LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/4/18  西荻窪 音や金時

   〜俳句パフォーマンス「花疲」〜
出演:Mama-Kin+太田恵資
 (Mama-Kin:俳句,etc.、太田恵資:vln,etc.)

 季節ごとに開催されるママ金の俳句パフォーマンスと、太田恵資のデュオ。今日は太い紙が数枚、ステージ中央につるされていた。
 リハーサルや打ち合わせは、たぶん無い。全てが即興だろう。
 客電が落とされ、暗闇が訪れる。ママ金は上手で静かに墨をすっていた。

 エレクトリック・バイオリンを構えた太田は、静かに弦をこする。BGMの音楽と溶け合った。
 いつしかBGMが消え、擦弦音のみ響く。サンプリングされ、そっとループされた。
 ママ金が太い筆を持つ。壁に貼られた紙へ向かった。
 赤い墨をたっぷりと筆に含ませ、一本、また一本。強い曲線を引く。桜に包まれた山の遠景か。

 線絵の上へ、スライドが映された。満開の桜のアップ。ときおり切り替え、さまざまな桜が写る。
 
 今日のテーマは"花疲"。ママ金は黒い墨に変えて、一首を即興で記した。
 
  "戯作あり朧の夜に手招きす"

 エレクトリック・バイオリンで、さまざまな擦弦音を重ね、浮遊感あるループが乗っかった。弓で弦を叩く音も加わる。

  "千六本俎板の花塵しらとりに"

 唐突にループが切られた。ゆるやかなメロディが無伴奏で鳴る。
 旋律を展開。つと、ループが復活する。太田はピチカートを多用した。
 じっと、書かれた俳句を眺めながら。

 ママ金はステージから垂れ下がった中央の紙に、江戸時代を思わせる女性を描いた。
 太田はバイオリンを置く。ピチカートも加わったループは、淡々と流れる。
 垂れ下がった紙の後ろに立った。いきなり、紙の合間から覗く太田の顔。紙を暖簾に見立て、太田は一人芝居を始めた。
 
  "鶯の日暮れは声の太さ帯び"

 ママ金は新しい俳句を書き記す。
 太田はステージから降り、ちょこちょことママ金へ近づく。腰に手を当てて。たぶん、鳥の擬態だろう。ペンギンみたい。
 口笛風の鳥鳴から、太田は野太い声で鶯をひと啼きした。

  "花日暮荷の酒樽の熱れゐぬ"

 こうして書いていても、ママ金の肉筆が産むニュアンスを記せてはいない。文字の大小、文字の形そのものが味わいだから。

 太田の芝居は続く。"戯作〜"を眺めて、呟いた。
「何でこうなったんだ・・・最初にこの句を見たからか」

 バイオリンをまったく弾かない。流れる音楽は積み重ねた揺らぐループのみ。

  "花見酒菖蒲と玉子と香香で"
 
「花見できなかった、恵資さんへの句よ」
 ママ金がにっこり笑う。太田はステージへ戻り、再びエレクトリック・バイオリンを構えた。ワウをかませた、短いフレーズも多用する。
 つるされた紙に、男の絵。ひょうたんや杯も描き加えた。

 ループがカット、民謡風の日本風味溢れるメロディに切り替わった。
 リバーブがたんまりかぶさり、ゆったりとクラシカルなフレーズが弾かれた。

  "視過ぎては花盗人の草臥れむ"
 
 新たな句が書き足される。つと、ループが復活。
 ストーリー性が強調された。実際の音は短いワウのフレーズなど、より複雑さが表面を覆う。
 ママ金はステージへつるされた紙にもう一人、男の絵を描く。太田がじっと見つめる。アコースティック・バイオリンへ持ち換えた。

  "花莚あの人人形抱いたまま"

 メロディとユニゾンでのんきな即興詞を歌う太田。やがて、バイオリンに力がこもる。
 素早いメロディが溢れる。旋律が駆け抜けた。
 この日、もっとも音楽的に濃密だった。たっぷり時間をとって、ただただバイオリンが奏でられた。ステージは明かりを落とし、次々にスライドが映される。様々な場所でとられた、桜の写真が。

 太田のソロは豊潤なメロディが溢れ、どっしり力のこもったフレーズを存分に、みるみる展開させた。素晴らしく聴き応えあり。
 パパ金がステージに脚立を置き、一枚、また一枚。紙を落とした。
 ステージ後方の壁に、スライドが映し出された。太田は即興で写真のイマジネーションを音楽へ叩き込む。

 画面いっぱいに桜が広がった写真が続く中、がらり雰囲気変わった一枚が、映った。中央に丸く、こじんまりと桜が咲いているのみ。
 刹那、バイオリンが静かにまとまる。ゆったりと空気が変わった。
 やがて写真が切り替わるたび、もう一度メロディが高まってゆく。スピードがますます速まり、インプロは凝縮された。

  "根に幾多草履埋もれし紅枝垂"

 太田はアコースティック・バイオリンを、やっと置いた。10分近く、ずっと即興を続けてた。
 幽かにフレーズがサンプリングされ、ループで流れる。エレクトリックに切り替え、白玉中心の穏やかな符割でテンションをなだめた。

  "地と水に触れなむとする落花かな"

 いつしかバイオリンはサイケに展開する。
 ディレイとリバーブをかけたメロディが美しい。旋律は天井知らずに高まった。

  "花過ぎて調弦ゆふらゆふらと"

 書かれた句をじっと見る太田。かき鳴らすバイオリンの音程がどんどん高まり、手元ギリギリまで指が近づく。
 弓と左手が触れんばかりの位置まで滑って、限りなく高い音程が奏でられ・・・・消えた。

 演奏は約1時間。緊張を切らさぬ、メリハリある進行だった。
 進行はまったくの即興だが、回を重ねることでより演出もスムーズになっている。
 ママ金が句を記す紙が、どうステージ上に準備されているか。すでにその時点から、演出は始まっている気がする。
 自由に奔放に広がる即興空間は、本当に刺激的だ。次の開催が楽しみ。

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