと立ち上がる。勇ましくアドリブを取った。
ソロ奏者が変わると風景が一変。3リズムで静かに奏でられた。かなり長いソロ回し。
今夜はとにかくベースがアンサンブルの芯を支える。
タイトなリフでぐいぐい演奏を引っ張り、切れのいいオブリや高速フレーズをびしばし挿入。飛び切りのベースだった。
さらに片山広明がのりまくり、豪放なテナーを存分に響かせた。
カウンターメロディをひっきりなしに入れた。フリーキーにテナーを軋ます。
不破はたちまち汗を額に噴出させ、ぎょろっと睨む。ときおりソロ回しのサインを送った。
アイコンタクトが上手く行かず弛緩しかけると、すぐさま片山が吹き鳴らし、演奏を引き締める。
渋さ知らズ劇場では、片山が指揮役に回るイメージ合った。
ところが今夜は奔放に自らのテナーを吹き倒し、音楽で前へ引っ張った。
行儀良くソロの順番を待つようなスタイルは、渋さとベクトルが違うと思う。だから片山の、前のめりな姿勢が楽しかった。
川口はまずハーモニカでソロ。それぞれの指の間へ幾本も挟み、アドリブが進めるにつれ持ちかえた。次々と。
さらに鬼頭哲が立ち上がり、バリサクをがんがん吹きまくる。
不破が小森慶子へソロの合図。確かスガダイローがソロを取ってたとき。
彼女がマイク・スタンドを掴んで入るタイミングを図っていると、かまわず片山が立ち上がり、めっぽう吹きまくる。立ちそびれた小森が不破と笑いあうヒトコマも。
スガダイローから中島さち子へソロが繋がっても、まだ片山は鳴らし続けた。大塚寛之へのソロ切り替えに、多少戸惑ったのを嫌ったか。
"股旅"だけで40分ほどの長尺。最後は全員で高らかにテーマを鳴らした。
室舘彩はフルートやボーカルを入れたが、いまいちPAが弱く聴きづらいのが残念だ。
コーダが着地した瞬間、不破が続けて"サリー"のリフへ繋げた。
テーマへ行く前、すっくと立ち上がった片山がフリーなイントロをつける。いきなりの吹きっぷりに、横へ座った小森がつんつんと片山の裾を引っ張ってみせる。
太く腕を筋肉で膨らませた倉持整が、びしりと刻んだ。ちょっと溜め気味なリズムが、ベースと絡む。
大塚のギター・ソロはじっくりと。裸足でエフェクターを切り替えつつ、顔を大きく歪めて、ゆるやかなフレーズを重ねた。
ボトルネックをつけてソロを取りかけたが、タイミングが合わず弾きそびれ。
ソロが終るとべったり床へ腰掛け、弦の張り具合を探る。確かにソロではパワフルなチョーキングやアームで音を歪ませてた。
辰巳光英は場面によってミュートをつけ、マイクへ押し付けて吹いた。ストレートな生の響きとこもった鳴りを使い分ける。最初はゆっくり、次第にフレーズが加速した。
ともあれ"サリー"ではソロ回しもさることながら、とにかくエレキベースの鋭さが印象に残った。ときおり入るフレーズがめちゃめちゃいかしてた。
休憩後。メンバーがステージへ揃っても、スガダイローだけ姿を現さない。
「業務連絡です。ピアノの前についてください」
立花がふざける。面白がったメンバーが、てんでにマイクへ向かってスガダイローを呼びたてた。片山がスタンダード("枯葉"だったそう)を太い音で吹く。
現れたスガダイローがピアノであわせ、不破もベースで続いた。ひとしきりセッション。ところが、まだ不破が弾き続ける。
「・・・まだやるの?」
片山がつっこみ、不破が大笑いした。
立ち上がった片山は、朗々とロマンティックなソロを取る。ピアノをバックにしばしアドリブ。
タンバリンを静かに鳴らしてた室舘が、"ひこーき"のメロディを、たっぷり溜めながら情感込めて歌った。
テナー・サックスのオブリはさらに高まる。ホーン隊が次々加わった。大音量で轟く。
ここでは小森のアルト・サックス・ソロが秀逸だった。
1stセットでは元気ない様子の小森だが、立ち上がって伸び上がるように背をそらす。
目を閉じて、ひたむきにブルージーなアドリブを吹き続けた。
最初はピアノをバックに静かなソロ。途中でホーン隊のカウンターが賑やかに入ったが、かまわずにぐいぐいと力のこもったソロ。
そしてついに全てをねじ伏せ、自らのサックス・ソロで主導権がっちり掴む。見事に吹ききる。アドリブが終ったとき、観客から拍手が飛んだ。
鬼頭はごつっとバリサクで、メロディを膨らませた。
不破に「どうぞ」とうながされ、立花もアドリブへ。
次々にソロがつながれ、その合間でランダムに片山がテナーを吹き鳴らす。
室舘はキーを上げ、朗々と伸びやかに歌を唱えた。
川口はアルトを持ってソロに突入。足元のハーモニカを立花や辰巳が面白がって吹き始めた。川口が吹きやめて様子を伺うと、辰巳は手を振ってソロを促すのが可笑しい。
ふたりのマイクが活きてなく、ハーモニカの音は聴こえず・・・。
小森も屈んでハーモニカを手に取る。吹き始めようとした瞬間、サックスのソロが盛り上がって、吹きそびれ。残念そうな表情だった。
ソロの途中から、いつしか曲は"犬姫"に変わってる。
全員でテーマを奏で、着地した。
その瞬間、不破の合図で、"ナーダム"へ。煌々と照らされたステージに、揃ってテーマが炸裂。しみじみかっこよかった。
大塚がワウを効かせたソロを響かせた。片山はアンサンブルへ耳を傾け、隙あらばテナーで切り込む。
後ろでベースはとめどなくシャープなグルーヴを奏でた。汗まみれになりながら倉持はシンプルなリズムであおる。
じっくりとソロを回しながら、再びテーマへ。室舘がスキャットで喉を震わせた。
間を置かず、"仙頭"。大音量でテーマが疾走した。
フレーズで飛び上がる箇所では、室舘が僅かにジャンプ。ホーン隊は小森だけが、律儀に片足を上げていた。
前後半で約2時間のライブ。整然とソロを回すビッグバンド・スタイルへ行きがちだった進行を、片山がフリーの力技で攻め立てた。
混沌としたアンサンブルも渋さの魅力と思う。片山の姿勢は頼もしく聞こえた。
すさまじい顔ぶれだけに、てんでに吹き倒す混沌さを追求したライブも聴いてみたい。
終ったときは、盛大な耳鳴り。余韻に浸ってた。とにかくこってりした音楽を楽しめる快演だった。
*thanks to よしのぎんじ様