LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/4/21   西荻窪 アケタの店

出演:緑化計画
 (翠川敬基:vc、片山広明:ts、早川岳晴:b、石塚俊明;ds、
  Guest:千野秀一:p、喜多直毅:vln)

 今日の緑化はゲストも入って盛りだくさん。ここ数ヶ月の常連ゲスト喜多直毅に、千野秀一も加わった。
 客席はぎっしり満員。メンバーが店へ戻くるまで、千野はぽつんとピアノの前へ座ってた。鍵盤を確かめるかのように、幾度か押す。

 ふらりと立ち去り、しばらくしてコーヒー片手に戻った。
 そのまま咥えタバコで、ぱらりぱらりとピアノを弾く。戯れるように。思いがけぬひとときだった。
 そうこうするうちにメンバーがアケタへ現れ、とたんに賑やかになる。

「トイレ行きたいな・・・とりあえず先にメンバー紹介しようか」
 ステージにスタンバイし、客電も落ちる。のんきな翠川敬基のコメントのあと、ライブが始まった。

<セットリスト>
1.Menou
2.Seul-B
3.TAO
(休憩)
4.Thousand eyes
5.Ergo
6.A-hen

 とにかく音が分厚く、珍しくラウドな緑化だった。PAはドラムとサックス以外、全員が使う。しかし片山広明は一番音が大きい。
 ガンガン盛り上がるとチェロはほとんど聴こえず。ピアノもかなりオフ気味だった。聞いてた位置のせいかもしれないが。

 「メンバーは多くても、自由になれる曲をやります」
 と、翠川。"Menou"からライブは幕を開けた。フリーに広がる。
 音が充満する中、片山が朗々とテーマを提示した。
 
 バイオリンとチェロがユニゾンでテーマを重ね、ピアノが奔放に動く。ベースもドラムも、サウンドをがっしりと支えた。
 緑化の自由さが良く分かる。
 テンポ早く高まり、いったん静まっては、再び激しくなる。きっかけや主導権を持つのは、そのときどきで違う。片山だったり、早川だったり。
 アイコンタクトもなく、ただ音の展開が自由に動いた。

 千野も喜多もためらわず、フリーにつっこんだ。
 とにかく喜多がアグレッシブ。次々に弓をほつれさせながら、熱くフレーズを重ねる。弓の先端は幾度もザンバラとなり、片山へ鞭のようにしなだれかかる。身体をよけながら、片山は翠川と笑いあった。

 一曲目から20分くらいの長尺な熱い演奏。トシもテンション高く、マレットからスティック、ブラシと次々持ちかえる。
 ときおりフィルを決め、にっこり微笑むさまが印象に残った。
 しょっぱなから聴き応えたっぷり。

 続く"Seul-B"は、イントロがピアノのソロ。テーマを和音で弾き、微妙にフェイクさせる。
 味わい深い雰囲気に、翠川が声を上げて喜んだ。
 イントロから待ちきれないように、片山が高い音でサックスをかぶせた。
 喜多、早川、トシと音数が増えて全員でテーマのアンサンブルに。
 さりげなく翠川が喜多を指差し、ソロをうながす。
 ゲストを前面に出す演出も、翠川は意識した。もっともレギュラー・メンバーを前に出す必要はなかったろう。全員がのっけから、活き活きと演奏してた。

 トシはめちゃめちゃハイテンションで笑顔を絶やさず、シンバルを強打する。片山も隙あらばサックスで切り込む。
 クールな表情を漂わす早川すらも、野太いフレーズで強烈にグルーヴさせた。

 従ってこの曲でも、あっというまにテンションが上がった。
 翠川の指が指板の上をめまぐるしく動く。基本的にアルコで通した。ほとんど音が聴こえなかったのが残念・・・。
 フラジオも多用してた気がする。ときおり親指の腹まで使い、弦を押さえた。

 ソロ回しの定型はあまり取らず、片山を軸に演奏が動いた。テーマへ戻るきっかけすら、片山が出す。
 アドリブにまわると、ひときわロマンティックにサックスを吹いた。
 
 前半最後は"TAO"。威勢良くワイルドかつでかい音で盛り上がった。こういう緑化って新鮮だ。
 たまたま遊びに来ていた某ミュージシャンの飛び入りも翠川から示唆されたが、途中で帰ってしまったようす。
 
 ピアノとバイオリンが入ったのみで、これほど響きが溢れるとは。二人とも確かに手数は多いが・・・。
 レギュラーの4人はひとしきり演奏すると手を休め、スペースを作る。
 ゲストの二人も同様に弾き休んでも、どこかサウンドの落ち着き方が違う。濃密さを常に意識させるステージだった。

 ちなみに演奏途中、翠川はつと片山へ耳打ち。舞台から降りてしまう。にやにや笑う片山の引っ張りで、演奏はかまわず続いた。
 もちろんしばらくしたら、翠川は戻ってきた。このタイミングで席を外すか。

 リラックスより、熱く盛り上がる場面が多い。刺激たっぷりでのめりこんだ。
 その上で4人だけの緑化の良さも、改めて意識させた。

 「初期にぼくが作った曲です。"Thousand eyes"」
 翠川の曲紹介で、2ndセットは静かに始まった。
 
 前半の高いテンションを意識してか、後半セットは音を抑える場面も、翠川は意識的に作る。
 最初はチェロとバイオリンのデュオから。穏やかな音像が産まれた。
 そこへ片山のサックスが滑り込む。

 千野は内部奏法を強調した。指をグランドピアノの中へ入れ、せわしなくピアノ線をはじく。時には体全体でピアノの中へ飛び込むように、激しい仕草で弦をこすった。
 本奏法は後半セットで"Thousand eyes"に限らず、頻繁に登場した。
 聴こえづらかったが、ときおり普通に鍵盤を叩くような音もあった気が。もしや膝で鍵盤叩きながら、内部を引っかいていたのかな。

 この曲も中盤でガンガン盛り上がった。とにかく今日は1曲が長い。
 ソロ回しなど無くても、全員が音像のアイディアを出し合い、それぞれ膨らます。
 トシは激しくスネアやシンバルを叩きのめした。リズムも基本的にはフリー。4拍子の感触はベースやドラムからほんのり漂うが、根本はノービートだった。
 
 続く"Ergo"は、ずいぶん久々。冒頭から翠川は、音を抑えるサインをメンバーへ飛ばす。しかしほぼ全員、目を閉じており、まったく気づかない。唯一、早川だけが意識してたようだ。
 翠川の眉間にしわがよる。険しい表情で、チェロをかきむしった。

 テーマへ行くと、サックスとバイオリンが同じ旋律を弾く。
 もういちど、翠川が音量を下げるようにサイン。すかさず二人のボリュームが、ムードを生かしたまま滑らかに下がるのがみごと。
 盛り上がったトシは、ドラムを強く叩く。
 翠川が小音量のサインを送るが、目を閉じてて気づかない。やむなく声をかけ、気づかせた。

 そんな慌しい雰囲気も漂う"Ergo"。たしかに翠川の意図どおり、極小な音量で聴けたら、とびきりいい展開にもなったろう。大きな音で豪快にうねった今夜の緑化では、いいアクセントと思う。
 実際には全員が盛り上がり、ベースまでボリュームが上がった。翠川も黙々とチェロを弾いてたな。

 エンディングはデクレッシェンドしてゆく。チェロとバイオリンだけが音を残し、最後の音をじわじわ伸ばす。
 消え入るように音楽が終った。

 最後は4ビートで、と"A-hen"を。早川と千野でダンディなジャズの空気を作る。そして片山から喜多、千野へとじっくりしたソロ回し。
 千野は身体をぐるぐる動かし、早いパッセージを次々披露する。この日ほとんど明確なソロを取らなかったので嬉しかった。
 
 翠川は次のソリストを指差すのみで、自分はソロをするつもりなかったよう。早川がぐっと音量を落とし、翠川の登場を準備する。片山が手まねで薦めた。
 目を閉じ、堂々たるとソロに入る翠川。美しい旋律よりも、音の断片を積み重ねる展開から始まった。
 長尺ソロの途中で、盛り上がった片山や早川がボリュームを上げ、どんどんチェロをかき消してしまう。
 翠川はそれでも没入し、ソロを続けた。 
 指先全てどころか親指の腹まで使い、果てしなく展開させた。

 満を持したように、ベースの音がぐんと上がる。早川のソロだ。トシや千野の演奏をバックに、でっかく低音を唸らせた。
 トシが強打でスネアをロールさせる。入れ込みすぎたか、ついに早川は3弦をペグから引きちぎってしまうありさま。かまわず早川は弾ききった。

 エンディングも賑やか。トシがドラムを連打し、コーダがぴしりと決まらず。
 笑いながら翠川が立ち上がって、腕を振り下ろし強引に演奏を締めた。

 ピアノが入っただけで、音圧がぶわっと上がった。感じる心地よさは、何度も聴いた緑化のムードとは明らかに違う。飄々としたしたたかさは控えめに、ぐんぐん伸びる生命力が前面に出たライブだった。

 ベテランぞろいの緑化で、堂々と弾ききった喜多の実力もさすが。足元に小山が出来るほど、弓の糸を切りまくった。フリーでも積極的に出て、引きも心得ていた。
 喜多も千野も抑えなかったがゆえに、ぐっと密度濃く盛り上がりっぱなしの素晴らしいライブになった。

 翠川の懐の深さと存在感が、今までに無く強調されたライブだった。
 奔放に音を遊ばせるメンバーを律さない。鷹揚に全てを受け止め、ときに音の主導権すら相手に渡す。弾かずに耳を傾けるときも、アンサンブルはかっちり緑化計画になっている。

 ゲストを入れた濃密な緑化もいい。だけど4人だけのシンプルで寛げる緑化のアンサンブルも素晴らしい。
 そんな想いが頭をぐるぐる回る快演だった。うーん、贅沢な話だ。

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