LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

06/3/18   中目黒 楽屋

出演:板橋+太田
 (板橋文夫:p,per、太田恵資:vln,per,voice)

 最近立て続けな板橋+太田デュオ。先日、アケタでのライブを逃し、ワクワクして聴きに行った。
 楽屋は初めて行った。ずどーんと幅広く、奥が演奏スペース。80人くらいがキャパかな?音響がかなりデッドで、冒頭はピアノがこもってた。
 次第にPAでピアノを上げて良くなったが・・・。太田はマイク・リバーブをたんまりかけた。エレクトリックの時も、マイク・リバーブを巧みに使う。

 開演時間を10分ほど押し、二人はステージに上がり、板橋が挨拶した。
「最初はインプロ。ここ(楽屋)にちなんで、"がくや"の夜」
「・・・"らくや"です、ここは」
 苦笑しながら、太田が板橋へつっこむ。

 イニシアティブは板橋が取った。静かなメロディがじわっと展開するたび、すぐさま太田が旋律をかぶせる。バイオリンのアドリブが活き活き響いても、場面展開は板橋を立ててるように聴こえた。
 1stセットは全てアコースティック・バイオリンだった。猛烈なインプロ合戦を予想したが、端整な構成と曲で進行した。

 メドレーで次の曲へ。板橋のオリジナルかな。ユニゾンでガラガラとテーマが雪崩れる。残念ながら聴き覚えない。
 テーマを幾度も繰り返し、合間に即興を押し挟む。予想以上にきっちりしたかみあいだった。
 やはり板橋が音像が主導権を取る、ふとピアノが四つ打ちで和音を弾く。目を閉じて弾いていた太田が、ちらりと板橋を見た。
 刹那、バイオリンの旋律が溢れる。
 あの瞬間から二人のインタープレイに幅が出た気がする。

 1stセットの曲は5曲ほど。聴き覚えあっても、タイトル思い出せず。
 板橋は時にクラスターやグリサンドを放り込んでも、どこか元気なさげ。尻上りにテンションは上がっても、鍵盤の炸裂具合が物足りなかった。
 そのぶん太田の旋律が前に出て、板橋の叙情性を強調した。
 場面ごとに充実した瞬間は幾度もあり、ソロが終ると大きな拍手もしばしばだった。

 とにかく板橋は存分にルバートさせる。ダイナミズムだけでなく、テンポがめまぐるしく変わる。
 早く、ゆったりと、性急に、じっくりと。小節単位で変わる演奏に、太田は軽々とあわせた。

 前半での太田は技をほとんど挟まず、無心にバイオリンを弾いた。
 ピアノ・ソロでメガホンを持ち上げ、幽かに呟きを入れた程度。ハウリングに苦労しながら、太田の無言語がピアノと溶ける。
 あるときは、アラブっぽい節回しで歌い上げた。カッワーリーのように、ひたむきな力強い声が響く。

 二人の混沌なパワー炸裂は、1stセット最後の曲。
 まずぬっそり立ち上がった板橋が、わしづかみしたスティックでピアノの上をガンガン叩き始めた。実はタンバリンが置いてあった。
 ぼくは気づかず。ピアノを叩いてると勘違い。「店の人に怒られないかなー」とトンチンカンに考えてた。
 さらに左手にスレイベル。両手で闇雲に板橋は叩きのめす。
 太田が英語を取り混ぜ、威勢良くジャズの司会風にミュージシャンや曲紹介を入れた。そして、テーマへ。

 ミンガスの"Jerry Roll"だ。
 ぼくはEmergency!でのテイクしか聴いたことない。そこでの強靭なグルーヴがめちゃめちゃ好き。
 板橋はMCをまったく取らず、テーマまで曲名分からなかった。まさか今日、やると思ってなかったので、すっごく嬉しかった。
 
 ファンキーさは控え、ディキシーランド・タッチで太田のバイオリンが響く。ピアノもスインギーに奏でた。
 しぶといファンクが主題と思ったら、こういうアレンジではプレ・モダンジャズ回帰なコンセプトだと分かる。昔のジャズへのノスタルジーがにじみ出た。
 中盤で太田は野太く吼える。あれはサッチモを意識かな。
 怒涛で盛り上がり、エンディングへ突進する。
「Thank you so much!」
 太田が高らかに叫び、コミカルに曲を終らせた。約1時間のセット。

 30分ほど休憩を挟んだ後半は、ぐっとノリが前のめり。PAバランスも良く、聴きやすかった。
 太田はエレクトリックへ持ち替えた。
 一曲目は"Mercy,Mercy,Mercy"。ワウをかぶせ、くきくきサイケにバイオリンを弾いた。メロディのフェイクはあっても、きっちりとテーマを幾度も提示した。

 エレクトリックだろうと、太田はマイクで生音も拾う。
 さりげなく立ち位置を演奏中に前後する。リバーブ量の調節で、バイオリンの響きに幅を作った。
 この日はサンプラーでの多重奏は無し。板橋がルバートさせまくるため、控えたか。
 かわりにバイオリンを横に構え、オクターブ下げてベース・ラインでバッキングする奏法が目立った。執拗に同じフレーズを繰り返す場面も、太田はサンプリングを使わず、指弾きで通す。

 3曲目あたりで、フェルマータを存分に強調した。板橋のオリジナルか。
 いったん弾かれた旋律は、途中で空に浮かぶ。静寂の中、二人はじっくり間をとった。空調のノイズだけが響く。
 そして、おもむろに二人は演奏を再開。たっぷりと無音を生かしたアレンジが効果的だった。
 聴こえる静寂は緊張じゃない。呼吸を合わせるかのよう。時にフリーな高音フレーズを互いに挿入しあい、空気をかき混ぜた。

 後半も5曲ほど演奏。最後のほうでは、またバイオリンはアコースティックへ変わった。
 2ndセットの後半あたりに、再び板橋はスティックとスレイベルを持つ。ピアノに置いたタンバリンを執拗に叩いた。
 太田はバイオリンを横に置き、タールを捧げてリズムの応酬へ。板橋は汗を飛び散らせスティックを降りまわす。
 椅子へどっかと腰掛けてピアノへ戻った。太田はそのままタールを叩き続ける。
 曲が終わると思わせて、また板橋が再開。執拗に弾きまくり、太田が笑ってたのもここか。

 2ndセットもやはり1時間程度。大きな拍手がやまない。
 しばらくたって、二人はステージへ戻った。チューニングや譜面を探す太田を待たず、板橋はイントロを弾き始める。

 太田はエレクトリックを持ち、ピックでかき鳴らした。
 "さらばジャマイカ"だ。ハリー・べラフォンテで有名な曲。ウクレレのように高音を強調するバイオリンだった。
 ピアノはおっとりと温かいアドリブを、たっぷりとる。

 これで終らないのが、いかにも板橋らしい。すぐさま次の曲へ。聴き覚えあるが、タイトル不明。
 極小ボリュームで互いに目配せしあい、フェルマータを駆使する。

 最後は"For you"で締めた。情感をたっぷり込めたピアノが、バイオリンが、響く。すさまじい演奏だった。
 立ち上がって崩れるように、板橋はグリサンドを二度、三度。賑やかなコーダで、ライブの幕を下ろす。
 ボソッと挨拶し、よろめきながら板橋はステージを去った。

 アンコールだけで15分くらい。サービス精神満点だった。
 インプロ要素は多いが、かなり曲演奏に軸足置いたオーソドックスな構成。
 選曲も意外。場所を考慮か、もともとそういう芸風かは分からない。
 いずれにせよまた聴きたい。とにかく暖かいんだ。二人の作る音楽は。聴いてて、元気出てきた。

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