LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2005/4/7   入谷 なってるハウス

出演:渋さチビーズ
 (不破大輔:b、小森慶子:as,ss,etc、立花秀輝:as、岡村太:ds)

 なってるハウスのドアを開けたら、犬がいた。
 「ちょっと散歩行ってくるね。10分で帰るよ」
 不破が犬を連れて出かけてゆく。たまたま彼が、愛犬を二匹連れてきた。
 しばらくたつと戻って、ライブの始まり。犬は車の中においてきたとか。
 
 20時20分ごろに、メンバーがステージへスタンバイ。静かに不破がベースを鳴らす。小森と立花が、探るように音をのせる。
 立花はマウスピースをガッツリくわえ、鋭いタンギングでリードを鳴らした。
 ハンド・パーカッションにカリンバがついたものを、小森は爪弾く。チャイムのように。指先で鋭く皮を叩く。・・・すると、べっこり穴が開いてしまうハプニングも。

 浮遊するセッションがしばらく進む。岡村もランダムにドラムを叩く。
 不破だけがしっかりとビートをキープし、中心をしっかりつかんだ。
 最初のソロは小森。きつく目を閉じ、アルトサックスで音を紡ぐ。アラブ風味のメロディがフリーに提示された。

<セットリスト>
1.フリー(行方知れズ)〜ナーダム
 (休憩)
2.股旅〜エエジャナイカ
3.仙頭

 基本のアレンジは、ホーンの交互なアドリブ。長尺でじっくり即興を重ねる。ほとんど決め事がなさそう。だからこそ、刺激満載のライブだった。
 アドリブは立花へ受け継がれる。フリーク・トーン中心に抽象的なフレーズがばら撒かれた。小森は横に置いたピアニカを軽く吹く。
 
 前半は切れ目なく、延々と演奏が濃密に続いた。
 曲を意識させず、小森と立花がそれぞれの世界を構築。不破は淡々とグルーヴで強固な土台を作った。
 岡村のドラミングはタイトながら、刻みに走らない分自由度が増す。時にブラシやマレットに持ち替え、リズムをはずませた。

 中盤で不破がベースで執拗に同じフレーズを弾く。
 立花が僅かに反応し、"行方知れズ"のテーマをフェイクさせる。しかし小森はあえて路線を外し、ぐいっとメロディアスな曲調へ引き戻す。
 "行方知れズ"の痕跡は、そのまま消えてしまう。

 スタンダード・ジャズっぽいメロディが、小森のアルト・サックスから豊潤に溢れる。今夜のメンバーでは意外な志向だった。
 冒頭の重たい抽象度から振り幅大きく、柔らかな世界が広がった。

 演奏はまたフリーに戻った。
 ホーン隊のソロの合間に、ちょっと不破のベースが残るシーンも。
 いったん演奏がコーダへ行きかけたが、そのまま不破が弾き続ける。間違えて拍手が飛ぶと、不破は弾きながら"違うよ"と無造作に手をふった。

 立花と小森のソロは探りあう。一方が吹いてるときも、積極的にカウンターもいれる。
 なぜか立花はステージ脇に立って、遠慮がちに鳴らしてた。ぐいぐい前へ出て、顔にぎゅっと力を入れて吹く小森と対照的。
 
 立花は俯き加減で、身体を揺らしてアルトを吼えさせる。フリーク・トーンに縛られず、時にはジャジーなメロディをたんまり注いだ。
 ネックを外し、ボディへ直接マウスピースをねじ込んで吹いたのは1stセットかな?掠れ気味の細い音で、音程をしぼりだしていた。
 
 ずしん、とバスドラが一打ち。
 岡村がじっと小森のソロを見つめながら、バスドラを力強く踏む。
 さらに一打ち。やがて四つ打ちへ。あおるように踏まえ、ぐいっと次の曲に移った。

 しばらくサックスのアドリブ交換が続く。テンションが収斂し、曲へ向かう。途中から、曲が分かった。
 ミュージシャンのアイ・コンタクトが飛び交う。
 呼吸を合わせ、怒涛の勢いで"ナーダム"へ雪崩れた。
 小森がテーマを高らかに吹く。間を縫って立花が、カウンターやフェイクさせたメロディでつっこんだ。

 前半セットは約1時間ほど。自由度高く、濃密で充実した演奏に大満足。小編成なゆえの奔放さがはまってた。
 立花はリードがしっくりこないのか、休憩時間に片端からリードをためす。
 マウスピースへリードを付け替えるたびに、スケールを軽く吹く。直後に耳をつんざく猛烈なフリーク・トーンを轟かせて試すのが、いかにもで面白かった。

 後半セットもやはりフリーから。ソプラノを持った小森が、やはり長尺のソロをとった。途中で立花も吹くが、どこか遠慮がち。ソロがおわるたび、頻繁にリードを変えていた。

 小森のソロはますます力がこもり、身にまとったアルトのストラップを片脱ぎで吹きまくった。 
 ついに不破も岡村も音を止め、無伴奏でソプラノ・ソロへ。

 しばし吹き続ける小森。つっと振り替えり、不破をちらりと見る。
 手を振ってソロをうながす不破。ソプラノの鋭いソロが続く。
 また、しばらくして小森はチラッと眺める。「まだ、吹いてていいの?」って面持ちで。笑いながら、不破はソロをまかせた。

 岡村と目まぜする不破。立花も加わり、威勢良く"股旅"につっこんだ。
 サックスはユニゾンをあえてさけ、主旋律を互いに吹きあい、テーマを頻繁にフェイクさせる。立花がフラジオでテーマを吹いてたのがすごかった。 リズム・パターンもオーケストラのときと違う。穏やかなベースに、ドラムもハイハットの連打で応えた。

 アドリブに戻ると、立花もハイテンションでサックスを軋ませる。
 断片的なフレーズを積み重ね、次第に一つの流れを作る。
 即興と格闘するような演奏だった。
 別の箇所で立花が、マウスピースのみでメロディを紡ぐ。いったいどうやってるんだろう。すごい。
 
 ホーンが一気に退き、ドラムのソロへ。岡村はタイトに叩きのめした。
 腕自慢な連打の見せびらかしはしない。ときおりリズムの頭をひっくり返し、どすどす賑やかにビートを歌わせた。
 川下トリオの轟然さとは別な、歌心ある味わい深いドラミング。とっても聴き応えいっぱい。

 いったん"股旅"がコーダへ向かう。しかし不破は弾きやめない。ベースの無伴奏ソロで、次の曲へつなげた。
 激しいフレーズからリフへ。ちょっと首を傾げる小森。ふと、得心した表情でアルトをくわえなおした。
 すっと前へ出て、アドリブを始める。テーマをフェイクしたフレーズで、何の曲か分かった。"エエジャナイカ"を久々に聴いたよ。

 立花のアドリブにもぐいぐい力がこもる。
 短いペースでソロが交錯。不破の合図で、ついにサックス二本の同時並行ソロになった。すさまじいテンションで、互いのアドリブが絡む。客席から口笛が強く飛んだ。

 そして、高らかに"エエジャナイカ"のテーマへ。めちゃめちゃかっこよかった。

 大きな拍手がステージを包む。一呼吸置いて、不破の合図。"仙頭"へ。
 小森はテーマを吹きながら、きちんと飛び跳ねる律儀さが素敵。
 そして立花は自由にテーマを変奏し、二管ながら厚みを出す。
 
 賑やかに"仙頭"が終った。すさまじく自由で、さまざまな表情を見せる。
 今夜はとにかく極上たんまりな味わいの、魅力を凝縮した渋さチビーズだった。

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