LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/3/31 大泉学園 in-F

出演:喜多+黒田+佐藤
 (喜多直毅:vln,黒田京子;p,佐藤芳明:acc)

 喜多直毅が主役のセッション。ほぼ彼のバンドみたいなアレンジだった。5月に発売予定な彼の新アルバム収録曲を織り込み、新曲も多数投入した。
 喜多ファンの女性が何人か。冒頭に喜多が「こんばんわ〜」と挨拶したら、その方たちが揃って「こんばんわ〜♪」と挨拶を返されて、びっくり。そういうのりだったのか。喜多もMCでちょこちょこ客をいじり、ほのぼのした雰囲気だった。

 今日はメモ取りそびれたので、セットリストは割愛させてください。熱心にメモ取られてる人が何人か。あとでネットで発表するのかな。
 曲名紹介をしたあと「漢字でタイトル、メモ書けますか?」と喜多にからかわれるひとコマもあった。全体を通しMCは喜多が喋り、ぼそっと佐藤がつっこみ笑いを呼ぶ構成だった。

 アンサンブルはかなり喜多が前面に出る。特に1stセットはバイオリンが大きめなPAバランスなせいか、独壇場だった。
 喜多が主旋律を受け持ち、アコーディオンはテーマでは主にユニゾン。バイオリンのソロでは、フレーズのバック・リフが多かったかな。
 ピアノは独自に音を展開し、バッキングをつとめる。

 そうとうに構築されたアレンジで、黒田と佐藤は自由度まったくなさそう・・・と最初は思った。
 でも、休憩時間に譜面を拝見する機会に恵まれ、勘違いと分かった。テーマを幾つか書いてあるが、綿密に旋律やアンサンブルを指定してなさそう。中間部やオブリはフリーみたい。
 すなわちそれだけ3人の即興親和度が高いってこと。

 いずれにせよバイオリンはほとんど弾きまくり。
 ずっとソロを取り続けてる趣きだった。むろん黒田や佐藤にもソロは回るが、ごくあっさり目。
 あれは1stセット2曲目だったかな。フラメンコなリズムで喜多は、弓で弦を激しく叩き続けた。はじけとぶ響きがびしばしと耳に飛び込んだ。
 
 1stセットは全て喜多の曲。出来たばかりの曲や、石川啄木の短歌をテーマに作った曲、おなじみの"板橋区"や"夢"など。
 どれも情熱的なメロディが入り組み素晴らしかった。
 喜多は休み無く弾き続け。黒田は柔らかく穏やかなピアノで、暖かくバイオリンを包んだ。

 佐藤が高速でテーマをバイオリンとユニゾンで弾く。
 さらに左手で低音を出しつつ蛇腹を幽かに開き、時にボディを揺らしビブラートを。比較的トリッキーなオブリを担った。

 鮮烈で濃密なアンサンブルだ。エンディングは余韻を残さず、すぱっと切り落とす。
 ヨーロッパの雄大な世界観をメロディに思い切り詰め、アドリブは奔放に展開。1stセット最後は"夢"かな。これはC&Wの要素が強調され、軽快にフレーズが畳み込まれた。

 とにかく和音の響きが心地よい。選ぶコードそのものの響きもさりながら、和音が変わるたびに風景ががらりと爽快に切り替わる。
 ドラマティックな響きがかっこよかった。

 "板橋区"ではイントロで黒田が板橋区での男女をテーマに即興詩を語る。
 観客だけでなく佐藤もウケて、噴出しながらアコーディオンを弾いていた。

 後半セットも喜多の曲が中心。やはり啄木の短歌を題材にした曲、一日前に作った出来立ての曲な"春"、"夢の中の戦争"という3部構成曲などを披露した。
 PAバランスは修正され、ぐっとアコーディオンやピアノが前に出た。ライブが進むにつれ、ぐいぐいバイオリンが前へ出てきた。
 アンサンブルはぐっとリラックスし、黒田や佐藤がソロをたっぷり取るシーンが増えたようだ。
 
 "春"って曲が素晴らしかった。メロディも演奏も。
 力強くロマンティックな旋律を、滑らかにバイオリンが奏でた。
「夏になっても演奏します」と喜多が嘯く。ぜひ繰り返し聴きたい曲。

 「弾きまくって反省してま〜す。最後は佐藤君の曲で、しっとりゆっくり弾きます」
 喜多が笑いながらステージ最後の曲を紹介。ここだけ、佐藤の作曲を演奏した。
 和音を押さえ、アコーディオンが静かに蛇腹を開く。

 ひょろろろっ。
 素早いバイオリンのフレーズ。佐藤はぽかんと喜多を眺めた。
 そのままゆっくり、アコーディオンが和音を続ける。
 喜多はオブリで、高速フレーズを奏で倒した。・・・言ってることとやってることが違うじゃない。
 途中から佐藤は呆れ顔。大笑いしながらアコーディオンを弾いた。
 中盤アドリブではバイオリンもしっとりと白玉を伸ばす。ロマンティックできれいな曲だった。

 アンコールは曲がない・・・と、喜多がぼやく。
 1stセットを見逃した観客のリクエストで、もう一度"板橋区"を。
 マスターが「クラシックでのアンコールは、そういうのもあり」と言い、自信げに喜多がアンコールを宣言した。

 1stセットとはうってかわり、熱くハードなアプローチの"板橋区"。
 アコーディオンはガシガシ鈍く響かせ、ピアノは重たいコード進行で曲を引っ張る。
 バイオリンは鋭く音を削り、高らかに駈けた。
 中盤は佐藤のシェイカーのみでバイオリンのソロをじっくりと。
 本編よりも濃さをぎゅっと増やした、激しい演奏だった。

 拍手の中、メンバーがステージを降りる。譜面台に置いた佐藤のシェイカーを、喜多が指差した。
「これ、結局使わなかったね」
「・・・今使ったじゃないっ。他の音、ぜんぜん気にしてないでしょ」
 佐藤がつっこみ、吹きだした。ほのぼのした空気のまま、ライブが終った。
 とにかくアンサンブルの響きにやられた。5月に出るというアルバムが楽しみだ。

目次に戻る

表紙に戻る