LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/3/20 大泉学園 in-F
出演:黒田京子トリオ
(黒田京子:p,acc、翠川敬基:vc、太田恵資:vln)
in-Fでの月例ライブ。補助席も全て使う、ぎっしり満員の盛況だった。
司会は例月どおり(?)掟に従って太田が努める。
「まずは即興から」
スッとバイオリンを構えて、弓を動かした。翠川もすかさず加わる。
しばらく弦二本の即興。おもむろに黒田が鍵盤へ指を落とした。
今日はひときわピアノがきれいに響いた。
<セットリスト>
1.即興
2.passing
(休憩)
3.All
things flow
4.link
5.ちょっとビバップ
6.Songs my mother taught me
7.Drum
motion
今回の即興は40分ほどの長尺。あっというまに時間がたつ。素晴らしいかった。
3人の演奏が自在に絡み、強靭なアンサンブルを静かに奏でる。
場面がじわっと変わるさまは物語性を含み、一つの流れが確かにあった。テンションを上げて斬りあわない。ただ、音楽がつむがれた。
太田のバイオリンが冴え渡る。ひとときも休まず旋律を噴出し、とどまるところを知らない。クラシカルからトラッド、ジャズの世界を軽やかに行き来し、うっすらリバーブをかけた音色で、ロマンチックな世界を築いた。
目を閉じ、ひたむきにバイオリンを弾く。今夜の太田はストイックだった。
タールやハンドマイクも用意してたが、一切使わず。歌声もほぼ無し。ずっとバイオリンを奏でた。
溢れるバイオリンとはまた別のベクトルで、黒田のピアノが響いた。
指を柔らかく鍵盤の上を踊る。手首がくるくる動き、打鍵のあとにふわりと手を泳がせた。
ときおりじっと二人を見つめ、きっちりとアンサンブルを産む。
太田や翠川の方向を踏まえつつ、一瞬の隙を逃さずソロに行く。
和音の響きも心地よかった。ふわりと土台を耕し、高音から低音まで滑らかにフレーズが動いた。
翠川がなんだか、今日は抑え目。
メロディ部分は太田に委ね、アルコで静かな刻みを中心に据える。
しかし音楽の停滞は許さない。根本のところは、しっかりチェロが支えてた。
バイオリンのソロが一段落すると、チェロがピアニッシモを強調しフラジオを多用しつつ、豊かに旋律を膨らます。
時に無伴奏で、がっちりと音楽を背負った。黒田も、太田も目を閉じて翠川のチェロへ聴きいった。
コーダを匂わせても、誰かが次の切っ掛けを弾く。たちまち約40分が経過。
弛緩しない構成力に圧倒された。結成当初とはだいぶアンサンブルが変わってる。初期はめまぐるしく奔放に主導権が入れ替わり、お互いのアイディアを交換し合って高める印象あった。
しかし今夜はバンドとして音を組み立て、サウンドに安定感が増していた。
だれかが切っ掛けを出すと、全員が自然にはまる。サウンドの必然性や強度がすごい。
充実した即興だったので、そのまま休憩にはいるかと思った。
ところが翠川は、富樫雅彦の曲"Passing"のオスティナートを弾き始める。
黒田は口笛、太田は鼻歌を歌いながら、コミカルに譜面を繰った。
翠川は楽しげにチェロでベース・パターンを奔放に崩し、ほかの二人が準備整えるのを待つ。
実際はこの曲、ちょっと短めにまとまった。即興のクール・ダウンのようだ。
アコーディオンを構えた黒田は、ふわりふわりと鳴らす。
翠川が完全独奏でチェロを響かせた。美しく透徹なインプロだった。
休憩を挟み、後半はちょっとひねった選曲を並べた。
まずは翠川の曲を連続で。"All things
flow"は、なんだか音の印象が硬い。
ユニゾンでテーマを弾き、即興へ移行するも、膨らますポイントを探しながらもどかしく終ってしまった。
一方で"Link"が、むちゃくちゃに充実してた。"Songs my mother taught me"と並んで、今夜の聴きもののひとつ。
イントロは黒田が縦笛を鳴らす。間をたっぷりとって。
太田はペットボトルを口に当て、ピアノへ向かって息を注いだ。低い音が、残響を持って響く。
しばし笛と息のセッション。翠川は横にあった鈴を取り、軽く鳴らした。
テーマへ雪崩れた時のアンサンブルが素晴らしかった。響きも、からみ方も。
アドリブも聴き応えあり。黒田のピアノが滑らかに迸った。高音で指がからからとはずむ。
"ちょっとビバップ"は黒田の曲。昨年末のライブで披露された。
曲調はプレ・モダンなジャズを連想する。実際、今日の太田はグラッペリのようにスインギーな演奏でフレーズを組み立てた。翠川も指弾きを多用してあおる。
ところが黒田はさらに踏み込んだ。ごつごつっと鍵盤を叩き、よりファンキーでモダンな志向を見せる。意外なひとときだった。
"Songs my mother taught
me"はチャールス・アイヴスの曲。
叙情的なテーマをピアノが提示し、次第に世界が深まる。切なさがみるみる加速し、スケール大きい美しさが広がった。
三人の音が交錯し、高めあう。
すっと音が弾き、翠川だけが残った。ふくよかな旋律をもって翠川は佇む。目を閉じて弓を動かした。外でバイクが、通り過ぎるノイズ。
翠川はたっぷりと、無伴奏でチェロを弾いた。
これで終わりかと思いきや。太田がさらに一曲を演奏、と宣言。珍しいな。
最後は富樫雅彦の"Drum
motion"。ユニゾンでテーマが突き進む。
アドリブはくるくると役割が入れ替わった。太田が左手でまったく抑えず、オープン弦でしばしソロを取る。
ただ、音がつらなった。何の加工もされず。だからこそ、直後の流麗なバイオリンのアドリブがひときわひきたった。
いつのまにか黒田京子トリオのスケールが、一回り大きくなった。
アンサンブルの構築性に磨きがかかってる。互いの音を自然に受け入れて、自分の個性を出すやりとりが、ますますスムーズだ。
今まで幾度も黒田トリオのライブを聴いてきたが、今夜はひときわバンドっぽさを感じた。
今年は来月のクラシック演奏、秋にはサキソフォビアとの共演でホール・コンサートを控えてる。
次のステップへ、どんどん進んで欲しい。音楽がますます楽しくなる。