LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2005/5/4 西荻窪 アケタの店
出演:紙上理グループ
(紙上理:b、高橋知己:ts、元岡一英:p、渡辺文男:ds)
男たちのしぶといジャズだった。紙上理グループを聴くのは初めて。今日の出演者では高橋知己のソロ・アルバムを聴いて、雄大でメロディアスなサックスを吹く人だと思ってた。
紙上Gはどういうジャズかすら知らずじまい。蓋を開けたらストレートなモダン・ジャズだった。
メンバーはベテランぞろい。ネットで調べると、最年少がおそらく高橋知己の55歳。元岡一英も同い年のようだ。渡辺文男が67歳で、肝心の紙上理が分からない。風貌は70歳に手が届きそうなほどだった。
しかし、演奏は後ろ向きじゃない。ごつっと前へ出るジャズだった。
月一回、アケタでやる紙上Gだが、先月まではピアニストが吉田桂一。元岡にピアノが変わったのか、単なるトラなのかはMCがなくわからない。
アンサンブルは・・・教科書ぽく見るなら、かなりすさまじい。とにかく紙上がラッシュしまくった。
スタンダードで幕を開け、モンクやエリントンなどを演奏する。オリジナルは多分やらなかった。2ndセットの最後のほうはオリジナルかな?
ほとんどはMCで曲紹介したが、メモを取りそびれセットリストは不明です。すみません。
サウンドの雰囲気はじわっと暖かい。しょっぱなから高橋が朗々と太く滑らかな旋律をテナーが奏でる。フラジオはほとんど使わず、真っ向からメロディを提示した。
リズムが最初はかみ合わず、ちょっと戸惑った。渡辺はハイハットをわずか踏むのみ、刻みはリベットつきのライド・シンバルを使う。
スティックのタッチが弱く、常にリベットが唸り続ける。
さらに左手でつっつくようにスネアへスティックを落とし、ちょっと拍の頭とずらし気味。従って拍の頭がぼやけてしまう。
小柄な身体でもたれるようにウッドを弾く紙上は、フレーズの切れ味抜群だ。ランニングを基本に、せわしなく低音を組み立てた。
気がせくのか、盛り上がるとどんどんテンポが速くなる。曲が終る頃は、冒頭テンポの3割増しくらい。頭にカウントとっても、演奏したとたんスピードが速まるほど。とにかく意気込みが伝わってくる。
割を食ったのが元岡かも。穏やかで広々した温かいピアノを弾くが、最初はテンポをドラムに合わせたまま。渡辺も特に紙上へ合わせず、きちんとビートをキープする。
ちぐはぐなアンサンブルが気になるのか、にこやかな表情ながら頻繁に紙上を見つつ弾いていた。
渡辺もさりげなく紙上を見るシーン多数。顔をくしゃっとさせつつ、紙上はかまわずにベースを弾き続けた。
ベース・ソロのタイミングで元岡が、きちんとテンポを紙上にあわたりも。だけど、すぐさま紙上はさらにスピードアップしてしまう。
結局、どんどん音楽が駈けていった。
そんなアンサンブルの特性はあっても、演奏はすごく面白かった。
一曲目から歌心溢れる。冒頭はブラシを持った渡辺が静かにライド・シンバルを撫で、高橋のサックスが存分に吹かれた。
各セット4〜5曲程度。バラードもあったが、いつの間にかテンポが上がって熱くなる。
ソロを吹き終るたび、高橋はふらりと身体をかわす。ステージ袖の椅子に座って演奏を聴いていた。
ほぼどの曲も、サックスからピアノへソロが回り、ベース(時にはドラムも)ソロがあって、テーマへ戻る。
時には4バーズ・チェンジやチェイスも。
1stセットで高橋と渡辺の4バーズがあったが、高橋は四小節を軽々と飛び越える。フレーズが溢れれば、かまわずに六小節くらい吹き、一拍前から待ちかねたようにサックスを吹いた。
元岡は優しさを常にたたえたピアノを弾く。ボリューム抑え目だったが、サウンド全体を柔らかく支えた。
奔放なのが紙上のベース。時にアルコも織り交ぜる。アンプをかましたぶん、バランスは適切だった。
2ndセットでドラムとのチェイスが聴きもの。四小節から二小節くらいの交換になるが、テンポの奪い合いになった。
せわしないテンポで紙上がフレーズを重ねると、ゆったりめのビートでルーズに渡辺がソロを取る。頭をあいまいにしたドラミングなので、小節交換のたび、テンポがめまぐるしく変化した。
エンディングはどの曲も無造作。コーダはきちんとあるが、渡辺はリベット付きのライドをさっぱりミュートしない。
自然にふわっと、どの曲も着地した。
前後半ともに50分程度。休憩時間が40分くらいあって間が持たず困ったが、演奏が始まるとのめりこんだ。
いまさら紙上はジャズの最先端を駈けようと、思ってなさそう。しかしリラックスはしても、ノスタルジーや営業っぽい気の抜けたジャズじゃない。
あくまでジャズが好きで、まっこうから組み合う。そんな現役感がひしひし伝わるライブだった。