LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/4/2  新宿Pit-Inn

出演:板橋文夫トリオ+4
(板橋文夫:p,井野信義:b,小山彰太:ds,片山広明:ts,田村夏樹:tp,
  吉田隆一:bs,太田恵資:vln,外山 明:per)

 「春ですから即興も交えて長めにやります」
 板橋文夫が高らかに宣言する。あんな濃密なライブになるとは、この時点でまったく予想できなかった。
 トリオ+4と銘打たれたバンドは、総勢8人。微妙に計算が合わない。吉田隆一が闘病から復活したためか。

 ふっとホーン隊へ視線を投げる板橋。静寂が一瞬。
 片山広明がおもむろに、サックスをか細く鳴らす。一呼吸置いて、田村夏樹と吉田隆一が音を重ねた。
 アコースティック・バイオリンを静かに載せる太田恵資。ちなみにアンコール以外、あとはずっとエレキで通した。

 板橋は鍵盤へ、手のひらを叩き落す。賑やかに一曲目が始まった。
 冒頭こそPAバランスが聴きづらかったが、次第に個々がくっきり耳へ届いた。

 とにかく実力ある顔ぶれがぎっしり集まっただけに、ソロまわしも果てしない。片山から順に、たんまりとアドリブが連なった。
 スインギーなトランペットで田村がソロを吹き、ピアノの打音が激しくなる。吉田はバリトン・サックスを軋ませた。バックはベースとドラムのみ。すっきりした演奏で、高速ソロを続ける。リードミス連発の痩せた音に聴こえてしまい、ちょっと鳥肌立ったが。

 続く太田はエレキにワウをかぶせ、力強いアドリブ。井野信義のグルーヴィなベース・ソロにやられた。小山と外山はデュオでノリを煽る。
 もちろん板橋のソロも、のっけから全開。フレーズだかクラスターだか分からぬ勢いで、獰猛に疾走した。

 このメンバー紹介を兼ねた曲だけで45分経過。すさまじい盛り上がりだ。
 メドレーでぐっと静かな曲に繋げた。ロマンティックなメロディとソロでじっくり盛り立てる。太田はピックを使い、マンドリンのように響かせた。

 終ったとき、板橋がメンバーへ時間を尋ねる。約1時間が経過。もちろん、演奏は続く。

 1stセット最後は"Jerry Roll"。ピアノがぐいんぐいん弾み、スイングを彷彿とするグルーヴであおった。
 メンバー全員のソロ回しへ。バックリフをホーン隊があおり、カウンターでピアノがつっこむ。しかも全員が、きっちり4コーラス弾きまくった。ここでも田村のフレーズはおとなしいくらいのスイングだ。

 前半セットは75分ほど。けれども後半はもっとすごい。
 久しぶりにやるという奄美がテーマの曲から、"Mercy,Mercy,Mercy"へ。
 奄美のオリエンタルなテーマをピアノが豪快に崩してく。ソロ回しも存分に。太田へ回されると、ここぞとばかりにアフリカンな即興ボイスで歌いまくった。

 太田のボイスは"Mercy,Mercy,Mercy"でも炸裂。"I'm sorry,I'm always late!!"とシャウトし、笑いを呼ぶ。
 ソロ回しは片山が自分を割愛し、田村に始めるよううながした。
 続いておもいっきり静かな曲へ変わったとき。
 ピアノを含む3リズムをバックに片山は、素晴らしくセクシーで太いソロを聴かせた。

 トランペットはまっすぐに音を伸ばし、バリトンサックスは素朴に旋律を揺らがせる。ソロ回しのあと、テーマが幾度も繰り返された。
 最後は次第にデクレッシェンド。ピアノと対比させたかな。太田がメガホンで呟きボイスを入れる。
 夜の闇へ溶け込むように、メロディは静かに幕を下ろした。

 まだまだ終らない。今度はめちゃ早いテンポの曲。すさまじかった。
 冒頭はホーン隊3人のソロの奪い合いから。4バーズ・チェンジでテナー、ペット、バリトンで幾度もアドリブが回る。バリトンが終るのを待ちかねるがごとく、すぐさま片山はマウスピースを咥えて吼える。
 最後はてんでに3人の管が轟いた。

 続くは太田と板橋のバトル。やはり4バーズ・チェンジでアドリブの応酬だ。板橋はひっきりなしに立ち上がり、手のひらを鍵盤へ振り下ろす。
 太田が弓をザンバラにさせてエレクトリック・バイオリンをかきむしり、板橋はしゃにむなクラスターとフリーな殴り弾きを爆発させた。
 ベースはがっちりとグルーヴを掴み、離さない。

 小山と外山の対話では、ホーン隊やベースはステージを降りてしまう。太田や板橋は圧倒的なソロで噴出した汗を、ひっきりなしにぬぐってた。
 カウベルを首に下げ、ジャンベなどを周囲に並べた外山が、ポリリズミックにリズムを提示。小山はハイハットで基本のテンポをキープさせ、激しく叩きのめした。
 1stセット一曲目でも感じたが、小山のドラムは連打なのにリズムが歌ってる。勇ましくロールするアドリブは格別だった。
 
 ついに外山の完全ソロ。カウベルで基本ビートを叩き、左手で目の前のアフリカン・ドラムを淡々と叩く。パターンはとてもシンプルだが、たまらなくファンキーでいかしたビートだった。
 たんまり外山のアドリブを堪能。最後は両手による高速ビートで暴れ倒した。

 全員が戻って、ラスト・スパートへ。片山がダルセーニョのサインを送り、エンディングでは板橋が腕を幾度も振り下ろす。
 がっつりと迫力溢れるエンディングだった。
 ふらふらと板橋は楽屋へ消えてゆく。しかし観客からは強いアンコールの拍手が飛んだ。もう時間は、23時10分だぜ。後半だけですでに、一時間半くらい演奏してる。
 
 笑いながらステージへ戻るメンバー。「すごいな」太田が呟いた。
 ピアノのイントロから、テナーのアドリブへ。
 "For You"だ。

 全員が一気にテーマへ雪崩れ、ときおりフェイク。アンサンブルが大きく高まる。
 さすがにアドリブ回し無し。太田はアコースティック・バイオリンに持ち替え、片山はアンサンブルの隙を突いてたくみにオブリを織り込んだ。
 田村は演奏に加わらず、ぼおっと宙を見つめる。最後にトランペットを構え、おもむろに高音をヒットさせた。

 短めに終って、メンバーが楽屋へ消えた。最後に残った板橋は、ピアノを爪弾く。メンバーらすら、目をむいて笑う。
 最後に板橋はステージを去った。もしかしたらまだまだ、弾き足りなかったのかな。

 演奏時間は、3時間あまり。23時半近くまで、演奏は果てしなく続いた。
 だけど体感はあっというま。アイディアいっぱいに熱く展開する各人のソロを聴いてたら、いつのまにか時間がたっていた。
 板橋は横にピアニカやパーカッションも準備してたが、触るヒマもない。ピアノを弾いてるだけで、長丁場のステージがあっけなく終ってしまった。

 凄腕メンバーをそろえたがゆえの、壮絶に濃密なライブだった。体力は要るが、さらに聴きたい。人数が多いゆえに、各人のソロを堪能したとは言いがたい。もっと聴きたい。物足りないよ。これほど長く演奏してたはずなのに。
 さすが一騎当千のメンバーが揃ったバンドだ。音楽の底力を見せ付けられたライブだった。

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