LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/4/22   水道橋 アテネ・フランセ文化センター

  〜夢の森にて2006 〜
出演;谷川賢作とSonorizzano
 (谷川賢作:p,青木タイセイ:tb,b,石川浩司:弁士,recorder,太田惠資:vln,
  高良久美子:per,三木黄太:vc,ロケット・マツ:key,etc.)

 「喜劇映画研究会」が主催する無声映画に演奏をつけるパフォーマンス。この研究会は、今年が30周年だそう。ケラなどが参加しており、アメリカのドタバタ・コメディにスポットをあててるようだ。
 完全入れ替え制でAプログラムとBプログラムのうち、ぼくはAプログラムのみを見た。

【上映作品】
"Smile please"(1924)(1924)
"The Boat"「船出」(1922)
"Crazy like a fox"「なかなか冴えてる」(1926)

"Smile please"(1924)

 監督はロイ・デル・ルース。主演がハリー・ラングドンで、チャップリン、キートン、ロイドと並び称される喜劇王だそう。日本初公開。

 順撮りかと思うくらい、シナリオに脈絡無い。最初のおっかけっこから火事、結婚式から写真撮影まで、いまいち流れが分からず。挿入される字幕もスピード速くて読み取れない・・・英語力が欲しい。

 音楽監督は石川浩司。
「楽器から手を離しなさいっ!」
 と、いきなり命令。その場で全員が弁士を命じ、自らはリコーダーで適当に楽させてもらう、と言い出した。
 アイディアは面白い。しかし、ほぼ全員が事前に映画を見ておらず、即興の即興となったのが残念。
 高良や谷川、青木あたりが主体となって擬音や声を当てていたようだ。

 石川はきちっと事前にビデオを見て、タイミング合わせて笛を入れたり、軽く進行を解説してた。
 一瞬だけ登場する馬にこだわってたのは、だれだろう。
 「馬はどうした、馬は」って言い続けるのが面白かった。

 スクリーン真下にいた太田は、まったく映像が見えなかったらしい。終ったところで、モニターを引っ張ってもらってた。

 しかし逆回しの特撮(っていうのかな)や、ふにゃふにゃになる三脚、動物がコケるギャグなど。細かいところではずいぶん丁寧に演出された映画だった。
 
"The Boat"「船出」(1922)

 ローリング・20's。禁酒法下で密造酒をかっくらいながら、見てたんだろうか。それくらいシナリオがぶっとんでた。
 主演、そして監督はバスター・キートン。大掛かりなギャグは知ってたが、きちんと作品見るのは初めて。

 初手から家をぶち壊し、船を沈め、水をふんだんに使う笑い。さらにセットを回転させ、嵐をみごとに表現した。固いパンをつかった伏線も上手い。
 水漏れする船から水をかきだすために船床へ穴を開ける、大馬鹿なギャグに笑った。

 音楽監督はロケット・マツ。後半はストーンズの"Satisfaction"をマイナー・トーンにしたテーマが、幾度も演奏された。
 石川もストーリーがきっちり頭に入っており、小気味いい弁士だった。しかし台本、どのくらい煮詰めてるんだろう。その場で石川がギャグを作ってるそぶりあり。

 演奏は高良のヴァイブや、谷川のピアノなどが下地を作り、三木が朗々とチェロを響かせる、かなりアレンジされた演奏。
 ときおり太田が美しいソロを挿入する。3本の中で、ベストな音楽の出来だった。

 映画そのものも楽しめた。"知ったことか"号(だっけ?)の船名がゆえに起こる、遭難のSOSと保安庁(?)とのかみ合わないやり取りのギャグ、バスタブ・エンディングのアイディアなどに笑う。
 エンディングでバスタブへ持っていくために、冒頭で家の倒壊を入れたんだな。伏線の入れ方が秀逸。
 ラストは悲観させておきながら、そこそこハッピーエンドへ持っていく。さすがです。

"Crazy like a fox"「なかなか冴えてる」(1926)

 レオ・マッケリー監督、主演はチャーリー・チェイス。
 婚約が決まってる相手へ見合いに行く男が、途中で美女に出会う。なんとか見合い相手に振られたい。初対面をいいことに、きちがいのふりをするという・・・テレビでは上映不可能だろう。
 フィルムの損傷が目立つシーンもあるが、面白かった。日本初公開。

 シーンのつなぎが唐突で、最初はさっぱり内容が分からず。出会った美女が、実は婚約者だった・・・ってベタなシナリオも、最後で明かされるんだもん。見てる人は女性が出てきたところで分かるの?どうも白人美女って、どれも同じに見える・・。

 列車出発を車掌がうながす様子を、フォントの大きさで表現するのが漫画チックで興味深かった。 
 細かいギャグの連続で飽きない。無賃乗車に議員バッジを使うふてぶてしさも、あとのおっかけっこで活きた。微妙な無頼っぷりがわざとらしくない。 
 訪問先の主人も狂ったふりして、ダンス踊るさまがシャープで楽しかった。

 石川の弁士ぶりも上手い。映画と一体化してた。
 音楽監督は高良久美子。これもかなり編曲されていた。即興も多いのかな。"鉄腕アトム"のテーマが、なぜか挿入される。
 つい映画へ見入っちゃって・・・音楽の細かい部分まで覚えてない。

 アドリブはやはり弦のほうが印象深い。即興部分もあるようで、その場で滑らかな旋律が音楽に合わさった。損傷でちらつくモノクロ映像につきものの物悲しさを、演奏の優しさが補完した。

 後半セットも見てみたかったな。演奏と音楽の噛み合いはハマればすごく楽しい。

目次に戻る

表紙に戻る