LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/4/26 大泉学園 in-F
出演:翠川敬基+小森慶子
(翠川敬基:vc、小森慶子:ss,cl,b-cl)
初顔合わせライブ。片山広明のレコ発で一瞬だけデュオ状態になったとき、この組み合わせでじっくりライブ聴きたいと思ってた。企画のIn-Fに感謝です。
店へ入ると、翠川敬基がいない。出かけているようだ。より新鮮なデュオをするため・・・?と推測するのはうがちすぎか。
20時をゆうにまわったころ、ライブの幕が開く。ちょっと小森慶子が店外へ出た隙に、いち早くスタンバイする翠川が面白かった。
<セットリスト>(カッコ内は作曲者)
1.It's tune.(富樫雅彦)
2.Hooveling(デイブ・ホランド)
3.ランド(?)〜ガヨ(?)(小森慶子)
4.(?)(アンソニー・ブランクストン)
(休憩)
5.カステリョ・デライト(?)(小森慶子)
6.メッセージ(翠川敬基)
7.hinde x2(翠川敬基)
8.Seul-b(翠川敬基)
9.All things flow(翠川敬基)
*thanks
to つかぽん。さま
MCは小森に任せ、悠然と翠川は構える。いつものように焼酎割りをテーブルに置いたまま。しかし演奏中にほとんど手をつけず。微妙に構えていたのかも。
「黒田京子トリオと違った、ゆったりした演奏になるかもしれません」
幾度か黒田京子トリオで演奏された、富樫雅彦の曲から。
冒頭はインプロ。MCとは裏腹に、ずいぶん張り詰めたテンションで始まった。
小森はssを使用する。ヒールでリズミカルに床を踏みながら、次々にメロディを奏でる。
翠川がノーマイクだったため、音量バランスがチェロに不利か。さらに翠川はあえてpppを多用するアプローチで、サックスの触れ幅を誘った。
サックスは滑らかな色合いで次々に旋律をまっすぐに紡ぐ。ビートを意識したサックスと、小節を自由にまたぐ完全フリーなチェロが、二本の太い糸ように絡み合った。
アラブっぽいフレーズを小森が吹いたのが意外。新鮮な曲想になった。
1stセットは小森の色合いが強い選曲となった。2曲目以降、チェロは意識的に強く弓を引く。険しい顔でアルコを動かし、翠川は時にリズミカルなフレーズでバッキングの瞬間も。そこへランダムにアドリブの応酬が織り込まれる。
ライブ全体を通して、翠川のソロがいつに無く少なかった。甘く柔らかい白玉やリフでチェロを底支えし、膨らんでゆく構図も聴いてみたい。
小森も翠川のチェロに合わせ、さまざまな対応を見せる。2曲目ではバスクラに置き換え、探るような瞬間も。チェロを生かして小音量で相対する場面もしばしば。これは2ndセットのほうに多かった。
とはいえ盛り上がると、どんどん小森の音量が上がってくるのが面白かった。しかも翠川は管が前へ出たと見たら、すっとアドリブをやめちゃう。もどかしかった。
バスクラ、クラと持ちかえるたびにチェロとの相性が良くなった。
3曲目はメドレーで演奏。前半はチェロを想定して小森が書き下ろした曲らしい。
「"ランド(?)"って曲ですからね」と小森が譜面を指差して翠川へ言うのが、幽かに聴こえる。
この曲が前半セットでは、もっともはまったサウンド・アプローチだった。
ゆったり階段状のリフをユニゾンからフリーへ崩し、自由に絡む。温かく優美な世界が仄見えた。
二人のユニゾンが、微妙にユラユラ漂う。
コーダを挟み、僅かに奏者が弛緩。その隙に拍手が幾つか飛んだ。
かまわずに翠川は、次の曲へ無伴奏で進む。力強く弓が響いた。
小森はクラに持ち替え。音が重なった時の耳ざわりが素晴らしかった。
翠川は多彩なアプローチで迫る。フラジオや低音から高音への駆け上がり、フリーキーなフレーズから滑らかなメロディまで。堅い表情を崩さぬまま、チェロをシビアに奏でた。
小森が身体をくるくる揺らして吹く。時に独特の左手使いを見せながら。音を舞わせるように、ふわりと左手を動かして吹く。あの仕草が好きなんだ。
二人はポリリズム状態で、果てしなく演奏を続けた。
「もう、終わりだっけ?」
翠川がにんまり笑い、観客の笑いを誘う。確かに緑化だったらそろそろ休憩でもおかしくない。小森は「まだありますよ〜」と譜面を指差した。
アンソニー・ブランクストンの曲。再び小森はソプラノを構える。
カウントで入った。ファンキーでかっこよかったな。不思議なことに、バップの香りがぷんぷんした。
とことんフリーキーな印象をブランクストンに対し感じてたが、きっちりダンサブルな演奏で驚いた。
テーマは変拍子かもしれないが、基本ビートが一定で、逆にフレーズのほうがビートへまとわりつく心地よさ。
思うさま小森がメロディアスに吹き鳴らす。フリーク・トーンをほとんど使わない。翠川も激しく弓を唸らせる。ぐいぐいのめりこんで聴いていた。
たっぷりアドリブを同時進行させたあと、勢いよく小森が床を踏み鳴らす。それを合図に、二人はテーマへカッ飛んだ。
後半セットは小森の曲から。メモ取らず、曲名は記憶頼り。間違ってると思います。ごめん。たしかクラリネットを吹いた。
休憩挟んで、より小森と翠川の音の親和度が増した。やわらかなダイナミズムをクラが意識し、チェロのpppとからんでゆく。
翠川は強いピチカートをはさみつつ、さらに小節線をまたぐ音使いで複雑に奏でた。
「ここからは翠川さんのソング・ブックですよ〜」
小森が譜面を繰りながら説明する。"メッセージ"は翠川の1stアルバムで藤川義明(fl)とデュオした曲。ちょうど30年前。
たまたま思いつき、譜面に起こし直したそう。初めて聴く。たぶん。
「当時はこういうメロディは好みじゃなかったけれど・・・ぼくの原点がすでに現れてる気が、今ではします」
翠川の前置きで、演奏が始まった。
硬質なメロディがセンチメンタルに融けた。アドリブでは浮遊感を持たせ、あえて中心をおかぬ音像。小森が次々にメロディを繰り出して、味わい深く聴かせる。
"hindex2"から、翠川の表情がどんどんリラックスしてくる。弾き親しんだ曲ばかりで、どんなにフリーでも着地させられる自信ゆえか。
「黒田京子トリオに書いたんだけど、"ヒンデ・ヒンデ"のほうが気に入られちゃって、演奏されないんだよねー」
翠川の呟きを前置きに、演奏が始まる。
フリーの合間で、きっちりしたメロディが挿入される。これがヒンデミットのモチーフかな。クラリネットとチェロの絡み合いが、すきっと立ち上がり心地よかった。
チェロの弓がひときわ強く鳴ったのが、確かこの曲。終盤で張り裂けんばかりに翠川はアルコを動かした。コマの部分まで弓が押し付けられ、ぎしぎし弦を軋ませる。ストイックな響きが凛然と現れた。
今夜のベスト・テイクが続く"soul-b"。冒頭からとことん、バスクラで小森は自在に動く。なかなかテーマへたどり着かない。翠川はボディをこすったり、指板の弦をはじいたり。パーカッシブにチェロを鳴らす。
指全体で力強く弦を吼えさせた。休み無くバシバシと弦を震わせる。音程も意識させないほど、猛烈なかき鳴らしだった。
小森も負けていない。チェロに主導権を任せるとき、低音のシンプルなフレーズを延々と吹き、ファンクなグルーヴであおる。
どっしりバスクラを床へ立て、翠川を見つめながらひたすら低音が溢れる。このダンサブルな凄みは、小森でないと聴けない。
ついに"Soul-b"のテーマが顔を出し、アドリブに融ける。素晴らしかった。
最後はFMTのレパートリー、"All things
flow"。黒田京子トリオでも馴染みの曲。唐突にこの日、翠川が持ち込んだそう。
実は前曲の印象があまりに強く、ぼくはどんな風にこの曲が演奏されたか、ほとんど覚えていない。ごめんなさい。小森はソプラノ・サックスを持ち、力強く吹いていたと思う。
リラックスし、ふたりの演奏を寛いで聴いていた。
初めてのセッションで、お互いの落とし所を探るような感触もほんのり受けた。実際、演奏の親和度は尻上りに増す。
もっとライブを重ねるほどに、さらに魅力が輝きそう。そんな潜在力をひしひしと漂わす。
繊細さと力強さが同居する、味わい深いライブだった。