LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/4/23  渋谷 La-mama

出演:JOHN ZORN'S COBRA東京作戦 新緑部隊
 (北陽一郎:tp、近藤達郎;key、鈴木生子;cl、坪口昌恭:p,effect、松前公高:syn、水谷浩章:b、
    やの雪:テルミン、渡辺明子:tb、渡辺亮:per、神田佳子:per、DJ peaky:ターンテーブル、
  プロンプター:巻上公一)

 今年二回目のコブラは"新緑部隊"。
 「でも、外は雨です」
 そんな巻上公一のMCで幕を開けた。

 前半は15〜20分の長尺ゲームを3セット、後半は長短取り混ぜて5〜6ゲームかな。ソロの応酬やギャグに頼らず、アンサンブル重視の聴き応えあるコブラだった。
 そのうえで愉快なシーンも多数。笑いと緊張が同居した。

 ソロが少なく、場面展開が中心。音像がはまったときのスリルが素晴らしい。
 いろんなシーンがあったが、個々のゲームの細かいところを覚えてない。前回と同じように、ミュージシャン別に書きます。立ち位置が上手から順番に。

松前公高:syn
 彼の音楽ははじめて聴いた。こじんまりしたシンセを2台持ち込む。音色だけでなく、パーカッションをアサインしてリズムのプレイも。大きく全面に出ることは少なかったが、さりげなく音楽に彩りをつけた。
 
 いつものように巻上が演奏前に腕を広げて音楽を促す。
 1stセット最初のゲームで、真っ先に鼻の2(Trade:ソロの受け渡し)で演奏を始めたのが彼だったと思う。

 だれかがゲリラをやってたとき、音楽が単調化したのを嫌ったか、ゲリラ暗殺のサインを飛ばす。速攻で看過されてたが。次の瞬間、頬杖をついて見えないようにし、さりげなく再度暗殺サインを送る。
 直後にゲリラ自身が斬首したためサインは活きなかったが、あのしたたかさぶりは愉快だった。

 自身は後半セットでゲリラとなり、ドローンを出し続けた。
 さらに、同じく後半セットでサンプリングしたスティーヴィー・ワンダーの"心の愛"の一節を、オーケストラ・ヒットのように使った。

 アンコールでは坪口昌恭と交替し、ピアノの前へ座る。DJ peakyが乱入したせいか、ほとんどピアノは聴けなかったが。

坪口昌恭:p,effect
 アコースティック・ピアノをメインに、カオスパッドも仕込んだ。
 水谷浩章や、たしか鈴木生子あたりと、もろのジャズをアコピで決めたシーンがかっこよかった。情緒的なサウンドをメインに受け持ったかな。

 サインはさほど出さず。ゲリラにも何度かなったが、周りにうながされたパターンが多かった気がする。もうちょいめだってほしい。
 後半セットのあるゲームで、DJ peakyの"髪の毛かきむしり"動態模写をしたときに、おずおずとポーズだけ真似るさまがおかしかった。

北陽一郎:tp
 手馴れたようすで、積極的にゲリラへ立候補する。トランペットの二本吹きも披露した。

 もっとも印象に残ったのは、前述の水谷や坪口らのジャズのとき。ゲリラでトランペットをフリーキーに吹きまくる。
 そのシーンはメモリー(頭の1)された。渡辺亮あたりがメモリーを呼び出したとき、すでに北はゲリラを斬首。当然、トランペットがならない。
 「あれ?トランペットは?」
 と、呟きを聴き取り、すかさずゲリラへ再立候補。メモリーにあわせてトランペットを吹くのが律儀だった。

渡辺明子:tb
 北が積極的に出てしまい、陰に隠れ気味だったかも。おっとりとコブラを楽しんでたイメージある。
 テルミンの音にあわせ、スライドをぐいっと引きながら吹いてるシーンが脳裏に残った。

神田佳子:per
 各種タムやパーカッションをずらりとつるし、もっとも大きなセットだった。奔放に叩きまくる渡辺と対照的に、上品なリズムを叩く。派手にぶちまわすシーンもむろんあり。

 サインはCartoon Trades(目の1)だったか。自分が演奏すると同時に、アイコンタクトで音を受け継ぐシーンが、後半セットに出た。あれこれ音が飛び交ったあと、水谷から神田へ受け継がれる。
 一打ちした神田はぎょろっと水谷を見つめ返し、しばし二人だけで短音の応酬。おもしろかった。

 アフリカンなビートからシンバルのロールまで、幅広いリズムパターンを提示する。彼女の演奏ははじめて聴いたが、じっくりライブを見てみたい。かなり引き出しが多そう。

水谷浩章:b
 本日の影のリーダーと言えそう。前後半ともに、ほとんどがウッドベースを使用。おのおの最後のゲームだけ、エレキベースへ持ち替える。アルコから指弾き、棒で弦を叩いたり金属棒を弦に挟んだり。多彩な奏法を繰り出す。
 ほんの少しだが、カリンバも弾いていた。

 とにかくアレンジのセンスが素晴らしい。音が混沌となったら、しばしばゲリラへ立候補。親指で奏者を止め、指先で別のミュージシャンを招いて新たな音を追加する。
 自らの演奏有無にこだわらず、あくまで魅力的な音楽を出すことに注力。彼のアレンジで音が締まったことが幾度もあった。
 
 音像だけでなく耳の3(ボリューム)も積極的に使い、迫力を出したり抑えたり。コブラのルールを使いこなした。
 前半のあるゲームでは、コーダ付きエンディング(手のひらの2)を出す。じわっとウッドベースを弾いて見事にゲームを終らせた。

 その上で、自身のベースを効果的に使う。たしか前半最後のゲームでは神田と渡辺に多層リズムを作らせ、坪口にピアノを弾かせる。そのうえでベース・リフを織り込み、ファンクな瞬間を作った。これはメモリーもされた。
 自分がメモリーのサインを出すときは、頭へ指を立てる。メモリー1と2を同時に出すときに、兎の耳のごとくピョコンとキュートなそぶりでサインを送った。

 アンコールではついにプロンプターをつとめた。
 「どこに何のカードがあるかわかんないな・・・」
 呟きながらも、堂々たるプロンプターぶり。まったく焦ることなく、ルールを熟知してコブラを心底楽しんでいた。
 抜群な演奏とゲームぶり。充実したコブラになったのも、かなりの部分で彼のサインのおかげだった。

渡辺亮:per
 アンサンブル志向のなかで、かなり個性を前面に出したプレイ。その押しの強さで音楽を引っ張るシーンも幾度か。巻上のカードの降り下ろしを待たずに音を出してしまい、止められるシーンも見られた。
 ボンゴからカホン、シェイカーや各種パーカッションを駆使して、多彩に聴かす。

 なぜかやかんを持ち込み、角笛のように吹いていた。いったんはゲリラでやかんソロを取ろうとしたが、たちまち巻上自身に笑いながら斬首されたっけ。
 トランペットも吹き、後半ゲームでは北とバトルを繰り広げた。

 あれも後半かな。トーキング・ドラムを持ち出し"狼少年ケン"のリズムでメモリー1を作る。さらにメモリー2ではボンゴか何かのプレイ。さらにメモリー3でシェイカーか何か。全てのメモリーで別楽器を演奏する羽目になり、慌てながらもにこやかに奏でた。

DJ peaky:ターンテーブル
 LPプレイヤー2台を、ミキサーで切り替える。フレーズはほとんど使わず、スクラッチ・ノイズが多い。一曲くらい、がしがしのDJプレイも聴きたかった。
 つるに電球のついたDJ仕様の眼鏡に視線が行く。ほしいな、あれ。

 ただし演奏はかなり苦労してた。音の切り替えが上手く行かないのか、戸惑いがわかる。ときおりシャウトや語りも使った。

 後半ゲームでいきなり壁をたたき出し、頭をかきむしる。面白がった誰かがその仕草をメモリーし、幾度も繰り返させ。挙句の果てに、他のミュージシャンにもコピーさせ、滑稽な空間が生まれた。みんなが無言で髪の毛かきむしるだけなんだもの。

 DJ peakyは指示に沿って、スピードを変え、強さを変えて。しまいにHold and Fade(てのひらの3)では、頭をかきむしるスピードをゆっくり緩める、かきむしりエンディングで爆笑を呼んだ。
 ちなみにそのあとにフケを払うそぶりで、横にいた鈴木生子が顔をしかめてたな。

 二セット目最後でスピーカーをひっくり返してしまい、アンコールはボイスで参加。いきなりグランド・ピアノへ飛び走り、松前の横でがんがんに鍵盤を叩く。
 ゲームが進むにつれ、不完全燃焼のもどかしさが伝わってくる。惜しかった。

鈴木生子;cl
 あまり派手にクラリネットを軋ませず、おっとりとしてた。幾つかサインは送ってたが、全面に立ってぐいぐいかき回すことはしない。
 デュオやアンサンブルになったとき、強い音の力で存在感を出した。
 うーん、もうちょい目だってほしかった。

近藤達郎;key
 小さなシンセ一台で参加。各種音色を使い分ける。意外なほどに、前面に出なかった。もっと派手に暴れると思ってたのに。

 ゲリラになっても、場をかき回すことは無い。せっかくのテクニシャンぶりをほとんど発揮せずに終ってしまった感有り。もっとも、すぐ横のやの雪がすさまじいパフォーマンスだったからな。見てるぼくが、あまり記憶残ってないだけかもしれない。ごめんなさい。

やの雪:テルミン
 水谷とは別の意味で、今日のコブラを引っ張ったムードメーカー。とにかくゲームが進むにつれ、爆笑の嵐だった。演奏は素晴らしかったです。
 彼女を聴くのは初めて。今度、ぜひライブ見に行こうっと。

 テルミンの演奏姿そのものをギャグにしたシーン多数。とにかく目の2(Ordered Cartoon Trades (with Guesta):時計(もしくは反時計)周りで音を出す)のサインが出たら、彼女から目を離せない。
 瞬間芸で踊るようにえいやっ、とさまざまに手を伸ばす。毎回毎回、いろんな方向に。そのポーズが、キュートでおかしかった。

 さらにサインの口の2(Runner:演奏交替)では、演奏を受け継ぐミュージシャンが手を上げる中、大きく手を伸ばして指差す。
 そのたび、当然ながら音が変わる。慌てふためきながらも、指差して音楽がヘンテコに歪むのもおかしかった。別のゲームでは、口テルミンまで披露した。

 後半だったかな。ゲリラで立候補。なんと手持ちで準備したカードを使い、プロンプターを始める。ただしやりたいことと示すカードが違い、巻上に「違うよ〜!」と大笑いされていた。
 でも、うまく行ったら面白かったろうな。カードが小さく、向い側のミュージシャンは良く見えないみたい。坪口や渡辺は首をかしげ、カードを覗いてた。
 足掻いたあげくに自ら斬首しちゃったのが残念。いっそ、アンコールでプロンプターをやって欲しかったぞ。

 全般的には口の3(Substitute:演奏交替)や口の4(Sub Cross Fade:クロスフェイドでの演奏交替)もひっきりなしに飛び出し、メモリーをうまく使ったメリハリある演奏ばかり。
 ステージの様子混みでないと、コブラを味わえないと思ってる。しかし幾つかの演奏は、音だけ聴いても充分楽しめそう。

 アンコールでは前述の通り、水谷がプロンプターをつとめた。
 巻上は「ぼくの位置はここ!」とプロンプター席へ座りかけるが、結局は水谷のエレキベースを構えた。
 とうぜん、巻上へもサインが飛ぶ。しかもソロで。ベースを即興でかき鳴らしながら、スピーディなボイスを決めた。

 それがメモリーされ、さらに次の巻上のパフォーマンスもメモリーされる。メモリーが再生されるたびに、素早く演奏とボイスを入れ替える強靭さがべらぼうに良かった。巻上自身がコブラの奏者としてフル参戦ってのも聴きたい。
 プロンプターはそれこそ、植村昌弘とか水谷浩明とか。いっそ、やの雪とか。いっぱいいそうじゃない。

 次回のコブラは未定だという。ジョン・ゾーンが来日してコブラって企画は保留かな。
 このところコブラは大入り満員ばかり。頻度を増やして(できれば、違う場所でも)、もっとやって欲しい。
 コブラははまればとっても面白く、奏者の瞬発力が実感できる愉快なゲームだから。

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